第443話 総集編7 ――謎しかない鑑定結果


 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:18 性別:男

 職業:木工師

 レベル:35(↑5)


 筋力値 24(↑3)

 魔力値 20(↑3)

 生命力 13(↑2)

 器用さ 45(↑6)

 素早さ 7(↑1)


 スキル

 剣Lv1 槌Lv1 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2 召喚Lv1 ダンジョンLv1


 スキルアーツ

 パリイ(剣Lv1) パワーアタック(槌Lv1) パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) レンタルスキル(召喚Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)


 複合スキルアーツ

 光るパリイ(剣) 光るパワーアタック(槌) 光るパラライズアロー(弓)


 称号

 剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター エルフの至宝 ポケットティッシュ(New)



 ――なんじゃあ! ポケットティッシュってなんじゃあ!


 ……いや、うん、わかっている。

 まず間違いなくレベル35のチートルーレットで手に入れたポケットティッシュのことだろう。


 それはわかるが、称号って……。よりにもよって、称号って……!


「なんだかすごいわね……」


 隣で鑑定結果を眺めていたエルザちゃんも、そんな言葉をぽつりと漏らした。


「そうですね……。さすがに僕も予想外でした。まさかこんな結果が出るとは……」


「……そうなの?」


「ええはい。なんででしょうね? 何故こんなことになったのか……」


「……私からすると、アレクが今どれのことを言っているのかわからないのだけど?」


「はい?」


 え、ポケットティッシュでしょ? ポケットティッシュ以外に、どこか不思議な部分が?


 ――あ、でも、そうか。


「どのステータスも謎すぎて、アレクが何を見てうなっているのか私にはわからないわ」


「なるほど……」


 まぁそうだよね。初めて僕のステータスを見たエルザちゃんからすると、どこもかしこも謎だらけで、謎しかない鑑定結果だろう。スキルも称号も、わりとしっちゃかめっちゃかになっているし……。

 ……だとしても、やっぱりポケットティッシュが一番の異彩を放っているような気もするけど。


「ちなみに、エルザちゃん的にはどこが気になりましたか?」


「全部ね」


「全部ですか……」


「まず名前から」


「そこから……?」


 名前にすら疑問を持たれてしまう僕の鑑定結果よ……。


「あなたはアレクじゃないの?」


「え、そうですけど……あ、そういうことですか」


 名前欄に『アレク』ではなく『アレクシス』と書いてあったことが、エルザちゃんは気になったらしい。

 そういえば僕もそうだったな。僕が初めて鑑定したときも、鑑定で表示された自分の名前に驚いた記憶がある。


「そうなんですよ、実は僕の名前は――というかよくよく考えると、ちゃんと自己紹介をしていなかった気がしますね」


「そうだった?」


 エルザちゃんは僕のことを神父さんから聞いていたらしいので、なんかそのまま普通に会話を進めてしまった気がする。自分からはしっかり名乗っていなかったんじゃないかな?


「というわけで改めて――僕はアレクといいます。遠くから旅をしてきたエルフで、仮面を付けていたり半ズボンを履いていたり鑑定結果が謎だったりしますが、別に怪しい者ではないです。悪いエルフではないのです」


「怪しいか怪しくないかはさておき、自己紹介でもアレクシスと名乗っていないじゃない」


 何故さておくのか。何故そこはちょっと保留したのか。


「えっと、一応フルネームだとアレクシスらしいんですよ」


「らしいて」


「いかんせん僕のことをフルネームで呼ぶ人がほぼいないもので……。両親ですら呼ばないです」


 むしろ父や母にアレクシスと呼ばれた記憶がない。

 誰か呼ぶ人いたっけか? レリーナパパくらい? あとは……ヘズラト君とかは『アレクシス様』って呼ぶかな? まぁヘズラト君の場合は、僕の翻訳がそうなっているだけって可能性もあるけれど。


「そんなわけで自分でも忘れそうになるくらいの本名なのですが、鑑定ではしっかりアレクシスと出るんですよね」


「ふーん? んで――アレクシス、エルフ、十八歳」


「ええはい」


「十八歳……」


 鑑定結果を目で追って確認するエルザちゃん。次に気になったのは年齢欄らしい。


「アレクは十八歳なのね。やっぱり私より――」


「――ダメです」


「え?」


「何を考えているのですかエルザちゃん。今、何を言おうとしたのですか?」


「何をって……」


 今の流れ、ひょっとすると自分の年齢を申告しようとしたんじゃないか?

 私より何歳年上とか、私より何歳年下とか、そんな感じで話そうとしたんじゃあないのか?


