第436話 パーティ名問題2
「ええはい。それはわかります。それはわかるんですよスカーレットさん」
「ふむ」
「僕とジスレアさんとスカーレットさん――この三人パーティと考えた場合、むしろ僕なんておまけです。実力も経験もなく、お二人に付いてきただけのお荷物です。――とはいえ、とはいえですよスカーレットさん」
「ふーむ」
「一応この旅は、僕がメインなんです。僕がメインで、僕が成長するための旅なんです。世界を巡り、世界を知り、エルフとして立派に成長する――それが僕の使命で、そのための旅なんです」
「そうだっけ?」
「そうなのです」
僕自身、わりと忘れがちな使命ではあるが、一応そういう目標があって旅をしている。
「そういった面も考慮して、ここはひとつ――『アレクパーティ』でいかがでしょう?」
「アレクパーティか……」
「ジスレアさんとスカーレットさんを差し置いて、このパーティ名を付けること――これは僕の覚悟です。決意表明です。与えられた使命を果たすため、どうかこの名前を付けさせてください」
――といった感じで、僕とスカーレットさんは熱い議論を交わしていた。ギルドに登録するパーティ名についての議論だ。
どうにか自分のパーティ名を認めてもらうよう、僕はスカーレットさんに熱弁を振るっていた。
「なるほど……。うん。アレク君の意思はわかった。覚悟も伝わった」
「お、そうですか。では――」
「――とはいえ、とはいえだよアレク君」
「……はい?」
「そういうことならば、是非私にも協力させてほしい」
「協力ですか……?」
「なにせ私は勇者で、スカーレットという名前は有名でもある。そう考えると、やはりパーティ名には私の名前を入れた方がいいんじゃないだろうか? 勇者スカーレットのパーティということであれば、様々な場面で有利に働くはずだし、多様な経験も積めるはずだ。アレク君の旅を成功させるため、私の名前を利用してくれて構わない」
「はぁ……」
スカーレットさんの方からも、早口で熱弁を振るわれてしまった。
「というわけで――『スカーレットと愉快な仲間達』でどうだろう?」
「…………」
さすがにそれはちょっと……。愉快な仲間にされてしまうのはちょっと……。
「……ジスレアさんはどう思いますか?」
ジスレアさんに話を振ってみた。
どうしましょうジスレアさん。このままだと、僕もジスレアさんも愉快な仲間にされてしまいます。
「ん? あぁ、うん。私のことは気にしなくていい。二人で決めて」
「んー……」
どうやらジスレアさんは、パーティ名についてあまり関心がないようだ。
先ほどから議論には加わらず、静かに本を読んでいる。
でも、それでいいのですかジスレアさん? 愉快な仲間扱いですよ……?
「あれ? そういえばジスレアさんのパーティ名はなんだったんですか?」
「私のパーティ?」
「ジスレアさんと、父と母とリザベルトさんのパーティです。どんな名前でギルドに登録したのでしょう?」
いわゆる――森の勇者パーティ。
周りからはそう呼ばれていたらしいけど、実際にはなんという名前だったのだろう?
あるいは、そのまま『森の勇者パーティ』で登録したのだろうか?
しかし父は勇者と呼ばれることが苦手だったみたいだし、その名前で登録するとも考えにくい。
であるならば――みんなが付けたパーティの正式名称は、いったいなんだったのか?
「覚えてない」
「…………」
覚えていないほどか……。そこまでパーティ名にこだわらないのかジスレアさん……。
僕やスカーレットさんがこれほどまでにこだわっているというのに、まるっきり真逆である……。
「でもギルドカードに書いてあるはず。アレクが気になるなら、ちょっと見てみようか」
「あぁ、今はまだジスレアさんもパーティに所属中なのですね。では、お願いしてもいいですか?」
「少し待っていて」
ジスレアさんは、本にしおりを挟んでから閉じ、マジックバッグに手を伸ばした。
そして黒いギルドカードを取り出し、視線を落とす。
「えーと――うん? ミリ? ミレ? んん?」
「どうかしましたか?」
「なんだか妙に読みづらいパーティ名で……。えぇと、パーティ名は――『ミリアム・ミレニアムズ』」
「ミリアム・ミレニアムズ……」
そんな名前だったのか……。どういう流れで、その名前が付けられたのか……。
とりあえず母の名前をメインにもってきて、それでいて千年生きるエルフらしく、ミレニアムとか付けたようだが……。
――しかし悪くはないな。軽く
「なるほど。では、『ミリアム・ミレニアムズ』を参考にさせてもらって、僕達のパーティ名は――『アレクシス・ミレニアムズ』ということで」
「待てというのに。私の名前を使えというのに。それならば『スカーレット・ミレニアムズ』でいいだろう」
「むぅ……」
サラッと自分の名前をパーティ名にしようとしたが、またしてもスカーレットさんのブロックにあってしまった。
「しかしですね、スカーレットさんは――――あ、けど、そうか」
スカーレットさんは人族だし、千年も生きないから――そんなことを思った僕だったけど、よくよく考えると、この人エルフの秘薬で若返っているんだった。
あるいは千年以上生きるのかもしれない。ひょっとすると、僕達よりも全然長生きする人なのかもしれない。
それどころか、すでに現時点で千年以上生きている可能性すら……?
