第319話 イケメン対策


 一週間ほどかけて、魔法の杖を作ってみた。


 作業中は、『魔法が強くなーれ強くなーれ』と祈りを込めながら木を削り続け、ディテールにもこだわって、それっぽい杖を作ってみた。


 そして実際に、ジスレアさんに使ってもらったところ――


「どうですか?」


「……変わらないけど」


「…………」


 変わらないらしい。


 そうか、変わらないのか。

 うん……。まぁ、そんなもんか……。


「いろいろ試してみたけど、やっぱり……」


「そうですね、そのようです……。ありがとうございましたジスレアさん」


 なんだかんだでジスレアさんには、一時間近く実験に協力してもらった。

 もう十分だろう。長々と付き合わせてしまい、申し訳ない。


 ちなみにだが、一応は僕も自分で検証してみた。

 杖を使って魔法スキルを試してはみたのだけれど、やはりスキルの行使に役立っている感覚は得られなかった。


 というか、むしろ――


「なんだか魔法が使いづらくなっていますよね……」


「……うん」


 魔力を操作して手から放てばいいだけなのに、無駄に杖を経由させているせいか、やりにくくて仕方なかった。


「例えるなら――とても長いペンの端っこを持って文字を書いているような、そんなもどかしさがありました」


「うん。……うん? ん、まぁ、そうかな……?」


 あれ? ちょっと微妙だったか? あんまり上手く例えられなかった?

 なんだかジスレアさんは、しっくりきていない顔をしている。確かに僕自身、微妙にしっくりこなかった。


 えっと、なんだろう……。紙を切るのに、ハサミじゃなくて高枝切りバサミを使う感じ? 玩具のマジックハンドで、コップを持つような感じ? それとも――


 ……まぁいいや。上手く例えることはできなかったけれど、とりあえず実験をしている間は、そのくらいモヤモヤした。


「やっぱり杖で魔法が強化されるなんてことは、なかったんですね」


「そもそも、なんでそう思ったのか謎なんだけど……」


「まぁなんとなく、なんとなくですよ……」


 というわけで、残念ながら魔法の杖計画は失敗に終わった。


 残念だ。残念でならない。頑張って作ったんだけどね。素材の木も、かなり良い木を使ったのに……。

 さすがに世界樹の枝を使うことはなかったが、それなりの木を使って――


 ……いや、それなりじゃあ駄目だったのか?


「……素材がダメだったんですかね?」


「え?」


「これはもう……世界樹の枝で作るしか……」


「もうやめようアレク……」



 ◇



 魔法の杖計画は失敗したものの、旅自体は順調である。

 僕達は順調に歩みを進め――世界旅行出発から二十日目。


 三人で進んでいると、前方に村が見えてきた。カーク村だ。


「おー。どうにか再びここまでやってきましたね」


「うん。前回よりかかっちゃったけど」


「もう冬ですしね、仕方ないです」


 日照時間が短くなった影響で、前回より五日ほど遅れてしまった。


 まぁ僕達エルフは夜目がきくし、ヘズラト君も夜は大丈夫な子なので、その気になったら夜中に強行軍もできたのだろうけど……別にそこまで急ぐ必要もないしね。


 そんなわけで、比較的まったりとした進軍ではあったが、こうして無事にカーク村までやってきた。


 とりあえずここまでは順調だ。

 到着は遅れたし、毎朝カラドボルグでコテンパンにされるし、魔法の杖計画は失敗したりと、わりと微妙な日々を送っていたような気もするが――とりあえずここまで来られたのだから、それだけで十分順調な旅と言っていいだろう。


「それじゃあアレク」


「はい?」


「これから、アレクの顔をどうにかする」


「顔を……? あ、はい。いよいよ対策ですね」


 そうか、いよいよか。

 相手がビビって何も言えなくなってしまうほどにイケメンすぎる僕の顔面を、どうにかする対応策――イケメン対策。

 そういえば、確か前回もこの辺りで第一村人と出会った。そろそろ対策が必要だろう。


 さてさて、ジスレアさんはいったいどんな対策を考えてくれたのか。

 今までは『着いてからのお楽しみ』などとはぐらかされていたけれど、ついにその答えが聞けるようだ。


 ひとまず僕はヘズラト君から降りて、ジスレアさんの言葉を待つ。


「この対策に、一ヶ月かかった」


「あー、そうですね。再出発まで、一ヶ月ほど空きましたか」


「対策を考えるまで二週間。作るまで二週間かかった」


「作るまで……?」


 作るまでとな? 何かを作ったの……?


「一ヶ月かけて作った対策が、これ」


「なるほど、ありがとうございます」


 ジスレアさんが自分のマジックバッグから何かを取り出し、手渡してくれた。

 僕はお礼を言いながら受け取り、それをしっかり確認してみるが――


 えっと、これは……布?

 布だ。麻かな? 麻の……袋だ。小さい麻袋。


 小さい麻袋で……ん? 穴が空いている。麻袋の側面に、穴が三つ空いている。


 三つの穴が空いている、小さい麻袋……。


「これは……」


「うん」


 どうしよう。嫌な予感しかしない。





 next chapter:怪しい者じゃないです

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