第462話 ポイントカードはお持ちですか?


 薬草採取の依頼を達成し、冒険者としての第一歩を踏みしめた僕は、仲間とともにギルドの食堂で祝勝会を開いていた。


 ――うん、みんなの気持ちはわかるよ?

『ちょっと薬草を引き抜いただけで、何が祝勝会か』――っていう、みんなの気持ちはわかるとも。


 でもまぁいいじゃないか。なんだかんだここまで結構大変だったんだ。

 依頼を達成するまでも大変だったし、達成したあとも大変だった。……結構な辱めを受けたりもした。


 それらがようやく一段落したところで、ちょっとしたお祝いをするくらいいいじゃないか。いいはずだ。いいと思う。

 というわけで、みんなとささやかな食事会を――


「というか……」


「はい?」


「アタシも居ていいのか?」


「え? ええはい、それはもう、今回の薬草採取はクリスティーナさんがいなければ達成できませんでした。ご迷惑でなければ、是非ともご一緒していただければと思います」


「迷惑ってこともねぇけど……」


 と言いつつ、何やら微妙にソワソワしているクリスティーナさん。

 ふむ……。もしかしたら普段ボッチのクリスティーナさんは、仲間と一緒にいる空間が落ち着かないのかもしれない。


「まぁまぁクリスティーナさんもそう固くならず、楽にしてください。食事をしながらお話するだけですよ。安心してくださいな」


「……なんかムカつく顔してんな」


「おぉう……」


 慈愛の精神でもって、慈愛の眼差しをクリスティーナさんへ向けていたところ、ムカつく顔との評価をいただいた。

 付けている仮面を突破するくらいムカつく顔をしていたのだろうか……。


 失敗してしまったな。どうやら少々不快な思いをさせてしまった模様。むしろ僕としては、クリスティーナさんにも楽しんでもらいたかっただけなのに……。

 そして、できたらこの祝勝会を通じて、もっとクリスティーナさんと仲良くなりたかった。そしてあわよくば、これからも一緒にパーティを組んでほしいなって、そんなことを画策していただけなのに……。


 まぁいい。まだまだチャンスはある。

 今回は『怪我を回復する薬草の採取指導』だったわけだが、『魔力を回復する薬草の採取指導』はまだ終わっていない。

 次回はこの依頼を頼もう。そしてその後は、良い薬草の見分け方やら、薬草がたくさん生えているポイントやら、いろいろと依頼を追加していこう。


 なんだったら、普通の狩りとかでも同行を依頼してもいいかもしれない。そうやって段々とアルティメット・ヘズラトボンバーズへ引き込んでいこう。

 何やら冒険者活動を続ければ続けた分だけ赤字がかさんでいきそうだが……まぁ構わん。金ならある。たんまりあるのだ。


 それにお金は減るけど、一応はギルドポイントも貯まっていく。そういう意味では、完全にマイナスというわけではない。

 なにせギルドポイントが――


「あれ?」


「ん?」


「ふと思ったのですが……ギルドポイントってどうなっているんですか?」


 薬草を納品して、お金だけ貰って帰ってきちゃったけど、ギルドポイントは? そっちはどうなったの?


 普通に考えたら納品時にギルドカードも一緒に提出して、そこでポイントの付与をしてもらう流れだと思うのだけど……。

 ……え、もしかして僕から言わなきゃダメだった? 精算前に、僕の方からカードを提示しなければダメだった?


 ……な、なんてことだ! なんだそれは、どういうことだ!

 それは言ってくれなきゃわかんなくない!? 受付の人が言うべきだろう! 『ポイントカードはお持ちですか?』と、お客さんに尋ねるべきであろうに!


 何故聞かなかったのか! 何故だ! 何をしているんだヒゲの受付さん! ――なんのためのヒゲだ!


「ヒゲめ……」


「……ヒゲ?」


 いやー……まいったなこれ。なにせ初めて達成した依頼だし、できたらそのポイントも貰っておきたかった。

 どうしたもんかなぁ。納品所に戻って、『さっきポイントカードを出すの忘れちゃったんですけど』と伝えたら、今からでも貰えるかな? さすがにもう無理かな?


「もう入ってると思うぞ?」


「はい?」


「ギルドポイント。もう加算されてるはずだ」


「え? ポイントカード――ではなく、ギルドカードの提出とかしませんでしたが?」


「特に何もしなくても勝手に付与されるんだよ。ギルドに納品をしたタイミングで増えたはずだ。カードを更新してみろ、増えてるから」


「なんと、そうなのですか……」


 そんなことが…………あ、そういえば納品所のカウンターには、ギルドではお馴染みのカードをダス魔道具も設置されていなかった。なるほど、そうなのか。そういうことなのか。


 ……勘違いでヒゲの受付さんにひどいことを言ってしまった。

 あとで謝っておこう。立派なヒゲだと褒め称えておこう……。


「しかし、勝手に増えるとは……」


「まぁあれだ、創造神様はいつも冒険者達を見守ってくれていて、その働きに見合ったポイントを、その都度分け与えてくれるわけだ」


「それはまた、なんとも大変な作業ですねぇ……」


 ディースさんの労力がパない……。

 というか常に活動を見守られるって、みんなはどうなの? それでいいの? もしも本当に四六時中見られているとしたら、結構イヤだったりしない?

 ……まぁ僕はもう慣れちゃったからいいんだけどさ。


「さて、そういうことならちょっと更新してみますか」


 僕はマジックバッグからカードを取り出し、更新の準備を始めた。


 はてさて、今回の薬草納品でいったい何ポイント入ったのか。

 まぁただの薬草採取で、そこまで大量のポイントをゲットできたとも思えないところだが……。


 ――だがしかし、僕は寵児ちょうじ

 ディースさんからの寵愛を受けている寵児。今も間違いなくディースさんから見られているであろう寵児なのだ。

 であれば、いったいどれほどのポイントを貰えたのか。


 ルールに厳格なディースさんなら、そんな不正供与はしないんじゃないかって見方もできるが――果たしてどうだろう。

 その評価にディースさんの主観が入ってしまった場合は、ちょっとわからない。


『可愛らしい私のアレクちゃんが、一生懸命薬草を採取している! 可愛らしい!』――みたいな感じで、ちょいとばかし評価が甘くなってしまう可能性だって捨てきれない。捨てきれないと僕は思う。『可愛らしくて加点』、なくはないはず。


 そう思うと、少し緊張してしまうね。

 もしかしたら、いきなりのSランク到達もありえるかもしれない。この木製のギルドカードが、クリスティーナさんのキラキラカードや、ジスレアさんやスカーレットさんのブラックカードにいきなり変貌したりなんてこともありえるかもしれない。そんな期待に胸が高鳴る。否が応でもドキドキしてしまう。


 ――さぁさぁ、どうなのだディースさん!

 無事に成し遂げましたよ! 寵児の僕が、しっかり依頼を達成しましたよ!


 いったい私めに、如何いかほどのポイントを授けてくださるのか――!



 冒険者ランク:Fランク パーティ:アルティメット・ヘズラトボンバーズ


 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:18 性別:男

 職業:木工師


 ギルドポイント:10

 更新日:0日前



 ……10ですって。





 next chapter:優勝するスカーレットさん

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る