第349話 『エアスラッシュ』3


「『レンタルスキル』?」


「『レンタルスキル』です」


 『レンタルスキル』――僕が所持する『召喚』スキルレベル1のスキルアーツだ。


 ……取得したのは、かれこれ半年ほど前だっただろうか。

 半年間、その効果が不明だったアーツである。


「『レンタルスキル』か。なんだか懐かしいな、前にみんなで丸一日かけて検証したっけ」


「ありましたね、そんなこと……」


 効果も呪文もわからないまま、どうにか発動させようと、当てずっぽうの呪文を丸一日叫び続けた記憶がある。


 そういえばあのときの検証も、この三人でやっていたな……。

 『召喚』スキルのアーツなのだから、召喚獣であるミコトさんやトラウィスティアさんに関係するアーツだと思っていたんだ。


 ……まぁ、それ自体はあっていたようだけど。


「あのとき僕は『レンタルスキル』のことを、召喚獣のスキルをレンタルするスキルだと思っていました」


「うん。確かにそう予想するのが自然かな」


「ですが――違ったようです」


「違った?」


「昨日トラウィスティアさんの『エアスラッシュ』を知って、そこで気付いたんです。そこでひらめいたんです」


 『エアスラッシュ』のアーツ名を見た瞬間に閃いた。頭の上で電球がピコーンとなったんだ。

 そうして僕は、『レンタルスキル』がどういうものかをようやく理解した。


「『レンタルスキル』とは――召喚獣のスキルアーツをレンタスするスキルアーツなんです」


「レンタス?」


「……レンタルです。スキルアーツをレンタル」


 大事なところでちょっと噛んだ。

 なんだか若干早口言葉っぽくなっていたもんで……。


「スキルアーツをレンタル……。そうなのかな? 本当に?」


「え? ええ、まず間違いないと思いますが」


 結構鮮明に閃いたので、おそらくそれで間違いないと思う。


「でもそれなら『レンタルスキル』じゃなくて、『レンタルスキルアーツ』って名前じゃないと、おかしくないかな?」


「…………」


 そんなん僕に言われても困る。


 ……というか、僕もそう思う。

 なんで名称をちょっと略しちゃったのか。きっとその名前なら、僕達も丸一日かけて無駄な検証することもなかっただろうに。


「まぁ謎ですよね……。アーツ名も謎ですし、そもそも召喚獣がスキルアーツを取得していない状態だったのに、なんでこんなアーツを覚えたのかも謎です」


「あぁ、確かにそれも謎だね」


「謎なんですよ……」


 僕にとっても謎で、僕にはわからない謎だ。

 むしろミコトさんの方から、ディースさんに聞いてきてほしいくらいの謎である。


「とはいえ、呪文が短いのは悪いことでもないですよ。……噛む確率も減るでしょうし」


「それは確かに。……うん? ということはもしかして、もう呪文もわかるのかな?」


「はい。わかります」


 その辺りもピコーンと閃いたので、もう理解している。もう当てずっぽうで延々と検証する必要もない。


「そんなわけで、さっそくトラウィスティアさんの『エアスラッシュ』をレンタルしてみようと思います」


「おお、さっそくか」


「さっそくです。――あ、そういうことなんだけど、技を借りてもいいかなトラウィスティアさん」


「キー」


「うん。ありがとう」


 トラウィスティアさんも快諾してくれたことだし、さっそくレンタルさせてもらおう。


 僕は剣を手に、先ほどトラウィスティアさんがアーツを放った場所に立つ。

 検証のため、同じ位置から壁に向かってエアスラを飛ばしてみよう。


「ではでは、いきますね」


「頑張れアレク君」


「キー」


 さぁいくぞ。半年間の時を経て、『レンタルスキル』の初お披露目だ。

 期待に胸をふくらませながら、僕は剣を上段に構え、前方の壁目掛けて――


「『レンタルスキル:エアスラッシュ』」


 呪文を唱えつつ剣を振り下ろすと――振るった剣の軌道上から、空気の刃が放たれた。

 刃は真っ直ぐに、壁へ向かって飛んでいく。


「おー」


「おぉ、やったねアレク君」


「キー」


「いやぁ、ちゃんと出ましたね。格好いい」


 成功だ。やはりトラウィスティアさんのときと同様に、白っぽい三日月が飛んでいった。

 いいね。格好いい。格好よさは大事。


 ……それにしても、想像していたよりも多く魔力を吸われたな。『パラライズアロー』や『パワーアタック』に比べ、1.5倍近く魔力を消費した感覚がある。

 もしかしたら、そういう制約があるのかもしれない。『レンタルスキル』でアーツをレンタルするには、本来の使用量より多くの魔力が必要とか、そんな感じの。


「とりあえず発動は成功ですね。壁の方も確認してみましょうか」


「行ってみよう」


 というわけで三人で連れ立って、レンタルしたエアスラを飛ばした壁に近付いてみる。

 そして壁を確認してみたところ――


「そっくりだ」


「そうですね。まるっきり同じです」


 僕から見て、左にトラウィスティアさんが飛ばしたエアスラ痕、右に僕が飛ばしたエアスラ痕。

 同じだ。同じように二十センチほどヒカリゴケが切り裂かれている。


 ……ここでも何気に、ヒカリゴケが検証の役に立っているな。


「ふーむ。これを見る限り、トラウィスティアさんが使ったのと同じ『エアスラッシュ』を飛ばせるようです。僕の能力値や『剣』スキルの熟練度は関係ないみたいですね」


「なるほどなぁ」


 僕の方が能力値は上だし、剣の技量も上だろう。それなのに、威力もサイズもスピードも、まったく同じエアスラが飛び出した。


 であれば、『僕がエアスラを使えるようになった』というよりは、『トラウィスティアさんが使用するエアスラをレンタルできた』――そういったイメージの方が正解なんじゃないかな?


「ということはつまり、トラウィスティアが頑張った分だけ、アレク君も強化されるというわけか」


「そうですね。トラウィスティアさんの能力値が上がったりアーツの熟練度が上がれば、僕がレンタルする『エアスラッシュ』も強くなるかと」


 たぶん今は、それほど強いアーツでもないのだろう。

 だがしかし、これからトラウィスティアさんが鍛えれば鍛えた分だけ、僕のレンタルエアスラも強くなるはずだ。


「……僕としては、なんだか少し申し訳ない気持ちになりますね。一生懸命トラウィスティアさんが鍛えた成果を、横からサッと盗んでしまうような気がして……」


「キー」


「あ、うん。それは……」


「キー」


「トラウィスティアさん!」


 なんて嬉しいことを言ってくれるんだトラウィスティアさん!

 ありがとう。ありがとうトラウィスティアさん!


「えっと?」


「あ、はい。トラウィスティアさんが『それでアレク様のお役に立てるのならば、私にとって、これほど幸せなことはありませんわ』的なことを言ってくれました」


甲斐甲斐かいがいしいなぁトラウィスティアは……」


「ええ本当に」


 真面目で優秀で、とても甲斐甲斐しい自慢の召喚獣である。


「……ふむ。まぁ私の方にも期待していてくれアレク君。残念ながら私はまだスキルアーツを取得できていないが、きっと私も優秀なスキルアーツを手に入れられるはずだ」


「あ、そうですね。ええはい、それはもちろん――」


「きっと、素晴らしい『槌』スキルのアーツを取得できるはずだ」


「…………」


 僕としては、『神』スキルのアーツの方が気になるのだけど……。

 なんでかミコトさんは、ハンマーをぶん回すことにずっと夢中だからな……。





 next chapter:『エアスラッシュ』1000

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