第435話 パーティ会議


 僕とジスレアさんとスカーレットさんの三人は、宿に戻ってきた。


 ――三人だ。

 三人で戻ってきた。残念ながら、クリスティーナさんは付いてきてくれなかった。


 無念である。ひょっとすると、結構なハーレムパーティっぽいものを結成できるんじゃないかと密かに期待していたのだけど――あえなく失敗した。


 なんだかなぁ……。思い返すと、僕の誘い方に問題があったような気もする。

 やはり、『クリスティーナさんはお友達がいないみたいですし、それなら僕のパーティに入りますか?』――といった内容の誘い文句になってしまったのがまずかったか。


 よくよく考えると、その誘い方ではクリスティーナさんもパーティに加入したいとはあんまり思わないだろう。

 この会話によって、クリスティーナさんにもてあそんでもらうことは成功したが、パーティ加入は失敗してしまった。


 失態も失態。大失態である。悔恨に胸を焼かれる。慚愧ざんきに堪えない。僕としたことが、目先の欲に溺れてしまった。

 ……まぁ案外それはいつものことのような気もするが、とりあえず溺れて沈んでしまった。


 ひとまずクリスティーナさんとは――


『ギルドにはよくいるから、また会うこともあんだろ。またなアレク』


『はい、ありがとうございました。あ、今日は大変お世話になったので、少しばかりのお礼を――』


『金ならいらねぇから……』


 ――といった会話を交わした後、ギルドで別れた。


 また会ってくれるということなので、折を見てパーティ加入の打診は再び試みようと思う。

 次はもっとちゃんとお願いしよう。もっとしっかりと僕の誠意を見せよう。


 そんな思いを胸に秘め、僕達三人はギルドを出て、拠点としている宿に戻ってきた。


「ではでは、今後の予定について会議を始めたいと思います」


 三人で会議だ。四人での会議にならなかったことは残念だが、ここは切り替えていこう。これからどう動くか、いろいろと相談したいことがある。


「それで、僕もギルドカードを作ってもらったわけですが――あ、見ますか?」


 そうだな。とりあえず二人にも僕のカードを見てもらおうか。

 ブラックカード持ちの二人に木製カードを見せるのは、なんだか少し気後れしてしまうけど、見てもらった方が会議もスムーズに進むだろう。


「アレク」


「はい? なんでしょうジスレアさん」


「ギルドカードは、あんまり人に見せるような物じゃない」


「え? あ、そうなんですか?」


「鑑定結果ほどは情報も載っていないし、そこまで絶対というわけでもないけれど、それでも他の人に見せるのは避けるべき。町の検問とか以外では、出さないのが普通」


「なるほど……」


 ふーむ。ギルドカードもそうなのか。

 どうにもこの世界は、個人情報の扱いが慎重だ。その点に置いては、ちょっとばかし時代の先を行っている。


「――うん。それでもだ。アレク君がどうしてもと言うのならば、私がアレク君のギルドカードを確認しようじゃないか」


「……はい?」


 スカーレットさんからの妙な提案。

 別にどうしてもってほどではないのだけど……。


「まぁスカーレットさんが見たいと言うのなら……」


「――待ってアレク。そのギルドカード、写し画はどうなっている?」


「え? あぁはい。仮面を付けたままカードを作成したのですが、写真――写し画には、僕の素顔が載っていました」


「そう……。それならカードを出してはいけない。スカーレットは、その写し画を狙っている」


「狙って……?」


 あ。あー、そういうことか。スカーレットさんは、僕の素顔に並々ならぬ関心を持っているから……。


「ち、違うぞ? 私はただ純粋に、カードを見てほしいというアレク君の意向を汲んで――」


「例え写し画でも、見たらきっとスカーレットは発情する。あるいは、もうすでに発情しているかもしれない」


「もうすでに発情はおかしいだろう……」


 まぁ僕の写し画を見た人がどうなるのかって部分は、一応確かめておいた方がいいような気もするけれどね……。


「とりあえず、今回は出さないことにします」


「むーん……」


「それで、えぇと――」


 なんだっけか。のっけから、ずいぶんと話が脱線してしまった。


「あぁそうだ、冒険者ランク。ひとまずこのランクを上げたいと思います」