「……なるほど、確かに僕はもう少し譲るべきなのかもしれません」
「おや?」
そこまでの年長者の言うことなら聞くべきであろう。なにせ千年だ。
先ほど僕は、『スカーレットさんがパーティに加入して、百人力だ』などという感想を持ったわけだが――もはや百どころではないな、千だ。きっとこっちも千はある。千人力で、一騎当千だ。
「なんといってもスカーレットさんは――一騎当千の
「ぶん殴るぞアレク君」
……古強者の部分が気に障ったらしい。威圧されてしまった。
「……えぇと、とりあえずスカーレットさんもジスレアさんも一騎当千ということで、合わせて二千人相当。というわけでパーティ名は――『アレクパーティ2001』でお願いします」
「結局あんまり譲ってないぞアレク君……。というか、アレク君は『1』なのかな? さすがにそれは
「アレクパーティ2001夏」
「え? 夏?」
何やら年号っぽくなったので、季節も付け加えてみました。
◇
結局『アレクパーティ2001夏』も却下されてしまった。
どうにも平行線だ。お互いの主張がぶつかりあって、結論が出ない。
「わかりました。ここまで
「と言うと?」
「――お金を払います」
金だ。金で解決しよう。前世では、ネーミングライツなるものがあった。それを真似て、スカーレットさんにお金を払うことで命名権を譲ってもらおうじゃないか。
というわけで、伝家の宝刀『お金を払います』である。
とはいえ、この伝家の宝刀、あんまり上手くいった試しがないからな……。クリスティーナさんのときも失敗続きであった。
おそらくスカーレットさんも、あっさりと断って――
「お金? えっと、それはどれくらいの額なのかな……?」
「あれ?」
おぉう。意外や意外。微妙に伝家の宝刀が効いている。ちょっぴりスカーレットさんが揺れている。
……なんかもう、スカーレットさんはさすがだな。常に僕の予想を超えてくる。さすがはスカーレットさん。
「アレク。そういうのはよくない」
「――ハッ。……あ、うん。そうだぞ? よくないぞアレク君?」
本を読みながらも、こちらの話は聞いていたようだ。ジスレアさんから
そしてスカーレットさんも、ジスレアさんの言葉を聞いて我に返ったらしい。
「そもそもだね、この勇者スカーレットさんを金でどうにかしようだなんて間違っているぞ? とても心外だ。私は金で転ぶような勇者じゃない」
「はぁ、すみません」
だいぶ転びかけていたようにも見えたけど……。
「んー。とりあえずもうちょっと、お互い譲り合いましょうか」
「確かにこのままだと
「試しに――自分の名前は禁止にしましょう」
「なるほど?」
『アレク』と『スカーレット』を禁止ワードにして、それでお互いに建設的な意見を出し合っていこうじゃないか。
「なんにせよ、やはり私としては格好良いパーティ名を付けたい気持ちがある」
「ほうほう。例えばどんな感じでしょう?」
「例えば――『真紅の旅団』」
「ほう」
「他には――『ヴァーミリオン・ルーラー』
「ふむ」
「あるいは――『クリムゾン・セレスティアル・パニッシャー』
「なるほど……」
……赤ばっかじゃない? 『スカーレット』以外の赤で攻めてきてない?
だがしかし……案外悪くないな。スカーレットさんが提案してきたパーティ名、方向性としては嫌いじゃない。個人的には嫌いではないぞ。
「僕からも提案していいですか?」
「ん? ああ、もちろんだとも」
「例えば――『
「おや?」
「他には――『ビリジアン・トラジェディ』」
「むむ?」
「あるいは――『エメラルド・レイジー・アービトレイター』」
「なるほど……」
僕も三つほど思い付いたパーティ名を挙げてみた。
それを聞いたスカーレットさんは、じっくりと
「ほうほうほう。――やるなアレク君」
「いえいえいえ、スカーレットさんこそ」
なんだかスカーレットさんとわかり合えた気がする。未だにパーティ名自体は全然決まっていないが、心は通じ合えた気がする。
そんな感じで、僕とスカーレットさんの絆が深まったパーティ名候補であったが――
「……二人とも、さっきから何を言っているの?」
ジスレアさん的には、わけがわからないものだったらしい。
そうも冷静に聞き返されると、ちょっぴり恥ずかしい。
next chapter:アレク君は女好き
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