第348話 『エアスラッシュ』2
大ネズミのトラウィスティアさんが、『剣』スキルのスキルアーツ『エアスラッシュ』を取得したらしい。
そのことをミコトさんから聞いた僕は、その翌日に、今度は三人でダンジョンへとやってきた。
「というわけで、2-3エリアです」
「うん」
「キー」
2-3エリア。ボアのいるエリアだ。
僕の場合、こういった新スキルや新アーツの試し打ちは、大ネズミをモルモットに検証してきた過去がある。
とはいえ、大ネズミ相手の試し打ちを、大ネズミのトラウィスティアさんに勧めるのはどうなのか。さすがにちょっとどうなのか。さすがに僕も勧めづらい。
まぁ本人は全然気にしていないし、普段からバンバン大ネズミを討伐していくトラウィスティアさんで、なんだったら『私をあんな野ネズミと一緒にするなんて、私に対する
だがしかし、やっぱりちょっと勧めづらい。……なんか僕の属性がカオスに寄っちゃいそうだし。
とにかくそんなわけで、今回の試し打ちは、ボアを相手にやってもらおうという考えだ。
「それで、お二人ともボアはもう倒せるということでしたが?」
「まぁそうだね。ボア程度なら余裕だと思う」
「ほうほう」
「……キー」
「……ほうほう」
どうやらミコトさんは、ちょっぴり見栄を張ったらしい。
トラウィスティアさんが、『二人でかかればなんとかなると思うのだけど、一人だと少し厳しいかしら……』的なことを僕に密告してくれた。
まぁね、ボアは強いしね。僕が初めてボアのソロ討伐に成功したときは、レベル13くらいあったと思う。それくらいのレベルを求められる強敵なのだ。
……なんだか懐かしいな。あのときは、レリーナちゃんが狂ったように『アースウォール』を連打していたっけか。
「それじゃあボアと遭遇したときには、気を付けながら戦いましょう。――それでトラウィスティアさん、いよいよこれから『エアスラッシュ』の試し打ちをするわけだけど」
「キー」
「トラウィスティアさんも初めて使うんだよね?」
「キー」
「なるほど」
トラウィスティアさんも、昨日鑑定するまでアーツの取得には気付いていなかったらしい。
しかしその後、アーツ名を目にし、アーツを想像したりアーツ名を口に出したところ、おぼろげながら技のイメージが浮かんできたとのことだ。
「どうやら使い方もなんとなくわかるっぽいので、さっそく試してもらいましょうか」
「となると、ボアを探してから試し打ちかな?」
「そうですね……。あぁでも、よくよく考えてみると、いきなり実戦ってのも少し怖いんじゃないかと」
「キー」
「うん。それじゃあ最初は適当に――壁とかに向かって撃ったらどうかな?」
壁撃ち。いいんじゃないかな。ダンジョンの壁にはもっさりとヒカリゴケが生えているので、撃った結果がどうなったか確認することもできるだろう。
「キー」
「そっかそっか。それじゃあ、あの壁辺りに」
「キー」
「あ、それで『エアスラッシュ』は、やっぱり手の爪から放たれるのかな?」
「キー」
「ふんふん」
トラウィスティアさんの想像では、やはり手の爪から――――手?
……いや、前足かな? ……うん、まぁ手でいいか。
トラウィスティアさんの想像では、やはり手の爪からアーツを放つことができそうだという。
以前からトラウィスティアさんの『剣』スキルは、爪攻撃で発動しているはずだと推察されていた。
剣聖様である父も、トラウィスティアさんの爪さばきを見て『たぶん発動している』と言っていたし、まず間違いないはずだけど、これで実際に爪で『剣』スキルのアーツが発動できたなら、その推察が正解だったことも結論付けられる。
「よし、それじゃあ始めよう。準備はいい?」
「キー」
『問題ありませんわ』とのことなので、僕とミコトさんは少し距離を取り、後ろからトラウィスティアさんを応援する。
「頑張ってねトラウィスティアさん」
「頑張れトラウィスティア」
「キー」
トラウィスティアさんは僕達の声に一度うなづいてから、苔むした壁に視線を移す。
そして、右手を高々と掲げてから――
「『キー!』」
トラウィスティアさんが、勇ましく右手を振るった。
爪による鋭い斬撃――そしてその斬撃は、そのまま形となってダンジョンの壁へ飛んだ。
「おー」
「おぉ、すごいなトラウィスティア」
『エアスラッシュ』――やはりその名の通り、斬撃を飛ばす遠距離攻撃のようだ。
トラウィスティアさんの爪から放たれた斬撃は、真っすぐ飛び続け、壁へと激突した。
「結構見えるもんですね」
「エアというわりには見えたな」
白っぽい三日月型の斬撃が飛んでいくのが、肉眼でも確認できた。
見えない方が避けづらいと思うのだけど、さすがにそれだと強すぎるのかな? インビジブルエアは強すぎるからダメなのかね。
「さてさて、それじゃあ壁を見に行こうか」
「キー」
僕達三人は連れ立って、『エアスラッシュ』が命中した壁に近寄ってみる。
するとそこには――引っ掻かれたようにヒカリゴケが切り取られた壁を確認できた。
「なんか思いの外ヒカリゴケが役に立っていますね」
「効果がわかりやすいな」
見たところ、二十センチほどヒカリゴケが削られている。というわけで、二十センチの斬撃を飛ばせたらしい。
「ふむふむ。まだ実際の破壊力はわからないけど、良いスキルアーツなんじゃないかな? 遠距離の攻撃とか、あって損はないだろうしね」
「キー」
うんうん。よかったよかった。
トラウィスティアさんのスキルアーツガチャは、無事に良いものを引き当てられたようで、何よりである。
「――さて」
「うん?」
「こうして無事に『エアスラッシュ』の検証が済んだところで――僕からひとつ報告があります」
「報告?」
「昨日、僕がチラッと言っていたことです。トラウィスティアさんが『エアスラッシュ』を取得したと聞いて、ちょっと気付いたこと――
「あ、それか。うん、確かに何かを
妙に勿体つけるて……。
いやまぁ、確かに若干思わせぶりな物言いで、勿体つけているように感じたのかもしれないけど……。
「そのことを、いよいよ教えてくれるのかな?」
「ええはい。僕があのとき閃いたこと、それは――」
「それは……?」
この期に及んで、やっぱり少しばかり勿体つけてから、僕は二人にそれを伝える。
それとはつまり――
「『レンタルスキル』です」
next chapter:『エアスラッシュ』3
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