第464話 一週間に一度、膝小僧を突かれに来る、半ズボンをやめられない世界樹の仮面の変態


「こんにちはー」


 町の教会へやってきた。

 教会の扉を開けて中へ入ると、そこにはちょうど修道女のエルザちゃんがいて――


「あ、また半ズボンをいているわね」


「え? ――あぁっ、そんな。困ります。ダメですってエルザちゃん、困ります。あぁっ」


 教会に着くやいなや、修道女のエルザちゃんから洗礼を受けてしまった。尻尾で膝小僧をツンツンされてしまった。


「今日も今日とて仮面に半ズボン。そんなだから変態って言われるのよ?」


「そんな、僕は変態なんかじゃ……」


 まぁ仮面に半ズボンなのもさることながら、膝小僧を尻尾で突かれてよろこんでいる様は、変態とののしられてしかるべきな気もする。


「――しかしですね、今日はちょっと違うのですよ」


「違う? 何が?」


「この仮面です。実はこれ、ただの仮面ではなく――世界樹の仮面なのです」


 エルフの神様である世界樹様の枝で作った仮面。

 この仮面を変態呼ばわりはいけません。ちょっとした国際問題になりかねませんよ?


「そういえば、そんなものを作っているって話していたわね」


「そうなのです。ようやく完成したので、エルザちゃんにも見てもらおうかと」


「でも、違いがよくわからないのだけど……?」


「……まったく同じニスを塗ってしまったがゆえに」


 形状としては前から使っていたのと同じドミノマスクで、色まで一緒なのだから、よくわからないのも当然であった。


 ふーむ……。色付きはやめようかな? 透明なニスにして、素材の良さを活かす感じにしてみようか。


「で、半ズボンは? 半ズボンの方はやめられないの?」


「別にやめられないってこともないですが、長年そうだったもので……」


 長年半ズボンを履いてきたのだし、今更長ズボンってのもな……。


「そうなのね……。長年変態だったと言うのなら、急に変わるのも難しいわよね」


 違う。そうじゃない。そうは言っていない。誰が長年変態だ。


 ……でもまぁ、『もしも半ズボンをやめたら、エルザちゃんも膝小僧を責めてくれなくなるんじゃないか』なんてことを危惧きぐしている僕は、やっぱり変態と罵られて然るべきな気もする。


「それで、今日も鑑定するんでしょ?」


「あ、はい。そのつもりです」


「つい一週間前に鑑定したばかりだというのに、アレクは本当に鑑定が好きね。――じゃあ応接室まで行きましょうか」


「ありがとうございます」


 というわけで、二人で応接室まで向かう。


 エルザちゃんの言う通り、教会へは一週間に一度通っている。メイユ村では二週間に一度だったが、ラフトの町の教会は一週間に一度だ。


 なにせ僕は旅を続けている身で、この町をいつ離れるかわからない。いつエルザちゃんと会えなくなるかわからない。

 であるならば、とりあえず今のうちに通えるだけ通っておこうという算段である。


 ちなみにだが、最近は教会へ訪れると、普通にエルザちゃんと会えるようになった。僕とエルザちゃんが仲良さげにしているのを知った教会のおじさんやお婆さんが、僕が来るとエルザちゃんを呼んでくれるようになったのだ。

 ――要は指名制。念願の指名制。以前はあんなに苦労していたのに、まるで夢のよう。


 しかし僕が言うのもなんだけど、これでいいのかね……。

 教会のおじさんやお婆さんは、エルザちゃんのお父さんとお婆ちゃんらしいのだが……大事な娘に変態が近付いている状況を、放っておくどころか協力しちゃってもいいのだろうか……。


 いや、まぁ正確には『変態』ではなく、『週一でお金を払って膝小僧を突かれて悦ぶ変態と罵られて然るべき仮面の半ズボン』ってだけだから、実際にはなんの問題もないのだけれどね?



 ◇



 応接室に到着し、『とりあえず鑑定しておくかー』と、エルザちゃんにお金を払ってから、鑑定用魔道具に魔力を流したところ――



 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:18 性別:男

 職業:木工師

 レベル:36(↑1)


 筋力値 25(↑1)

 魔力値 21(↑1)

 生命力 14(↑1)

 器用さ 46(↑1)

 素早さ 7


 スキル

 剣Lv1 槌Lv1 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2 召喚Lv1 ダンジョンLv1


 スキルアーツ

 パリイ(剣Lv1) パワーアタック(槌Lv1) パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) レンタルスキル(召喚Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)


 複合スキルアーツ

 光るパリイ(剣) 光るパワーアタック(槌) 光るパラライズアロー(弓)


 称号

 剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター エルフの至宝 ポケットティッシュ



「おぉ! レベルが…………おぉ?」


 レベルが上がっていた。レベル36。

 うん。それはいい。それはいいのだけど――


「なんか4つ上がっていますね」


「やっぱりそうよね。能力値が4つ上昇」


 『筋力値』、『魔力値』、『生命力』、『器用さ』の四項目が1つずつ上昇していた。合計で4つ上昇。


「これは、レベルアップボーナスで4つと考えていいのでしょうか?」


「うん? それはそうでしょ、他に考えられない――ああ、もしかして日常ボーナスのことを考えているの?」


 日常ボーナス。レベルアップとは関係なく、なんか日常の中でいつの間にか能力値が上がっているボーナス。――その可能性はないのだろうか?


「どうなんでしょう?」


「さすがにそれはないんじゃない? 前回鑑定したのが一週間前だし」


「ふむ。やっぱりそうですよね」


 ここ一週間で日常ボーナスが与えられたと考えるよりは、レベルアップボーナスで4つ上昇したと考えるのが自然か。


 ふむふむ。レベルアップ時の能力値上昇が2つだったり4つだったりってことも、ないことはないとローデットさんに聞いた記憶があるが、こうしてその現象が僕の身に起こったわけだ。何やら縁起が良い。

 ……それにしても、綺麗に『素早さ』だけを避けて上昇したな。


「すごいわね。レベルアップボーナスで4つ上昇――いいものを見せてもらったわ」


「おや、そうですか。喜んでもらえて何よりです」


 だいぶレアな現象らしいからねぇ。

 うんうん。エルザちゃんにも喜んでもらえたし、能力値も4つ上がったし、僕としても大満足な結果であった。

 ……まぁ『素早さ』だけはちょっと残念だったかもしれんが。


「次は2つ上昇を見せてほしいところね」


 期待しているところ申し訳ないけれど、そっちはあんまり見たくないかなぁ……。少なくとも僕の身では……。





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