第450話 結成! アルティメット・ヘズラトボンバーズ!


「ほーん」


 朝起きて、いつものようにDメールのチェックをしたところ、ナナさんから興味深いメールが届いていた。

 ナナさんによる――僕の能力値の考察だ。


 チートルーレットレベル30の景品により、僕はレベルが5上がった。

 そのときに上昇した能力値が――


 レベル:35(↑5)


 筋力値 24(↑3)

 魔力値 20(↑3)

 生命力 13(↑2)

 器用さ 45(↑6)

 素早さ 7(↑1)


 ――こうである。反復横跳びをしたのに、こうなのだ。


 この情報をナナさんにも伝え、『なんでこうなったんだろう?』と意見を求めたところ、ナナさんなりの考えを聞くことができた。


 ナナさん曰く――『元の能力値を参考にしているんじゃないか』という話だった。


 元から伸びていた『器用さ』がさらに伸び、『筋力値』『魔力値』『生命力』はそこそこ伸びて、伸び悩んでいた『素早さ』はあまり伸びていない。

 おそらくこれまでの成長度合いを見て、そこから上昇する値が決められたんじゃないか。僕が飲んだのは、そういう薬だったんじゃないか――それがナナさんの考察だ。

 ナナさんは、『現在の能力値を7で割ってみるとわかりやすいかもです』なんてことも言っていた。確かに割ってみると、上昇した能力値に近い値が出てくる。


 なるほどねぇ。なんか納得できる気がする。

 ということは、やっぱり反復横跳びは意味がなかったのか……。


 まぁ普通に考えると、これはこれでありがたい仕様ではあるんだよね。

 これなら能力値が変に伸びることもなく、変に伸びないこともない。今まで通りの成長曲線だ。だいぶ親切な仕様だったとも言える。


「どうかしたのかな?」


 メールを見ながらふんふんうなっていたところ、スカーレットさんに声を掛けられた。


「えっと、僕の能力値について、いろいろとやり取りをしていまして」


「そうか。まぁあんまり気にしないことだ。まだまだこれから『素早さ』が伸びる可能性だってあるさ」


「…………」


 何故か『素早さ』についてスカーレットさんに励まされた。

 別に『素早さ』の話をしていたわけでもないんだけど……。


「でも、そうですね。伸びますよね」


「ん?」


「これから『素早さ』が伸びていくこともありますよね?」


「…………」


「スカーレットさん?」


「…………」


 そう励ましてくれたのはスカーレットさんだというのに、何故答えないのか。


「そんなことよりもアレク君、今日こそパーティ名の登録だね」


「……ええ、そうですね」


 露骨に話題を変えられた……。

 いや、別にいいんだけどさ……。


紆余うよ曲折きょくせつあったが、ついに我々のパーティ名も決まり、ようやく登録だ」


「そうですねぇ、決まりましたねぇ。僕達のパーティ名、その名も――アルティメット・ヘズラトボンバーズ」


 アルティメット・ヘズラトボンバーズ。

 それが、チートルーレットにより決定した僕達のパーティ名である。


「良かったんじゃないですかね。当のヘズラト君は困惑して恐縮していましたが、良いパーティ名だと思います」


 勇者様やら聖女様やらを差し置いて、自分の名前をパーティ名に付ける――そりゃあ恐縮してしまうのも納得だ。僕も最初は同じ心境だった。


 その後、そんな気持ちもどっかへすっ飛んで、スカーレットさんと醜い争いを続けていた僕だったりもするが……とりあえずこうして決まってみると、ヘズラト君のパーティ名で良かった気がする。

 もしも僕かスカーレットさんのパーティ名に決まっていたら、僕達の間で遺恨が生まれていただろう。そうならなくて良かった。なんだかんだで丸く収まった。


 それにヘズラト君は、このパーティで一番の常識人――常識鼠だ。真面目で頭が良くて常識鼠のヘズラト君をパーティ名に据え置くことは、間違った選択ではないと思う。


「何よりヘズラト君の知名度を上げることは、僕達の重要課題でしたから」


「そうだね。その点でもこのパーティ名は悪くないと思う」


 いくらヘズラト君が真面目で頭が良くて愛嬌があって社交性が高いモフモフの常識鼠だったとしても、一応はモンスターであり、町の人には怖がられてしまうかもしれない。

 そうならないためには、ヘズラト君の知名度やら認知度やらを上げることが重要。このパーティ名は、ヘズラト君の知名度アップの助けになるかもしれない。


 ――ちなみに、この町へ来てからスカーレットさんには移動中ヘズラト君に乗ってもらうようお願いしている。これもヘズラト君の知名度アップキャンペーンの一環だ。


 確かこの手法は、カーク村でもカークおじさんにも頼んだやつだ。『カークおじさんがヘズラト君に騎乗することで、カーク村の人達もヘズラト君に慣れ親しんでもらおう作戦』だったかな? 今回は、スカーレットさんにその作戦を遂行してもらっている。


