第411話 絶対イケメンなんかに、負けたりしない!!


 スカーレットさんと出会ってから二週間ほど経ったが、僕は今までスカーレットさんに素顔を見せたことがなかった。いつもスカーレットさんとは仮面状態で接していた。


 そして今回、その仮面に隠された僕の素顔が見たいと、そんなことをスカーレットさんが言い出した。


「なんだか見る機会がないまま、気付けばここまで来てしまったが――そろそろいいんじゃないかな? これからは一緒にパーティを組む仲なんだし、そろそろ見せてくれてもいいじゃないか」


「はぁ……」


「アレク君は私の恥ずかしいところを見たのだから、アレク君だって私に見せるべきなのではないだろうか」


「ちょっと理屈がわからないのですが……。というか、パジャマ姿は別に恥ずかしいところではないと思います」


 まぁパジャマはさておき、どうしたものかな。

 確かにスカーレットさんの言う通り、同じパーティメンバーなのに顔すら知らないってのは、少し問題な気もする。


 だったら見せるべきなのだろうか? 見せてもいいのだろうか?

 うーむ。困ったな。これは困っ…………うん? いや、別に困ることでもないか?


 とりあえず僕からすると、見られて困ることはない。見られるのがイヤってわけでもないし、見せても全然構わない。

 そりゃあカークおじさんみたいに会話もできないくらい固まってしまったら困るけど、そうしたらまた仮面を装着し直せばいいだけだ。ちょっと見せるくらいなら、別に問題はないだろう。 


「――それは危険」


 見せてもいいのかなーって思い始めたところで、ジスレアさんがカットインしてきた。

 ふむ。ダメなのか。危険なのか。


「いきなりこんなところでスカーレットに発情されても困る」


「いきなりなんてことを言うんだジスレア」


 ……そんなことになったら、そりゃあジスレアさんは困るだろう。

 うん。僕も困ってしまう。それはそれは困ってしまう。


「というか、普通に大丈夫なんじゃないかな? えぇと、『イケメン』だっけ? アレク君がどれほどのイケメンだったとしても、きっと私は大丈夫」


「……そう?」


「そうともさ。アレク君の父親であるセルジャンだって顔は良かった。とんでもないイケメンだった。でも私は大丈夫だった。別に発情なんてしなかった。それに私は勇者で、いろんな場所にいろんな知り合いがいる。結構なイケメンも各地で見てきた。――でも私は大丈夫だった」


「それは……確かに一理ある。スカーレットは長く生きているだけあって、その分いろんなイケメンを見てきた。イケメンに耐性みたいなものがあるかもしれない」


「『長く生きている』とか、別に言わなくてもいいのだが?」


「うん。それじゃあ試してみよう。よくよく考えると、実際に見たらどうなるかをしっかり確認しておくことも必要な気がする」


 そういう結論になったらしい。僕の意見は聞かれぬまま、勝手にそんな結論が導き出された。


「別に僕はいいですけどね……。えぇと、それじゃあ外しますよ?」


「よしよし。楽しみだ」


 何やらホクホクしているスカーレットさん。

 まぁそうね、スカーレットさんのお眼鏡にかなうといいね。


 しかし実際に外すとなると……少し照れるな。こんな感じで満を持して素顔解禁とか、なんだかちょっと恥ずかしい。

 ……なるほど、スカーレットさんがパジャマを恥ずかしがっていた気持ちが、僕にも少しわかった。


 とはいえ、いつまでも恥ずかしがってもじもじしていたところで、むしろ仮面を外しづらくなるだけだろう。ここは男らしく、バシッと披露しよう。

 そう考えた僕は意を決し、仮面を外す作業に移る。


「では――『ニス塗布』」


 仮面を手で押さえたまま『ニス塗布』を唱え、接着用のニスを仮面から剥がす。

 ニスがなくなったことで、顔と仮面との接着も外れた。


 そして僕は仮面を外し――スカーレットさんに素顔をさらした。


「おぉ……。おぉぉ……!」


 僕の顔を見て、何やら唸り声を上げ始めるスカーレットさん。

 何やらカークおじさんとは少し違った反応だ。


「はい、えぇと、こんな感じで――――え? ちょ」


「おぉぉぉ!!」


 しばらく唸り声を上げていたスカーレットさんだったが、唐突に――――僕に向けて両手をにゅっと伸ばしてきた。


「おぉぉぉん!! ――痛い」


 伸ばした両手は、ジスレアさんにペシッと叩き落とされた。


「やっぱり発情した」


「ち、違う!」


「だったら今のは何? アレクに何をしようとした?」


「それはちょっとわからない!」


 わからないのか……。だいぶ混乱しているなスカーレットさん……。


「その、自分でもよくわからないことになっていた。まさかここまで美しい顔だとは……。普段のアレク君の言動からすると、もう少しぼんやりした顔かと思っていた」


 どういう意味か。


「すごいなこれは……。あぁ、すごい……。すごいよぉ……」


「スカーレット」


「あ、いや、大丈夫。大丈夫だとも……」


 そう言いながら、ふーふーと荒い呼吸を繰り返すスカーレットさん。


 どうでもいいのだけど、ふーふー言いながら腕を押さえて『静まれ……。静まれ……!』と呟く姿は、どことなく中二病患者を彷彿ほうふつとさせる。

 カッコいい偽名を使ったり、指抜きグローブを愛用するスカーレットさんには、ある意味似合っているポーズとも言えそう。


 だがしかし、これが中二病じゃないとすれば……もうこれは、普通に性的な興奮を覚えている状態ってことになってしまうのだけど……。


「ふーふー……。ふー……。ぐぬぬ……」


「あの、大丈夫ですか……?」


「ま、負けない! 負けないぞ! 私は勇者なんだ! ――絶対イケメンなんかに、負けたりしない!!」


「…………」


 なんて負けそうなセリフだろうか……。

 二コマ目には、堕ちていそうなセリフである……。





 next chapter:地元でダンジョンやってます

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