第356話 オムレツ食べます?


 ある秋の日に――


「ただいまー」


「オムレツ食べます?」


「……え?」


 家に戻ってきた僕が帰宅の挨拶を告げたところ――ナナさんからオムレツを勧められた。


「今日のオムレツはなかなかです。なかなか上手に仕上がったと自負します」


「そうなんだ……。うん。夕ごはんに食べるよ」


 何やら最近オムレツ作りにハマっているらしいナナさん。隙あらばオムレツを勧めてくる。


「オムレツはさておき、ちょっといいかなナナさん」


「はい? なんでしょう? 私はこれからお祖父様の分のオムレツを焼こうと思っていたのですが」


 ……こうして父も、毎日オムレツを食べさせられている。


 まぁ、なんだかんだナナさんは料理上手なので、僕も父も美味しくオムレツをいただいている。

 今はまだ美味しい。今はまだ……。



 ◇



「どうぞ」


「夕ごはんで食べるって言っているのに……」


「出来立てを召し上がっていただきたいのですよ」


 父の分は後で焼くことにしたらしく、ナナさんはそのまま僕の部屋まで付いてきてくれた。

 ただし、オムレツは持参してきた。今食えとのことだ。


 しっかりフォークも添えられていたので、フォークで一口サイズに切って口に運ぶ。


「うん。美味しいよ。ふわふわだし」


「そうでしょうそうでしょう」


「というか綺麗だよね。見た目がすごく綺麗」


「いやいや、照れますね」


 などと言い、ドヤ顔をさらすナナさん。

 照れた様子は微塵みじんも感じられないが……。


「それよりもナナさん」


「『それよりも』という物言いは若干気になりますが、なんでしょう?」


「実はさっき教会へ行ってきたんだけど――――何があったと思う?」


「なんだか面倒くさいことを言い出しましたねマスター……。えぇと、教会で? なんですかね、ローデット様にお金を払って気持ちよくしてもらって来ましたか?」


「違う」


 ……いや、違くもない。実際にローデットさんの会話術によって、僕は気持ちよくさせられてしまった。

 だが違う。今言いたいのはそれじゃない。


「では、なんでしょう?」


「実はね――レベルアップしていたんだ」


「ほほう?」


 今日も今日とてフルールさんと別荘の建築作業に勤しんでいた僕だが、そのあと教会へ寄ってきた。そこで、自分のレベルアップを確認できたのだ。

 ……それからローデットさんにレベルアップを褒められ、僕は気持ちよくなってしまった。


「レベルアップですか。つまり現在マスターのレベルは――」


「29だね」


「レベル29。やりましたね、おめでとうございますマスター」


「ありがとうナナさん」


「お祝いのオムレツとなりましたね」


「う、うん」


 お祝いじゃなくても、最近は毎日食べているけど……。


「どうぞどうぞ」


「うん。美味しいよナナさん」


 そう答えつつ、オムレツを食べきる僕。

 今日も美味しくいただけた。今日もまだ美味しい。


 さておき、レベルアップだ。レベル29なのだ。

 鑑定結果としては――



 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:17(↑1) 性別:男

 職業:木工師

 レベル:29(↑2)


 筋力値 20(↑1)

 魔力値 17(↑2)

 生命力 10

 器用さ 38(↑3)

 素早さ 6


 スキル

 剣Lv1 槌Lv1 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2 召喚Lv1 ダンジョンLv1


 スキルアーツ

 パリイ(剣Lv1) パワーアタック(槌Lv1) パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) レンタルスキル(召喚Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)


 複合スキルアーツ

 光るパリイ(剣) 光るパワーアタック(槌) 光るパラライズアロー(弓)


 称号

 剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター エルフの至宝



 ――こんな感じのステータスだった。


 相変わらず『器用さ』の伸びが良い。そして、『素早さ』の伸びがひどい。

 ……もう本当に、全然上がらんね。さすがにおかしくない? なんかバグってない?


「なんでこんなに『素早さ』が上がらないんだろう……」


「……また上がらなかったのですか?」


「うん……」


「……まぁ、それも仕方ないかと」


「ん?」


 え、仕方ないの? そうなの?


「マスターの戦い方が戦い方なので、『素早さ』が上がらないのも納得です」


「戦い方……? え、でも僕は、剣や槌で戦ったりもしているよ?」


 剣や槌を用いて接近戦を行えば、どうしたって素早い動きを求められる。

 そういった戦闘を繰り返してレベルアップしたのだから、もっと『素早さ』が上がってもおかしくないのではないだろうか。


 なのに上がらない。何故だ。

 剣や槌を使っているというのに、何故――


「相手が強敵だったり、自分が疲れてくると、すぐ弓に切り替えますよね?」


「……む?」


「そして、『パラライズアロー』を混ぜつつ矢を放つだけの固定砲台と化しますよね?」


「いや、まぁ、そうかな……」


 基本はそうかな……。やっぱりそれが一番安全だから。安全で安心で楽な最強のコンボだから……。

 そんなデスコン。もしくは永久コンボとか永パとでも呼べそうな『パラライズアロー』コンボなもので、つい……。


「剣や槌は、ちょっとした気分転換で使うくらいではないですか? 基本戦法は固定砲台なのですから、『素早さ』なんて上がりませんよ」


「むぅ……」


「たまにマスターと組んだときには、『こいつ本当に動かねぇな』と思っていました」


「…………」


 口が悪いなナナさん……。

 いや、最悪そんなことを思っていてもいい。思ってもいいけど、もう少し優しい口調で思っていてほしい。


「どっしり構えて矢を放つだけのマスター。そんなマスターの隣で『丸のこ』を連射していると、私までクソザコナメクジになってしまうのではないかと危惧しています。マスターのクソザコナメクジは伝染するのですよ。恐ろしい」


「…………」


 辛辣しんらつ。あまりに辛辣。


「――とはいえです」


「うん?」


「実際にその戦法は強いのですから、変える必要もないのかとも思います」


「まぁ、強いは強いよねぇ……」


「その代わり『素早さ』は上がらず、マスターは鈍亀であり続けるのですが」


「鈍亀……」


「危険をおかして剣による戦闘訓練を積むか、鈍亀を享受きょうじゅするか、そんな二択です」


「嫌な二択だなぁ……」





 next chapter:アレクハウス

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