第355話 パリエアコン
なんやかんやありつつも、僕とジェレッド君はようやく1-4エリアに到着した。
「ちょっと休憩するか?」
「あー、うん。ありがとうジェレッド君」
連戦で――特に小銭スライムとの戦闘によって、僕の疲労が
ここはジェレッド君の厚意に甘えさせてもらおうじゃないか。1-4には椅子やテーブルがたくさん置かれているので、ちょっと座って休もう。
「でだ、これからどこ行く?」
「そうだねぇ。ジェレッド君はどう? どこか希望はない?」
「んー? まぁ俺は狩りができればどこでもいいかな」
「ふむふむ」
この季節、あるいは湖エリアで泳ぐのもありかなって思っていたのだけど、ジェレッド君は狩りがしたいとのことだ。
「どのモンスターでもいいの?」
「いいぞ?」
「それじゃあ……ボアかな? ボアと戦いたい」
ジェレッド君は特に希望はないらしいので、僕の方から要望を伝えてみた。今日はボアだな。ボアの気分だ。
「ボアってことは、2-3か。じゃあここから2-4にワープかな」
「うん、ごめんねジェレッド君」
「あぁ、別にいいよ」
ここからワープなしで2-1、2-2、2-3と進んでいくルートもあったかと思うが、2-1森エリアへ寄りたくないという僕の言葉を覚えていてくれたのだろう、ジェレッド君はワープするルートを勧めてくれた。
さすがは気配りのできる親友である。ありがとうジェレッド君。
「で、ボアか。構わないけど、なんか目的でもあるのか? 肉でも欲しいとか?」
「んー、まぁね。少し試したいことがあるんだ」
「試したいこと?」
「うん。ボアを相手に――必殺コンボの練習をしたいんだ」
◇
ボアのいる2-3エリアに到着した僕とジェレッド君だが――
「それで戦うのか……?」
「今のうちに慣れておこうかと思って」
そう答えた僕の顔には――仮面が装着されている。
今付けているのは、目の部分だけを覆うアイマスク状の黒い仮面。――いわゆる、ドミノマスクと呼ばれる仮面。……あるいは、女王様マスクとも呼ばれる仮面。
そんな名称で呼ばれるだけあって、どうにも怪しさというか、いかがわしさも醸し出してしまう仮面である。
「大丈夫か? ちゃんと見えてるか?」
「んー。たぶん大丈夫」
やっぱりどうしたって視界は狭まるが、
「それよりジェレッド君、来たみたいだよ? さぁ下がって下がって」
「お、おう」
前方には、すでに臨戦態勢に入ったボアが構えている。
僕はジェレッド君を後方へ退避させ、世界樹の剣を手に、ボアを待ち受ける。
「よーし、こーい」
「ぶもー!」
恐ろしい唸り声を上げながら突進してくるボアに対し、僕は剣で下からすくい上げるように――
「『パリイ』!」
「ぶもっ!?」
突っ込んできたボアに、僕は
上方向に弾く『パリイ』によって、ボアは空中へ跳ね上げられた。
慌てたように宙で足をバタつかせるボアに対し、僕は続けて――
「レンタルス――」
「ぶも」
「…………」
僕が呪文を唱えている途中で、ボアは着地した。
……失敗だ。
「ジェレッドくーん、もういいよー」
「おう」
失敗してしまったので、二人がかりで討伐することにした。
ジェレッド君は遠距離から矢を放ち、僕は近距離から剣を振るう。
そうして、あっという間にボアの討伐に成功した。これぞ幼馴染のコンビネーションである。
「お疲れジェレッド君」
「ああ、お疲れアレク」
「それで、ジェレッド君から見て今のはどうだった?」
「全然じゃないか……?」
「全然かー」
僕的にはもうちょっとだった気もするのだけど、見ていた感じではそうでもなかったか。
「えぇと、『パリイ』で空中に飛ばして、飛んでいる相手に『エアスラッシュ』を入れたいんだろ?」
「そうそう」
そんなコンボを決めたいのだ。バシーンって打ち上げて、バシュバシュってエアスラを打ち込みたいのだ。
それこそが、僕考案の『パリイ』『レンタルスキル:エアスラッシュ』コンボ――通称パリエアコンだ。
「でもさ、ボアが全然上がってなかったし、そのせいで『エアスラッシュ』も全然間に合ってなかったろ? 呪文の途中で――いや、むしろ呪文の序盤でボアは地面に降りてたぞ?」
「うーん……」
ジェレッド君の言う通り、僕が渾身の『パリイ』を決めたというのに、ボアは精々一メートルほどしか打ち上がらなかった。
そこから急いで『レンタルスキル:エアスラッシュ』を決めようとしたものの、すでにボアは着地済み。僕のパリエアコンは失敗に終わった。
