第451話 冒険者としての第一歩


 ――ギルドへやってきた。

 僕、ジスレアさん、スカーレットさん、ヘズラト君の四人で、冒険者ギルドまでやってきた。

 言うまでもなく、パーティ登録のためである。


 ちなみにだが、ヘズラト君もすでに自分のギルドカードを所有しているらしい。

 ヘズラト君の知名度アップキャンペーン中、スカーレットさんにいろいろと連れ回されている間にギルドでカードを作ったそうだ。召喚獣でも普通にカードを作れるんだねぇ。


 ――でだ、そういうことならばと、まずはヘズラト君からパーティ登録をしてもらう流れになった。

 やっぱりヘズラト君の名前が入ったパーティ名だしね。まずはヘズラト君から。


 そんな感じで僕達は受付まで進み、ヘズラト君がカードをダス魔道具に自分のカードを差し込む。そして僕が受付員さんに『アルティメット・ヘズラトボンバーズ』のパーティ名を伝える。


 そうして、パーティ名の登録を申請したわけだが――


「はい。登録できました」


「キー」


 おぉ……。できたのか……。

 まぁまず問題ないとは思っていたけれど、無事に登録できたらしい。


「良かったね、おめでとうヘズラト君」


「キー……」


 うん。なんか微妙な顔をしている。

 自分の名前がパーティ名になることに、やはりまだ躊躇ためらいがあるらしい。

 もっと喜んでくれていいのになぁ。僕達に気を遣っているんだろう。ヘズラト君はつつしみ深い。


 とはいえ、さすがにもう変えられないんだ。仮にもチートルーレットで決まってしまった以上、もう変更は不可能。チートルーレットは絶対。

 僕達も認めざるをえない。ヘズラト君も遠慮なく喜んでくれたまえ。


「じゃあ次は私」


 ヘズラト君がカードを回収し、続いてジスレアさんがカードを魔道具に差し込んだ。


「私もパーティの登録。えぇと……『アンリミテッド・ヘズラトボンバーズ』?」


「微妙に違いますジスレアさん。『アルティメット』です」


 もうちょっとパーティ名に興味を持ってくださいジスレアさん……。


 だけどなんというか……そっちの方が良くない? アンリミテッドの方が格好良さげじゃない?

 ……なんてことをしてくれたんだジスレアさん。アルティメットを選択したことを、少し後悔しそうじゃないか。


「――はい、登録できました。変更完了です」


「ありがとう」


 とかなんとかやっている間に、ジスレアさんもパーティ登録が終了していた。

 さてさて、じゃあ次は僕かな。


「それでは受付員さん。僕も『アルティメット・ヘズラトボンバーズ』で…………と、その前に」


「はい?」


「パーティって、すぐに変更できるんですよね?」


 今のジスレアさんもそうだった。元の『ミリアム・ミレニアムズ』から、『アルティメット・ヘズラトボンバーズ』への変更だった。

 しかし特に手間取ることもなく、スムーズに変更できていた。


「であれば……一度『アレクパーティ』と登録していただきたく」


 それだけでいいんだ。それだけ試してはいただけないだろうか。


「……えぇと、まず『アレクパーティ』と登録してから、『アルティメット・ヘズラトボンバーズ』に変更ですか?」


「できますでしょうか?」


「ええ、それは可能ですが……」


「でしたら、是非に」


 是非にお願いしたい。

 『エルフルズ』や『世界樹様を守り隊』まで試してくれとは言わない。『ギリギリなさそうだけど、実はやっぱり存在していたパーティ名を探るゲーム』を始めたりもしない。だからどうか『アレクパーティ』のチェックを、何卒なにとぞ


「そうか、試すのかアレク君」


「すみません、これだけは試しておきたくて」


 スカーレットさんからは、『ありきたりで、なんの捻りもない』と言われてしまったパーティ名。

 果たして本当にそうなのか、当然のように使用中なのか、それを確認しておきたい。


「……わかりました。では、魔道具にカードをお願いできますか?」


「ありがとうございます」


 僕は自分のカードをカードをダス魔道具に差し込み、受付員さんが魔道具を操作するのを待つ。


 ――さぁどうなのだ。果たして登録できるのか否か。

 この世界に『アレクパーティ』は、存在しているのか否か――!


「はい、登録できました」


「えっ」


「はい?」


「できたんですか?」


「ええ、できましたが」


 できるのか……。そうか、そうなのか……。


「できましたねスカーレットさん」


「できるんだなぁ。てっきり誰かが――世界のどこかのアレク氏が、登録しそうなパーティ名だと思ったけど」


「ですよねぇ」


 僕もそう思っていた。すでに使用中で登録できないと思っていた。


 ……でも実際に登録できたとなると、それはそれでなんか微妙な気持ちになるな。

 世界のどこかのアレク達は、何故このパーティ名を使用しないのか。……もしや、ありきたりだからではあるまいな? ありきたりすぎて、陳腐ちんぷ凡庸ぼんような名前だから避けたのではあるまいな?