 冒険者ランクだ。やっぱりFはイヤなので、サクサクっとランクを上げていきたい。


「それで、実際のところはどうなのでしょう? 例えばFからEランクに上げるには、どれくらいの期間を必要とするものなのでしょうか?」


「それは人による。私なんかは冒険者になった時点でレベルも高かったし、すぐにランクアップしていたと思う」


「ほうほう」


 まぁそうか。普通のエルフならば、森から出られるのは百歳を超えた年齢からだと聞いたことがある。

 ジスレアさんもそうだとしたら、その時点で結構な実力者だったはずだ。ランクもサクサク上げられたことだろう。


「私は結構掛かったかな?」


「おや、そうなんですか?」


「私が冒険者になったのは、ずいぶん若い頃――――違う。それだと今が若くないみたいじゃないか」


「僕は何も言っていませんよ……」


「だからなんというか――今よりは。今よりは若い頃で、まだ大して強くなかった頃だ。そんなわけで、かなり時間が掛かった記憶がある」


 ふーむ。やっぱりジスレアさんの言う通り、人によりけりなのね。

 実力者ならサクサクだし、実力が足りていなければのんびりなわけだ。


 そこへいくと……僕の場合はどうだろう? ちょっとわからない。そもそもの話、今僕がどのくらい強いのかってのもよくわからない。

 そこそこは経験もあるはずで、現状でもFランクより上の実力はあると思うのだけど……。


 ……でもなぁ。なんだろうね。なんとなく僕とか、かなり長い間Fランクで停滞してしまうような予感もある。

 今までの人生を鑑みるに、そういう残念な展開が待っているような気がしてならない……。


 ……ディースさんがサービスしてくれたらなぁ。

 ランクを上げるためのギルドポイントは、創造神様であるディースさんから貰えるという話だ。もしもディースさんが僕にサービスしてくれるのならば、僕もサクサクっと最上位まで上り詰められるはずだが……。


 あとは、パーティシステムがギルドポイントにどう影響するのかも気になる。

 僕にはジスレアさんとスカーレットさんという心強い仲間がいるわけで、二人に強いモンスターを倒してもらえば、僕も大量のポイントを獲得できるのではなかろうか?

 ……まぁ、俗に言う寄生プレイなのだけれども。


 ディースさんからの不正供与を期待したり、パーティメンバーへの寄生をくわだてたりと、ろくな発想が出てこないな……。

 ……まぁいいや。何はなくともパーティだ。ジスレアさんとスカーレットさんに、パーティ加入を申請せねば。


「あと、パーティのことなのですが――」


「あぁそうか。じゃあせっかくだし、パーティを組む?」


「いいんですか?」


「大丈夫」


 おー、よかったよかった。

 二つ返事どころか、話題を振っただけでジスレアさんが了承してくれた。ありがたい。


「うんうん。もちろん私も構わないとも」


「それはそれは、お二人とも、ありがとうございます」


 これまたありがたい。無事に二人ともパーティ加入。勇者様と聖女様がパーティ加入だ。百人力と百人力で、二百人力くらいあるはずだ。


 ……そこへ僕が加わると、二百一人力とかになっちゃうのかね。

 そう考えると、微妙にやるせなさを覚える。


「では後でパーティの登録に行きましょう。――あぁ、それからパーティ名のことですが、便宜上べんぎじょう必要ってだけみたいですし、適当に僕が考えておきますね」


「――待ってくれアレク君」


「…………」


 サラッと提案して、サラッと了承を得て、こっそり自分好みのパーティ名を付けてしまおうとたくらんでいたところ――スカーレットさんに待ったを掛けられた。


「……何か?」


「パーティ名に関しては、私を頼ってくれてもいい」


「……なるほど」


 言い方だけはソフトに提案しているふうだけど――圧を感じた。

 パーティ名は私に決めさせろという、スカーレットさんからの圧を確かに感じた。


 そうか、スカーレットさんも自分でパーティ名を決めたいのか……。

 とはいえ、こればっかりは僕もそう簡単に譲れないわけで……。


 ふむ。まさかこんなところで、スカーレットさんと争うことになろうとは……。





 next chapter:パーティ名問題2

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