 その件に関して教会のエルザちゃんも口にしていたし、そこそこ話題にはなっているようだが……でもエルザちゃんから聞いた話では、どうもヘズラト君が話題というよりも、『大ネズミに乗る、勇者を名乗る謎の女性』って感じで注目が集まってしまっているような……。


 ……まぁいいや。とりあえずスカーレットさんは頑張ってくれている。僕が文句を言えることじゃない。

 なにせ僕にはできない作戦だ。僕がヘズラト君に乗ったら、『大ネズミに乗る、謎の怪しい仮面の半ズボン』と噂になってしまう。ヘズラト君まで怪しい鼠扱いをされてしまう。


「さて、それじゃあそろそろ出発しますか」


「そうだね、そうしよう」


「ギルドでサクッと登録してきましょう」


「うん。おそらく今度こそ、無事に登録できるとは思うんだけど……」


 つぶやくように返事をしてから、腕を組み、何やら考え込むスカーレットさん。

 はて、何か気になることがあるのだろうか?


「どうかしましたか?」


「ふと思い出したんだけど、名前が長い以外にも、パーティ名を登録できないパターンがあるんだ」


「え……」


 え、何それ。そんなのあるの? 登録できないパターン?

 もしや――まだ続くのか? 散々引っ張って、ようやく解決したと思ったパーティ名問題が、まだまだ続くというのか!?


「……そのパターンというのは、いったいなんなのでしょうか?」


「実はだね――すでに使われているパーティ名は登録できないんだ」


「んん……? えっと、それはつまり――」


「もしもすでに誰かが『アルティメット・ヘズラトボンバーズ』というパーティ名で登録していたら、私達は登録できない」


「あー……」


 あれか、なんかのサービスの新規登録とかで、『そのユーザー名は、すでに存在しています』とか言われて、登録できないパターンのやつだ。

 そうか、ギルドのパーティ名でもそんな決まりがあるのか。


「……え、でもいますかね? 今までに『アルティメット・ヘズラトボンバーズ』で登録した人なんて、考えられますか?」


「例えばだけど、もしもどこかに究極的な爆発魔法を使うヘズラト氏がいた場合、すでに使われている可能性が……」


「うーん……」


 あるかなぁ……。さすがにないような気もする……。

 百歩譲って、究極的な爆発魔法を使うヘズラト氏が存在していたとしよう。しかし、その人物がパーティ名に『アルティメット・ヘズラトボンバーズ』を選択するって可能性まで考えると、確率はだいぶ低そうだけど……。


 ……というか、そう考えると僕らはなんなんだろうね。

 別にヘズラト君は究極的な爆発魔法を使えるわけでもない。なんか語感のみで『アルティメット・ヘズラトボンバーズ』って付けちゃったけど、改めて考えるとどうなのかね。


「それにしても、そんな条件があるとしたら……『アレクパーティ』はダメだったかもしれないですね」


「あぁ、確かにそうかもしれない。『アレク』という名前もありきたりだし、『アレクパーティ』というパーティ名も、なんの捻りもない名前だ。すでに使われていたとしても不思議じゃない」


 ありきたりで、なんの捻りもない……。


「あとはそうだな――『真紅の旅団』『深緑の猟団』辺りもダメだったかもしれないね」


「あー、確かに」


 特に『深緑の猟団』とか、エルフ族の誰かがすでに付けていそう。

 他にもエルフなら、『エルフルズ』やら『世界樹様を守り隊』等の名前も、すでに使っていたりするのかな?


 ふーむ。なんかちょっと試してみたくなってきた。試して、いろいろと探ってみたい。

 そして、ギリギリを攻めてみたい。『ギリギリなさそうだけど、実はやっぱり存在していたパーティ名』を探ってみたい。そんなゲームをスカーレットさんと一緒にやってみたい。





 next chapter:冒険者としての第一歩

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