第434話 僕の生態

※『第434話 パーティ会議』の予定でしたが、都合により予定を変更してお送りいたします。誠に申し訳ございません。

※第433話の『恒常依頼』を、『常設依頼』に変更します。誠に申し訳ございません。

※カークおじさんの初登場時の年齢を、『三十四歳』から『三十一歳』に変更します。誠に申し訳ございません。

―――――――――――――――――――――――――――――――――


「なんだよ、そういうことだったのか。アタシときたら、うっかり勘違いしちまって……二人とも悪かったな」


「構わない」


「うんうん。構わないとも」


 というわけで、僕をかばうためジスレアさんとスカーレットさんに食って掛かったクリスティーナさんであったが――もろもろ誤解だったこともわかり、三人とも和解できた。何よりである。


「ではでは、改めて紹介させてください。お二人がギルド長さんとお話をしている間、僕にギルドの説明をしてくれたのが――こちらのクリスティーナさんです」


「大したことはしてねぇけどな」


「いえいえ、大変助かりました」


 本当の本当に助かった。クリスティーナさんがいなければ、二人が戻ってくるこのときまで、僕は一人で椅子に座って縮こまっていたことだろう。

 ……あるいは、その姿を二人にじっと見られることになっていたかもしれない。その場面を想像すると、だいぶ震える。


「そしてこちらの二人が、僕の旅に同行してくれているジスレアさんとスカーレットさんです」


 続いて、クリスティーナさんにもジスレアさんスカーレットさんを紹介する。


「私はジスレア。よろしく」


「やぁやぁ初めまして。私がスカーレットさんだ」


「ああ、二人ともよろしく。クリスティーナだ」


 うんうん。良いね。

 美人さん三人が集まって交流を深めている画は、なんだかとても良い。


「あ、せっかくですし、できたらお二人とも、クリスティーナさんのお友達になってあげてくれませんか?」


「あん?」


「どうやらクリスティーナさんは、あんまりお友達がいないようで――」


「あぁん?」


「むー、むー」


 良かれと思って提案したのに、逆にクリスティーナさんからとっちめられてしまった。

 ……まぁ、この流れを期待していなかったかといえば、それは嘘になるが。


「ところでよ」


「むー?」


「スカーレットって言ったか?」


「むー」


「スカーレット……。その名前は、どこかで……」


 どうやらクリスティーナさんは『スカーレット』という名前に聞き覚えがあるらしい。

 やはりクリスティーナさんも、『撲殺勇者スカーレットさん』を知っているのだろうか?


「ふふふ。ひょっとして、知っている名前だったりしたのかな? そうとも、何を隠そう私は――」


「そんなことよりも」


「うぉい」


 自慢げに自己紹介を始めようとしたスカーレットさんを、ジスレアさんが遮った。

 なんと無体な……。スカーレットさん的には一番の見せ場だっただろうに……。


「そんなことよりも、クリスティーナ」


「うん? なんだ?」


「あなたは美人だし、話した感じ、性格も優しそうにみえる」


「え? いや、別にそんなこともねぇけど……」


 ありますとも。そんなことありますともクリスティーナさん。

 何やら軽く照れている様子のクリスティーナさんに、少しほっこりする。


「気を付けた方がいい。きっとあなたは――アレクに目を付けられた」


 ……言い方悪いなぁジスレアさん。


「目を付けられたってのは、なんだか穏やかじゃねぇな……。目を付けられるとどうなるんだ? アレクがアタシに、何をするってんだ?」


「きっとアレクは、あの手この手であなたにお金を渡そうとする」


「はぁ……?」


 おぉぉ……バレてる。ジスレアさんに、僕の生態せいたいがしっかりバレている……。

 確かにジスレアさんの言う通りではある。というか、もうすでに三回ほどお金を渡そうとして断られた事実がある。


「ちなみに私も、アレクからは何度もお金を渡された」


「そうか……。えっと、それで金を渡されると、どうなるんだ?」


「アレクが気持ち良くなる」


「意味がわからねぇ……」


 ……もうそこまでバレてしまっているのか。

 金銭を供与する行為そのものに僕が喜びを覚えていると、すでにそこまで看破されてしまっているらしい。由々しき事態だ。


 あるいはこれも、長い間一緒に旅をしてきた結果なのだろうか。ジスレアさんがいろいろと僕のことに詳しくなっていて、少し照れる。


「というわけで、気を付けるように」


「何を気を付けろってんだ……。とりあえず、理由もなく金を受け取ることはしねぇよ」


 ということは――理由があれば、クリスティーナさんもお金を受け取ってくれるらしい。

 この部分、あとでメモしておこう。


「さて、それでアレクは、クリスティーナからギルドの説明を受けたという話だったけど?」


「ああはい。説明してもらって、ギルドカードも作ってきました」


 うんうん。ギルドカードだ。二人がギルド長さんのところへ行ってしまった間に、しっかりギルドカードを作っておいたのだ。

 クリスティーナさんのおかげで、二人にこのセリフを言うこともできた。ありがとうクリスティーナさん。


「それでですね、これからの予定なんですが――」


「うん」


「いったん宿に戻っていいですか?」


「宿に? うん。それは別に構わないけど」


 とりあえずの目的は達成できた気がするので、いったん宿に戻って、今後の予定を話し合いたい。いろいろと相談したいこともあるのだ。


「というわけで――クリスティーナさんも一緒に来ませんか?」


「……は? いや、なんでだよ」


「まぁせっかくなので」


「何がだよ……」


 せっかくなので、クリスティーナさんも誘ってみた。


「ちょっと考えたんですけどね、よかったらクリスティーナさんも――しばらく僕達と一緒に行動してみませんか?」


「んん? アレク達と一緒に?」


「ほら、クリスティーナさんはパーティが組めないことを寂しがっていたじゃないですか。『アタシもヒーラーの仲間がほしいなぁ』的なことを、言っていたじゃないですか」


「言ってねぇし、寂しがってもいねぇ」


「むー、むー」


 またしても僕はクリスティーナさんにむぎゅっとされて、むーむーと言わされてしまった。


 ……よしよし。これはもうあれだな、パターンだな。完全にパターン入った。今後もこれでいけそうだ。

 僕の生態に詳しいジスレアさんも、これで僕が喜んでいるとはまだ気付いていないはず。なにせ僕自身が今まで知らなかった僕の生態だ。気付かれるまではまだ時間がある。こっそり楽しんでいこう。


 そういえば、パーティメンバーであるジスレアさんとスカーレットさんの了承も得ずに、クリスティーナさんをパーティに誘ってしまったわけだが……そこはあんまりよろしくなかったかもしれない。

 とはいえ、ジスレアさんもクリスティーナさんのことを『優しそうな美人』と評していたし、悪い印象はもっていない様子。ならば普通に受け入れてくれるのではないだろうか?


 改めて考えると、クリスティーナさんがどのくらいの冒険者ランクで、どんな戦い方で、どれほど強いのかすらもわからないわけだが――なにせ優しい美人だ。

 であれば、強さとかそんなんは些末さまつな問題。僕としては、是非ともパーティに入ってほしい。


 というわけで、どうですかクリスティーナさん。我がアレクパーティに、是非。





 next chapter:パーティ会議

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る