「ダメです。落ち着いてください」


「私は落ち着いているけど……」


迂闊うかつすぎます。そんなことを話して、下手したら――町の警備の人にしょっぴかれてしまいますよ? エルザちゃんもそうですし、エルザちゃんを働かせている教会の神父さんも、ついでに僕も、まとめて逮捕されてしまいます」


「なんでよ……」


 でもまぁ、エルザちゃんはきっと十八歳以上なので、別に問題がないはずである。

 うん、僕はそう信じている。十八歳以上としか思っていなかった。だから警備の人、そこはしっかり理解してほしい。


「さぁさぁ、危険な話は止めにして、次に行きましょう」


「さっきからわけがわからないのだけど……。えぇと、次に気になるといえば――」


 僕に促され、再び鑑定結果に視線を落とすエルザちゃん。

 改めて考えると、別にわざわざ全部の説明をすることもないのだけど……まぁいいや。なんかそんな流れになってきたので、この際エルザちゃんと一緒に自分のステータスを改めて確認していこうではないか。


「やっぱり気になるのは、能力値よね」


「おや、どの辺りでしょう? やっぱり高い『器用さ』でしょうか? あるいは『生命力』ですか? まぁ弓を使って遠距離で戦うエルフは、必然的に『生命力』の値が低くなりがちというデータが――」


「『素早さ』」


「…………」


 微妙にその話題から逃げようとしたのだけど、逃げ切れなかった。ここでも逃げ切るだけの素早さが足りなかったか。


「遅いわね」


「…………」


 ずいぶんとまた忌憚きたんのない意見が……。


「けどまぁ、予想通りかしら」


「……予想通りとおっしゃいますと?」


「初めて会ったときから、なんか動きがもっさりしていると思ったの」


「もっさり……」


 そうなんか……。これでもじわじわ上がっているんだけど、まだ足りてないか……。


「――ハッ!」


「え?」


 というか、忘れていた! うっかり忘れていた!

 『称号:ポケットティッシュ』のインパクトに押されて、『素早さ』のことがすっぽり頭から抜け落ちてしまっていた!


 それで結局、僕の『素早さ』が――7!

 ダメだった! やはり『素早さ』21なんてのは、夢幻だった!


 あぁ、悲しいなぁ……。やっぱりダメだった。『素早さ』21の夢はつゆと消え、『素早さ』7の現実が待ち構えていた。

 薄々僕も感づいてはいたけれど、こうして現実を数字で突き付けられちゃうと、悲しみが溢れてくる。


 それにしても……なんだろうねこれ。どういう理由でこういう結果になったんだろう。どういう処理がされて、この結果が出たんだろう。

 今回の鑑定で示されたレベル上昇や能力値上昇は、すべて『レベル5アップボーナス』によってもたらされた上昇だ。反復横跳びをしながら『レベル5アップボーナス』の薬を飲んだ結果が、これなんだけど……。


 何やら『器用さ』の上昇がすごいし、やっぱりナナさんが言っていた通りなのだろうか?

 ナナさんは『反復横跳びをしながら飲み物を飲むとは――ずいぶん器用な真似をしましたね』なんて言っていた。『素早さ』プラス15どころか、『器用さ』プラス15を予想していたくらいだった。

 そして実際に『器用さ』の伸びがすごかったわけで……ナナさんの予想が的中なのかな?


 でも『魔力値』とかも普通に上がっているのよね。これがわからん。

 『魔力値』やら『筋力値』やら『生命力』よりも、『素早さ』の伸びが悪いってのは、さすがに変じゃない?


 うーむ、謎だ。あとでナナさんにも鑑定結果を伝えて意見を聞いてみようか。ナナさんも結果が気になっていたみたいだし、Dメールを送っておこう。


 ……あ、あとミコトさんにも伝えねば。

 反復横跳びをしている僕を応援してくれたミコトさんにも、『今回は残念な結果になってしまいました。力及ばず、申し訳ない』的なメールを送っておかねば……。


「どうかした? なんだかずいぶん考え込んでいるけれど?」


「あぁ、すみません。なんというか『素早さ』7について、いろいろと思うことがありまして……」


「『素早さ』7ねぇ……」


「『素早さ』7なんですよねぇ」


「私よりも遅いわね」


「…………」


 そうなんだ……。


「あ、比べたらいけないのかしら?」


「……いえ、それは別に」


 年齢は比べられたら困るけど、『素早さ』は別に……。

 まぁ比べられて嬉しいもんでもないけど……。





 next chapter:総集編8 ――便利なスキル

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