 違うと信じたいが……。実際には人気のパーティ名で、解散やらなんやらで、たまたま今このタイミングだけ空いていたのだと、そう信じたいところだけど……。


「お手数おかけしました。では、『アルティメット・ヘズラトボンバーズ』の方を」


「かしこまりました。――はい。登録完了です」


「ありがとうございます」


 『アルティメット・ヘズラトボンバーズ』への変更も無事に完了した。こうして『アレクパーティ』は、再びこの世界から消失した。

 世界のアレク達よ、今がチャンスだ。


「じゃあ最後に私か」


 僕がカードを回収した後、スカーレットさんがカードを魔道具に差し込んだ。


「では…………『スカーレット親衛隊しんえいたい』で登録してもらえるかな?」


 ここへきて、スカーレットさんが新しいパーティ名を繰り出してきた……。


 おそらく『フリードリッヒ・ヴァインシュタイン二世親衛隊』から着想を得たのだろう。

 スカーレットさんが、自分の親衛隊を探し始めた。


 果たして、存在するのだろうか……。


「……登録できました」


「…………」


 この世界に、スカーレットさんの親衛隊はいないらしい。


「スカーレットさん……」


「…………」


 いやでもほら、そういうのって勝手に結成するもんでもないでしょう? スカーレットさんからの公認が取れなくて結成できなかっただけで、スカーレットさんに憧れて親衛隊を結成したいと思っていた人はたくさんいるはずなのですよ。

 だからスカーレットさん、そう落ち込まんと……。



 ◇



 全員無事に『アルティメット・ヘズラトボンバーズ』のパーティ登録が完了したところで、受付を離れ、ギルド内に設置されているテーブルに着いた。

 そして僕は、自分のギルドカードを眺める。



 冒険者ランク:Fランク パーティ:アルティメット・ヘズラトボンバーズ


 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:18 性別:男

 職業:木工師


 ギルドポイント:0

 更新日:0日前



 うんうん。良いね。こうしてパーティ名が付け加えられただけで、一段とギルドカードっぽくなった雰囲気がある。


「冒険者としての第一歩を踏み出した感じです」


 ようやくパーティも正式に結成。これからパーティメンバーといろんな冒険をしていくのだ。

 これが始まり。これが冒険者としての第一歩。


「冒険者としての第一歩?」


「そんな心境です」


「ギルドカードを取得したときにも、アレクはそんなことを言っていた」


「あれ?」


 えー? あ、そうか。確かにそのときも同じことを思ったか。それで、後からジスレアさんに伝えたんだっけかな?


 なんだかんだで、あれから二週間も経ってしまったからな……。

 二週間の停滞で、すでに第一歩を踏み出したことも忘れてしまっていた。第一歩もどっかへいってしまっていた……。


「それでアレク、これからどうする?」


「そうですね、やはりここは――」


「もう帰る?」


「……何故に?」


 ようやくパーティも結成できて、これからだというのに、何故帰るのか……。


「アレクの冒険者活動は、とてもゆっくり。一歩進んだ後は、十歩くらい下がるのが常。今回もそうかと思った」


「…………」


 まぁ、わりと何も言い返せない。


「そういう意味では、今アレクが言った『冒険者としての第一歩』というのも、あながち間違いではない。ギルドカードを作って第一歩を踏み出して、それから十歩後退して、パーティを結成してまた第一歩を踏み出した」


「むぅ……」


 まぁ、わりと何も言い返せない。

 実際何も進んではいないからなぁ……。


「とはいえ、私も宿でのんびりするのは嫌じゃない。というわけで、別に帰っても構わない」


 そう言われちゃうと、なんか帰ってもいいかなって思っちゃう僕がいたりもするけれど……。


「――ですが、今回は違います。今回はこのまま進みます。このまま冒険者として、二歩も三歩も進んでしまいます」


「ふむ。ということは、今から依頼をこなすのかな?」


「そのつもりです。……まぁ今の僕では掲示板に貼られているような依頼は受けられないらしいので、やるのは常設依頼ですね」


「素材やらなんやらの納品か」


「そうなります。おそらくスカーレットさんやジスレアさんからしたら、手応えのない依頼になってしまうのですが……」


「構わないとも。せっかくパーティを組んだんだ。みんなで行こうじゃないか」


「ありがとうございます」


 そう言ってくれるのはありがたい。……とはいえ、おそらく本気で手応えのない依頼なんだよね。少なくとも、勇者様や聖女様がこなすような依頼ではないと思う。


「それで、今回僕が納品したい素材。いたい常設依頼が――」


「薬草採取だね?」


「そうです」


 薬草採取の依頼。昔からの目標だった。念願と言ってもいい。是非ともこの依頼を達成したい。

 このことは以前から口にしていたので、スカーレットさんもわかってくれているようだ。快く付き合ってくれるらしい。


「ジスレアさんとヘズラト君も、構いませんか?」


「大丈夫」


「キー」


 よしよし。それじゃあみんなで出発だ。


「いやはや、ただの薬草採取とはいえ、パーティメンバーとともに依頼任務に出発する――なんだかわくわくしますね。これはもう、冒険者としての第二歩と言っても過言ではないのでは?」


「まだまだ第一歩を踏み出した段階だと思う。第二歩はおろか、第一歩を踏みしめるところまでいっていない」


「そうですかー……」


 ジスレアさんは厳しいなぁ。判定が厳しい。

 まぁいいさ。無事に薬草の納品が終わって依頼達成したら、さすがに第一歩だと認めてくれるだろう。


 それじゃあサクッとこなしてこようかね。念願の薬草採取の依頼を達成し、冒険者としての第一歩を踏みしめるのだ。

 まぁ念願の依頼ではあるけれど、難度自体は高くない。そこら辺に生えている薬草を引き抜いてくるだけだ。軽くこなせるだろうさ。





 next chapter:それはタンポポです

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