第424話 ラフトの町の冒険者クリスティーナ


 冒険者ギルドにて、いきなりガラの悪い冒険者に絡まれる異世界転生者。

 ――テンプレである。まさしくテンプレ的展開。


 さらにテンプレ展開が続くとしたら、その転生者は転生時に貰ったチートを用いて、絡んできた冒険者を成敗せいばいする流れだろう。そこまでがテンプレだ。


 だがしかし、僕の場合はどうしたらいいものか。

 僕の場合、転生時に貰ったチートはとても酷いものだった。というかタワシだった。さすがにこの場面で使えるようなチートではない。


 あとは仮面の下に隠されている素顔も、転生時に貰ったチートと呼べそうではあるが……。

 まさか……それを使えと言うのか? おもむろに仮面を外し、チートフェイスで冒険者をやっつけろと、そういう話なのか?


 ……大丈夫かな。

 今回絡んできた冒険者さんは、えらい美人さんなんだけど、そんな美人さんをチートフェイスで成敗……?

 なんかそれだとR-18っぽい流れになってしまいそうなのだけど、いろいろと大丈夫なのだろうか。


 といった感じで、僕がろくでもないことを悩んでいると――


「うぉっ、なんだお前」


「はい?」


「なんだそれ……? 仮面か?」


 ふむ。僕が冒険者さんの美人さんっぷりに驚いたのと同様に、冒険者さんも僕の仮面に驚いたらしい。

 というか、冒険者さんが僕の仮面を見て驚くまでのわずかな時間で、僕ときたら、ずいぶんと深くまでろくでもない思考を巡らせてしまっていたようだ。


「なんだって、そんな仮面を……」


「あー。えっと……防御力? 防御力が上がるかなと」


 せっかくの冒険者ギルドだし、冒険者っぽい理由で説明してみた。

 この場でとっさに考えた理由だが、『イケメンすぎるから』とか『シャイなので』やらの理由よりは、なんぼかマシだったりしない?


「防御力って……。頭は無防備なんだから、脳天カチ割られたら終わりじゃねぇか」


「…………」


 なんか怖いことを言われた。

 やっぱりこの冒険者さんは、美人さんだけど言葉遣いが荒っぽいというかなんというか、いろいろとワイルドだね……。


 確かにこの仮面は目元しか覆われていないので、防御できる面積は少ない。そもそも素材もただの木なので、仮面の防御力も少ない。

 実のところ、今までは仮面による防御とか考えたこともなかったのだけど……もう少し大きめの仮面で、世界樹の枝とかを素材に使ったら、結構良い防具になったりするかな?


「――あん? というか、よく見るとあんまり子供でもねぇな」


「はぁ。確かにもう子供という年齢ではないかもです」


 冒険者さんからは『いつからここは、子供の遊び場になったんだ?』というテンプレセリフを後ろから投げ掛けられた僕だが、実際にはもう十八歳。もうあんまり子供ではないかもしれない。

 冒険者さんも、正面から改めて僕の顔やら体つきやらを確認した結果、そう感じたらしい。


「背中を丸めて縮こまっていたから、子供に見えたんでしょうか?」


「それもあるけど――半ズボンだったから」


「半ズボン……」


 それはなんとも予想外。そうか、そんな理由だったか……。


「大人はあんまり半ズボンって履かないですかね……?」


「あんま履かねぇんじゃねぇか? つうか、なんで半ズボンなんだ?」


「なんでと聞かれましても……母が半ズボンばっかり渡してくるもので」


「母親の……。そこは微妙に子供っぽいな」


「むぅ……」


 母親に服を用意してもらうのは、確かに子供っぽいかもしれない……。


 まぁ今僕が履いている半ズボンは、自分で用意したものなんだけどね。

 カーク村で新調したものだ。そこで新しく買ったズボンで……お願いして半ズボンにしてもらった。

 もう半ズボンじゃないと、落ち着かない体になってしまったのだ。


「まぁいいや。子供じゃないなら別にいい。じゃあな」


「え? あ、ちょ、待って! 待ってください!」


「うぉ、なんだおい。やめろ」


「もうちょっと付き合ってください! もうちょっとだけ、お時間ください!」


 話を切り上げて立ち去ろうとした冒険者さんを必死に繋ぎ止める。

 なんだか強引な訪問販売っぽくなってしまい申し訳ないのだが、こちらとしても必死だ。


 ずっと一人で不安だったんだ。どうやら悪い人でもなさそうだし、できたら一緒にいてほしい。

 もしかしたら、次は本当に悪い冒険者に絡まれるテンプレが発生してしまうかもしれない。そんな未来を回避するためにも、できたら協力してほしい。


 あとはまぁ、そういった諸々の事情を抜きにして、美人さんだし、もうちょっと話したいという気持ちが僕にあることは正直否定できない。


「お願いします。どうかもう少しだけお話を……。あれです、僕とかまだ子供です。子供と言ってもいい年齢なはずです」


「さっきと言ってることが違うじゃねぇか……」


 違うけれども。でもその辺り、十八歳はちょっと微妙なラインだと思うのです。子供か子供じゃないか、微妙なお年頃だと思うのです。

 というわけで、どうか――


「どうか、どうかもうちょっとだけ……」


「なんなんだよ……」


「わかりました。お金なら払うので、もうちょっとだけ……」


「なんでそうなんだよ……。というか、子供はそんなこと言わねぇだろ……」





 next chapter:ラフトの町の冒険者クリスティーナ2

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