第335話 総集編6


「じゃあつまり、この杖はなんでもないただの杖なのですか?」


「そうなるね」


「……いらないですよこんな物」


「こんな物とまで言う」


 なんと辛辣しんらつな。残念ながらナナさんは、魔法の杖をお気に召さなかったようだ。

 まぁ実際ただの杖だし、あんまりナナさんが必要な物ではないだろうけど。


「むしろマスターの方が必要なのではないですか?」


「うん? 僕が?」


「旅の最中に、杖とかあったらいいのでは? 歩くときに楽だったりしませんか?」


「あー」


 なんとなくナナさんの言っていることはわかる。

 道なき道をえっちらおっちら歩いていくのなら、杖があったらそれははかどるだろう。


「でも僕とか、ヘズラト君に乗っているだけだよ?」


「そういえばそうでしたね……」


 基本的に僕の移動はヘズラト君任せだ。僕はヘズラト君に運ばれるだけで、歩いたりしない。杖をつく場面もないのだ。


「それならジスレア様に渡した方がよさそうですね」


「ジスレアさんに杖か……」


「ジスレア様はいつも横で徒歩ですよね?」


「だけど杖とかいるのかね、あの人……。そんな物が必要なさそうな身体能力をしているけど……」


 それなりに長い期間一緒に旅をしていてわかったのだけど、ジスレアさんはすごい。いろいろすごい。すごい強い。

 杖があったら移動で便利――そんな常識が通じる人ではない気がする。


 でもまぁ、試しに今度聞いてみようか。

 ジスレアさんなら僕が『杖とか使ってみます?』なんて聞いても、『私はまだそんな歳じゃない』などと怒ったりしないし、侮辱ぶじょく判定はんていされることもないだろう。


「他は何かないのですか?」


「ん?」


「他にお土産は、何かないのですか?」


「えぇ?」


 カークパンやペナントや魔法の杖では満足できなかったのか、ナナさんが貪欲どんよくにお土産を求めてくる……。


「そもそもこの杖はマスターがその場の思い付きで作っただけで、人界産のお土産でもなんでもないじゃないですか。何か人界土産をくださいよ」


「そんなことを言われても……」


 僕達が寄ることができたのは小さな村々だけで、町にも入れず、大して買い物もできなかったんだけど……。


「えーと……あ、これどう?」


「ん? えっと、それは――アレクブラシですか?」


 ナナさんも普通にアレクブラシと呼ぶのか……。ナナさんはタワシって名称を知っているはずなのに……。


「実はこれ、カーク村で買った物なんだ」


「え? あ、へー。そうなんですか。カーク村でもアレクブラシが?」


「なんかカークおじさんが使っていて驚いたんだけど、カーク村の雑貨屋さんでも普通に売っていたんだよね」


 そんなわけで、なんとなく購入してみた。

 よくよく考えると、別に購入する必要はなかった気もするけど、とりあえず記念に。


「アレクブラシは本当に世界展開しているんですね」


「なんかすごいよね」


 やっぱりその名称が少し気になる僕ではあるが、人界でも簡単に入手できるようにまでなっていたのは、ちょっとした感動かもしれない。


「というわけで、これをナナさんにあげるよ」


「いえ、別にいりませんが」


「…………」


 まぁ普通のタワシだしな。いらんか。

 普通のタワシをお土産で渡す方が間違いだわな。


「ではマスター、次を」


「ん?」


「次のお土産をお願いします」


「えぇ……」


 まだ求めるのか……。ナナさんが貪欲すぎる。お土産に対して貪欲すぎる。

 いやだけど、さすがにもう何もないよ。


「まだあるはずです。何かしらあるはずです。さぁさぁ」


「うーん……」


 まるで僕の心を読んだかのようなナナさんの発言。

 仕方なく僕はマジックバッグをあさってみるが――


「あ」


「おや? やはりまだ何かありましたか? さぁマスター、さぁさぁ」


 そんなことを言いながらナナさんが手を伸ばしてきたので、僕はその手に――覆面を置いた。


「おぉ? もしや、これが例の……?」


「うん。それが例の覆面」


 僕が旅の間に着用していた覆面である。

 どうやらもう使うこともなさそうだし、お土産にしてしまっても構わないだろう。……ナナさんが喜ぶかどうかは知らないが。


「あ、ちゃんと洗ったから綺麗だよ? しっかり手洗いした後、『ヘズラト君式洗濯術』で洗ったし」


「確かに綺麗に洗われているようですが……」


 ちゃんと洗って乾かした後、ヘズラト君にかぶってもらってからヘズラト君の再召喚を行った。そのため、新品同様ピカピカの覆面である。


「かぶってもいいよ?」


「かぶりませんよ」


 かぶらないのか……。他の人が付けている姿をちょっと見たかったのだけど。


「いやはや、これがジスレア様の考えたマスターの顔面対策ですか……」


「そうだねぇ。僕も最初にそれを見せられたときにはびっくりしたよ」


「正直これを提案するジスレア様もジスレア様ですが、これをかぶって本当に人族の村に突撃するマスターもマスターだと思います」


「…………」


 だってジスレアさんが一生懸命考えて作ってくれたものだし、その思いを無下にするわけにはいかないじゃないか……。


「まぁ一応はその覆面のおかげで人界の村々は回れたわけだしさ」


「おおらかですね、人族の方は……」


 確かにそんな気もする。なんだかんだ最終的にはカーク村の人達も、覆面姿で歩き回る僕と普通に会話してくれるまでになっていたからね。


「とはいえ、さすがに町へは入れなかったけど」


「さすが町ですね」


「さすが町だよ」


 さすがに町は無理だった。そこはケイトさんのブロックにあってしまった。


「そういえば、次はどうするのですか?」


「次?」


「覆面状態では町へ入れなかったようですが、次の――第五回世界旅行では、いったいどうするおつもりですか?」


「んー、それはまだ考え中かな。……あ、ちなみに次回の顔面対策は、僕が自分ですることになったよ」


「そうなのですか?」


「うん。……僕の方からジスレアさんにお願いしたんだ」


 案外ジスレアさんも滅茶苦茶やる人だとわかったので、次は自分で考えさせてもらうようお願いした。


 要は不信感を与えずに顔を隠せればいいわけで、それなら自分でいろいろ考えたい。

 自分で考えて、できたら格好良い仮面なんかを作ってみたいね。顔の全部を隠さなければ、仮面でも大丈夫なんじゃないかな?


「それでもってジスレアさんもジスレアさんで、なんか考えがあるみたい」


「考えですか?」


「よくわからないけど、『別の角度で対策を考える』とかなんとか」


 詳しくは教えてくれなかったが、何やら秘策っぽいのを考えているみたいだ。


 ……僕としては、できたらしっかり教えておいてほしいんだけどな。

 覆面もそうだったけど、なんか隠したがるよね。別にそんなサプライズはいらないのに……。


 ちなみに、ジスレアさんの言う『別の角度』とやらは時間がかかるそうで、第五回世界旅行もしばらく先になるかもしれないという話だった。


「……ふむ。マスターの考える顔面対策。そして、ジスレア様の考える別の角度の対策ですか」


「うん。第五回世界旅行はそんな感じ」


「第五回世界旅行も、短命に終わる気がしてなりませんね」


「…………」





 next chapter:エルフの至宝2

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