第277話 僕からの贈り物


 名前:リンゴ

 種族:大ネズミ 年齢:0

 職業:大ネズミ見習い

 レベル:1


 筋力値 1

 魔力値 1

 生命力 1

 器用さ 1

 素早さ 2


 スキル

 大ネズミLv1 剣Lv1



 引き続き、リンゴちゃんの鑑定結果を見ながら検証を続ける僕とローデットさんとリンゴちゃん。


「ひとまず神樹様の贈り物のことは置いておきましょう」


「はぁ」


 やっぱり少し気になるので、後で本人に聞いてみたい気はするけど、とりあえずは置いておこう。


「さて、やっぱり目を引くのは所持スキルですよね」


「そうですねぇ」


「『大ネズミ』スキルとはいったい……」


「大ネズミ固有のスキルみたいですねー」


「ええはい……」


 そりゃまぁそうなんだろうけど……いったいどんなスキルなんだろう? 大ネズミっぽい動きが上手くなるのかな……?


「それで、『大ネズミ』スキルがあるから『大ネズミ見習い』ですか」


 スキルレベル1だと職業に『見習い』が付くのは知っているけど、それにしたって『大ネズミ見習い』とは……。

 間違いなく大ネズミだというのに、見習い扱いされてしまうリンゴちゃんがちょっと不憫ふびん


「あと、『剣』スキルを持っているようですが……」


「これはたぶん、アレクさんのスキルを引き継いだんですねー」


「ん? 引き継ぎ?」


「召喚獣は、召喚主のスキルをランダムでひとつだけ継承けいしょうできるそうですー」


「へ? そうなんですか? なんと、そんなシステムが……」


 それでリンゴちゃんは、僕の『剣』スキルを引き継いだのか……。


 となると、これはもうあれだな――――贈り物だ。

 神樹様の贈り物に続き、僕からリンゴちゃんへの贈り物!


 ……いやけど『剣』スキルて、大ネズミに『剣』スキルて。


「えっと、どうなんだろう。リンゴちゃんは剣を持てるのかな……?」


「キー……」


 さすがのリンゴちゃんも少し自信なさげだ。まぁネズミだしな……。


 とはいえスキルを所持しているわけだし、どうにか持てないものか。

 せっかくの所持スキルを無駄にするのももったいない。なんかちっちゃい剣とかで、どうにか――


「爪でいいんじゃないですか?」


「え?」


「爪で攻撃することもあると思うんですけど、爪で『剣』スキルが発動するんじゃないですか?」


「爪で『剣』スキルが……?」


 確かに『剣』スキルは、刃物ならなんでも許容してくれる大雑把おおざっぱなスキルではある。だがしかし、爪でも本当にいけるものなのか……?


「えっと、そうなのかな……。どうなのリンゴちゃん?」


「キー……」


 僕が尋ねると、リンゴちゃんは少し考えたあと、僕らから距離をとって――


「キー!」


 何もない空間へ向かって、リンゴちゃんは爪を使った引っ掻き攻撃を振るってみせた!


「どう?」


「キー……」


 わかんないらしい。

 まぁそうだよね。僕から引き継いだということは、生まれてからずっと所持していたスキルなわけで、もしも本当に爪で『剣』スキルが発動していたとしても、今までずっとそうだったのだから自分ではよくわからないのだろう。


 しかし先ほどの引っ掻き攻撃は、野生の大ネズミに比べて鋭さを見せていたような……? なんかそんな気がするようなしないような……。


「とりあえず、本人もわからないようです」


「そうですかー。セルジャンさんならわかるでしょうか?」


「父ですか?」


「セルジャンさんは剣聖様ですから、やっぱり剣のことならセルジャンさんじゃないですか?」


「なるほど」


 ……とは言ったものの、果たして本当にわかるのだろうか?