「そもそもの高さが足りないよな」
「むう……」
「あれしか飛ばないんじゃ無理だろ。いくらアレクが急いだとしても、『エアスラッシュ』を飛ばす暇がない。というか、その前に剣が直接当たるんじゃないか?」
「やめて! もう責めないで!」
「責めてはいないけど……」
ジェレッド君からの手厳しい指摘だが、確かにその通りではある。一メートルしか上がっていないのだから、普通に剣が届いてしまう距離だ。
……まぁ、それはそれで普通に空中コンボだし、格好良い気もするけど。
「やっぱり難しいね。世界樹様のときくらい飛んでくれたらいいのに」
「ああ、前に言ってたやつか」
「元々は、あれがあったからやってみようと思ったんだよね」
初めてユグドラシルさんに『パリイ』を決めたとき、それはそれは高く上がった。十メートルほど飛んでいただろう。
あの光景を見たからこそ、僕はパエリアコンを思い付いたのだ。
「とはいえ、さすがに世界樹様にエアスラを飛ばすこともできないしね」
「そりゃあな……」
「父にやってみようか? 父でも結構飛んでくれるんじゃない?」
「親父さんならやってもいいのか……?」
幼女にエアスラを飛ばすよりは、心理的な抵抗も少ないかなって。
「けどさ、こうして見るとアレクの『パリイ』はなかなかだな」
「おや? そうかな? そう思うかな?」
「ああもボアの突進を弾き返せるんだから、大したもんだろ」
「まぁね。それはまぁね」
なにせ直角だからね。勢いよく突進してくるボアを直角に弾き返しているのだから、なかなかに異常な光景だったりもする。
「ひょっとして、俺の矢とかでも弾き返せるのか?」
「うん……? うん、まぁ聞いた話だと魔法攻撃ですら弾けるらしいし、できないこともないんだろうけど……」
剣と呪文さえ間に合えば、ジェレッド君の矢も弾くことができるとは思う……。
「だからこう、ジェレッド君が僕に矢を射って、それを弾くことで敵に矢を――――ごめん、怖すぎてできない」
「あぁ……さすがにそれは俺も怖いわ……」
見ようによっては、わりと熱い連携を考えた僕だったけど、秒で否定した。
さすがにそれを試す気にはならない。うっかり弾きそこなったら、僕に矢が刺さるわけだ。怖すぎる。
僕の体に当たらないコースで射ってもらえばいいのかもしれないけど……変に角度が変わって、やっぱり刺さるってことも考えられる。
いわゆる自打球ってやつだ。チップして自打球。怖い。矢で自打球は怖い。
「それはともかく、とりあえずもう一回やってみるね」
「もう一回か……」
「うん、もう一回。――今度は本気でやってみる」
ジェレッド君にそう伝えてから――僕は仮面を外した。
「……うん?」
「やっぱり見づらいので、次は仮面なしでやってみようと思う」
「そうか……」
どことなく『拘束具を解除して、今から本気出すムーブ』のようにも見えるが、それにしては拘束解除が早すぎるわな……。付けていたのが一戦だけで、二戦目から即解除っていう……。
「まぁそんなわけで、次こそは華麗にコンボを決めてみせるよ」
「……おう、頑張れアレク」
おっと、その顔は信用していない顔だ。言葉では応援しているふうだけど、『また失敗するに違いない……』って顔だ。
しかし、そんなジェレッド君の生暖かい視線は、むしろ僕を奮い立たせる。
次こそは絶対成功させてやろうという決意を胸に、僕はボアを探して歩き始めた――
――まぁ結局、失敗したわけだが。
何度もボア相手に試したのだけど、どうやっても高さが足りず、僕のパリエアコンは一度も成功しなかった。
だけど、途中で良いこともあった。
ジェレッド君に、『もしも無理そうだと判断したら、ジェレッド君も攻撃しちゃって』と伝えたのだが、その結果――僕とジェレッド君の新たなコンビネーションが生まれたのだ。
僕が『パリイ』で跳ね上げたボアに対し、ジェレッド君が『パワーアロー』を放つコンボ。『パリイ』『パワーアロー』コンボ――通称パリパワコンである。
うん、良いね。これもそこそこ格好良いコンボだったし、ジェレッド君も楽しそうだった。この試みは良かった。
まぁパリエアコンの方は……のんびり練習を続けていこうか。いつかね、いつかそのうちできるようになるさ……。
next chapter:オムレツ食べます?
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