第407話 新生アレクパーティ、始動


 教会から帰ってきた。


 スカーレットさんが教会のお爺さんに対し、勇者の威嚇いかく――

 もとい、勇者の威光いこうを示し、ディース神像の寄贈きぞうが無事に完了したところで、カークおじさん宅に帰ってきた。


 そしてそのまま僕とスカーレットさんは客室に移動。

 ジスレアさんを加えた三人で、作戦会議を始めた。


「――というわけで、そろそろ動き出してもいい頃合いかと存じます」


「なるほど」


「むーん」


 今回の議題は、『いい加減、旅を再開してもいいんじゃないか』というお話である。

 これに対し、ジスレアさんは『なるほど』、スカーレットさんは『むーん』という返答だった。


 むーんってなんだ、むーんって……。


「えぇと、何か問題がありますでしょうか?」


「もう少し、のんびりしてもいいような気がしないでもない」


「もう少しですか……」


「なんだかこの家はとても居心地がいいので、もう少しダラダラしたい」


「むーん……」


 その件に関しては、僕も同意せざるを得ない。

 しかしスカーレットさん、僕らはもう二ヶ月近くこの家でダラダラしているのですよ? これ以上ダラダラするのは、さすがにどうかと思うのですよ……。


 ……でもまぁ、スカーレットさんはまだ一週間か。僕達は二ヶ月弱だけど、スカーレットさんは一週間しかダラダラしてないわけだ。

 それにスカーレットさんは、忙しい勇者の身でありながら急いでここまで来てくれたという話だし、そういうことなら、やっぱりもうちょっと出発を延期しても……。


「出発しようアレク。このままだと、ずるずると行くとこまで行ってしまう危険性がある。スカーレットの口車に乗ってはいけない」


 ……今まさに、スカーレットさんの口車に乗りかけていた。


 まぁ口車っていうほどよこしまな意見だとは思わないけど、確かに危険な意見ではあった。

 なまじ僕の中にものんびり欲が多量にあるため、スカーレットさんに流され、そのままずるずる行ってしまう危険性は大いに秘めていた。


「んー、まぁいいか。うん、それじゃあ出発しよう。出発はいつかな?」


「そうだな……さすがに準備ができていないから、少し時間がほしい。食料も買っておきたいし、そもそも今現在の所持品も、よくわからなくなっている」


 これだけ長いこと居候生活を続けていたら、それはそうなるわな……。

 だとすると、改めて所持品チェックをして、それから足りないものを調達した後に出発する感じか。


「三日もあれば準備できると思う。四日後には出発しよう」


「ふむふむ。つまり、あと三日はゴロゴロできるのか」


 ……スカーレットさんと同じことを僕も考えてしまった。


「そして四日後には、いよいよみんなとパーティを組んで出発か。それはそれで普通に楽しみではあるね」


 そうね。いよいよ旅の再開。パーティ再始動。

 長い充電期間を経た後、新メンバーのスカーレットさんを加えて、新パーティとして再出発!


 ――新生アレクパーティの、新たな門出である!


 …………。


 ……ついアレクパーティとか言っちゃったけど、それもどうなのか。

 勇者様が加入した時点で、それはもう勇者パーティになるんじゃないの? 勇者様を差し置いてアレクパーティとか、それはちょっとおこがましいんじゃない……?


 どうなんだろう……。いや、そりゃあ別に勇者パーティでもいいよ? それでもいいんだけどさ……新メンバーにいきなりセンターを奪われたようで、なんだかちょっと悔しい気持ち。

 一応この旅は僕がメインの旅なわけだし、ここはひとつアレクパーティでお願いできないだろうか……。


「アレク君も期待しておいてほしい。私も今日のことで自信がついた」


「はい? なんですか? 自信?」


「困難な物事を、勇者の威光で解決する自信」


「…………」


 ……スカーレットさんに、おかしな自信を付けさせてしまった。


 いや、うん。たぶん大丈夫。スカーレットさんも基本的には悪い人ではないと思うし、僕に対しても『この村にいる若い女を差し出せー、みたいなことは言わないぞ?』なんてことを言っていた。

 一応は、その辺の分別ふんべつもきちんと付いているはず。いきなり勇者という立場を悪用して、私利私欲に走ったりはしないはず。たぶんそのはず。


「そういうわけで、旅の間は任せてくれたまえ。なにせアレク君には、勇者の威光と聖女の威光がついているのだから」


「はぁ、ありがとうござ…………聖女?」


 何やら唐突に、スカーレットさんから謎のキーワードを提供された。聖女? 聖女とは……?


「どうしたアレク君、まさか勇者の威光を疑っているのかな?」


「いえ、そういうわけではないのですが……」


 というかその威光は、安易に使わないでいただきたい……。


「そうではなくて、聖女とはなんでしょう?」


「ジスレアのことだが?」


「ジス……え、そうなんですか?」


 ジスレアさんが聖女……?

 スカーレットさんの発言を聞き、ジスレアさんに視線を移すと――


「職業が聖女」


「職業……?」


「だから、森の聖女なんて呼ばれることもあった」


「森の聖女……」


 ジスレアさんが、案外サラッと答えてくれた。至って冷静に、平然と淡々と。


 ……ふむ。ジスレアさんは自分の職業について、だいぶフラットな感情をもっているらしい。

 どうも父や母とは、とらえ方が違うようだ。父の場合は自分の職業に対して恥じらいを覚えていたし、母なんて怒りすら覚えている様子だった。


 ……あ、そういえば以前、賢者という職業に激怒していた母に、『聖女とかよりはマシじゃない?』なんてことを心の中で思ってしまった記憶がある。

 今となっては、とてもじゃないけど言えない台詞だ。むしろ、あのときそんなことを考えてしまい、現役聖女のジスレアさんに申し訳ない……。


「……しかしそうでしたか、ジスレアさんは聖女様だったんですね」


「うん。『回復』スキルは得意だから」


「なるほど……」


 聖女といえば『回復』スキル。確かにわからんでもない。

 まぁそれだけで聖女になっちゃうのも、それはそれでなんか違うような気もするけど……。


 しかし聖女か……。聖女様。ジスレアさんが聖女様……。

 なんだろう。なんだか少しドキドキする。聖女様ってキーワードだけで、どうにも胸が高鳴ってしまう。

 今までの美人女医って肩書だけでもドキドキさせられていたのに、それに加えて聖女様だ。もう僕はどうしたらいいのか。いったいジスレアさんは、僕をどうしようというのか。


「それにしても勇者様と聖女様ですか。なんだかすごいですね。すごいパーティです」


「ふふーん」


「それほどでもない」


 自慢げな勇者様と、それに対して平然と――いや、微妙に自慢げにもしているかな? なんかそんな感じの聖女様。


 さておき、こうなってくると……ますますパーティ内での僕の立場が危うい。

 勇者様がいたり、聖女様がいたりするパーティだ。その二人を差し置いてアレクパーティと名乗るのは……やっぱりどう考えてもおこがましい。


 というか勇者と聖女とか、ちょっと属性が強すぎるでしょうに……。

 それに対し、僕の職業は木工師である。なんだこれは。この差をどう埋めろと言うのか。木工師が、どうやって勇者や聖女に立ち向かえというのだ。





 next chapter:さようならカークおじさん。ダメだったら、また一ヶ月後に逢いましょう

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