第334話 総集編5


 第四回世界旅行を終えた僕は、故郷のメイユ村に帰ってきた。二ヶ月ぶりの凱旋がいせんである。


 そして僕は自宅へ戻り、ナナさんに旅の思い出を話していた。

 ついでにナナさんには、お土産なんぞも手渡していた。


「……パンですか?」


「カークパン」


「カークパン……?」


 僕がプレゼントした人界土産のカークパンを、ナナさんが不思議そうに眺めている。


「なんの変哲もない普通のパンに見えますが」


「ふむ……」


 まぁ実際に、まるっきり普通のパンだったりする。


「食べてみたら、違いがわかるかもね」


「はぁ。では夕食時にでも食べてみますね。ありがとうございますマスター」


「いいんだよナナさん。喜んでもらえて何よりだ」


 これでナナさんが、『ほうほう。確かにエルフ界のパンとは違いますね』なんて言い出したら、ちょっと面白い。

 まぁナナさんは『料理』スキルを持っていることだし、エルフパンとカークパンの細かな違いとかも、普通に見極められてしまいそうな気もするけど。


「それで、このカークパンを大量に買ってきたのですか?」


「うん。みんなに配ろうと思って」


 ラフトの町から敗走した僕とジスレアさんは、カークおじさん宅で四日ほどゴロゴロしていたわけだが、その間に大量のカークパンを仕入れていた。

 旅の最中にカークおじさんと話していた通り、このパンをメイユ村やルクミーヌ村の知り合いに、お土産として配ろうと思うのだ。


 ……いやけど、実際どうなんだろうね。

 正真正銘普通のパンなわけだし、これを貰ってみんな嬉しいのかな……。


 そりゃあエルフ界から出たことのない人なら『人界のパン』と聞けば、多少は物珍しさもあるだろう。

 だがしかし、人界に行ったことのある人――これが普通のパンだとわかってしまう人からすれば、『こいつなんで普通のパンをお土産に……?』などと思われてしまうかもしれない。


「どうかしましたか?」


「あ、なんでもないよ」


 とはいえ、もう大量に買ってきちゃった後だしな。今更悩んでも仕方ないか……。


「とりあえず、明日から村中にカークパンをばら撒いてくるよ」


「皆さん喜んでくれるといいですね」


「そうねぇ。そうだといいけど……」


 みんなから、変な子だと思われないといいな……。


「ところで――ナナさんにはもうひとつお土産があるんだ」


「はい? 私には? その言い回しは、つまり私だけ特別にということですか?」


「まぁ、そうなるかな」


「ほうほう。それは嬉しいですね。期待してもいいですか?」


「…………」


「……マスター?」


 正直、期待してはいけない気もする。


「とりあえず見てみてよ」


「はぁ……」


 ナナさんの問いかけに多くは答えず、実際に見てもらうことにした。

 僕はマジックバッグをあさり、小さな旗――ペナントを取り出した。合計四枚のペナントだ。


「やっぱりお土産といえばこれだよね」


「うわ……」


 見ただけで、そのリアクション。

 まぁペナントといえば、いらないお土産ランキングでも上位の常連だからねぇ。


「ペナントですか……? なんでまたペナント……。どうしたんですかこれは?」


「お願いして、作ってもらったんだ」


「わざわざ依頼してまで……。四つもありますが?」


「立ち寄ったすべての村で作ってもらったんだ」


「なんとまぁ……」


 カーク村、ヨーム村、ローナ村、スリポファルア村――四つの村のペナントを、すべてナナさんにプレゼントだ。あんまり喜んでいる様子はないけど、プレゼントなのである。


「これは、私にだけなのですか?」


「そうだね。作ったのはその四つだけだから。……というか、現状だと世界でも四つだけなんじゃない?」


「そう言われると、なんだか貴重な物に見えますね……」


 カーク村ペナントとか、世界初のペナントってことになるかもしれない。世界で最初のペナントで、最古のペナントだ。だとすれば、なかなか貴重な物である。


「見た感じ、結構よく出来てますね」


「細部にもこだわって作ってもらったよ」


「……ひょっとすると、他の人に渡したらもっと喜ばれる物なのではないでしょうか?」


「んー……そうかもね。案外そうかもしれない」


 何気に前世でも昔は流行っていた物なのだから、普通に喜ばれる可能性もあったかもねぇ。


「実のところ、元々はジェレッド君にあげようと思っていたんだ」


「おや? そうなのですか?」


「そのつもりだったんだけど、もしかしたらナナさんの言う通り、普通に喜ばれるかもしれないでしょ? ……冗談で作った物を普通に喜ばれても、なんか微妙じゃない?」


「喜ぶならいいじゃないですか……」


「んー」


 まぁいいっちゃいいんだけどさ。

 でもそうなると、みんな欲しがっている物をジェレッド君にだけプレゼントしたってことになる。それもなんか微妙じゃない?


 だったらまぁ、おそらくは喜ばないであろうナナさんにプレゼントしたらどうかなって、そんなことを僕は考えて――

 ……いや、改めて考えると、その結論も相当微妙だな。全員が全員不幸になっただけじゃないか。


「とりあえずそのペナントはナナさんにプレゼントするけど、父や母からも感想を聞いてみようか。それでもし反応がよかったら、次回は大量にペナントを仕入れてくるよ」


「とりあえず私もいらないのですが……」


 まぁそう言わんと。


「……他には何かないのですか?」


「他に?」


「ペナントではなく、もっと私が喜びそうな人界土産は、何かないのですか?」


「えぇ? そう言われても、他には何も……」


 と言いつつ、旅で使っていたマジックバッグを一応あさってみるが……。


「あ、これとかどうかな?」


「それは……木刀ですか?」


「修学旅行のお土産じゃないんだから……」


「ではなんでしょう? 見た目は杖っぽいですが?」


「御名答。杖だね」


「杖?」


 僕が旅の間に作った杖。――魔法の杖である。

 マジックバッグをあさっていて、そういえばこんな物もあったなと発見した。


「前にナナさんと話したじゃない? 世界樹の枝で魔法の杖を作ったらどうかって」


「あぁ、ありましたね。……結局魔法の杖なんて物はなかったという話でしたが」


「そうだね、魔法の杖なんてなかった。――なかったんだよ。杖で魔法の威力が上がるなんて誰も考えないから、今までは魔法の杖なんてなかったし、誰も試したことがなかった」


「えっと?」


「誰も試したことがなかっただけで、ひょっとしたら効果があるんじゃないか? ――そう思って、旅をしている間、実際に作ってみたんだ」


「なるほど、それで実際に……。それは少し気になりますね。どうなのでしょう。あるいはひょっとして――」


「まぁ結局効果なんてなかったけど」


「マスターにはがっかりです」


 あれ? え、僕ががっかりされちゃうの?

 何やら期待させるような話しぶりがまずかったのだろうか。マスターとしての信頼を失ってしまった……。いや、だって、なかったんだからしょうがないじゃないか……。





 next chapter:総集編6

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