 確かに父は僕の剣を見て、もうすぐレベル1に到達しそうだとかなんとか助言をくれた過去がある。

 とはいえ大ネズミだ。大ネズミの引っ掻き攻撃を見て、『剣』スキルの状態を判断できるのだろうか……?


「まぁ、試しに見てもらおうか」


「キー」


 それじゃあ、明日の朝練はリンゴちゃんと一緒に行ってみよう。そこで軽く見てもらおうか。


 もしも本当に『剣』スキルが発動していたら、それは素晴らしいことだ。

 現在僕の所持しているスキルを考えたら、間違いなくベストな継承だっただろう。一番良い贈り物だったはずだ。


 僕の所持スキルは――剣、槌、弓、火魔法、木工、召喚、ダンジョン。

 もしも『弓』スキルを継承なんてことになっていたら、目も当てられない事態だった。あるいは『火魔法』の場合も、なかなか残念な継承だっただろう。


 『召喚』スキルは……ちょっと面白そうだったかもしれない。

 もしかしたらリンゴちゃんが、別の大ネズミ君を召喚するなんてことになっていたかも? それはちょっと面白かったかもしれない。


 『ダンジョン』スキルなら……うん? 『ダンジョン』スキル?

 これはちょっとわかんないな、どうなるんだろう。


「んー……。もしも他のスキルを継承していたら、どうなったんでしょう?」


「え? あー、そうですね。リンゴちゃんはもう継承が済んだ後ですけど、アレクさんにはこれからまた新しく召喚獣が増えるかもしれないですしねー」


「ええまぁ」


「召喚獣として、歩きキノコと契約したいと言っていましたっけ?」


 言っていない。もしかしたら歩きキノコが召喚獣になるんじゃないかって話はローデットさんにもした記憶があるけれど、契約したいなんて言ったことはない。


「えぇとそれで、他のスキルを継承――例えば『ダンジョン』スキルが継承されたりしたら、どうなるんですかね?」


「『ダンジョン』スキルですか?」


「はい。今までのことを思い返すと――『ダンジョンマスター』になった結果、『ダンジョン』スキルを取得って感じだと思ったのですが……」


 スキルを手に入れてダンジョンを作るわけではなく、ダンジョンが作られた結果としてスキルを手に入れるって流れだと思った。


 だとすると、スキルだけを継承することになるのか? ダンジョンがないのに、『ダンジョン』スキル持ちって可能性が……?


「んー。どうなんでしょう。いかんせん『ダンジョン』スキルを持っている人なんて、そうそういないですから。それに加えて『召喚』スキルも珍しいスキルですからねー。両方が組み合わさったケースというのもなかなか……」


「なるほど……」


 さすがのローデットさんもわからないようだ。

 ただ僕としては、希少なスキル持ちだということを改めて強調してもらえて、何やら気分が良い。


「アレクさんの言うように、新しくダンジョンを建設できるといったことはないかもしれませんねー」


「そうですか、それは残念です……」


「アレクさんの『ダンジョン』スキルを継承したということで、現在のアレクさんのダンジョンを操作できたり――なんてことはあるかもしれませんが」


「んん?」


「はい?」


「あ、いえ、そうですね。なるほど、そんなことがあるかもですね……」


 それはつまり……今の僕とナナさんのような状態になるってこと?

 だったらまぁ、最悪のスキル継承ってわけでもないかもしれない。ダンジョンを共同で管理できるということは、ダンジョンメニューも共有ということだ。


 つまり――Dメールのやり取りができる!

 ……まぁ利点としてはそれだけか、やっぱりちょっと微妙かな?


 うーん。こう考えると、なんだか僕の継承スキルはハズレが多い印象だ。

 リンゴちゃんの場合は大当たりだった可能性もありそうだけど…………問題はミコトさん。


 おそらくミコトさんにも僕のスキルが継承されているはずだが、果たしていったいどのスキルを継承したのか……。

 なんというか、地上に降りてからのちょっと残念なミコトさんを見る限り、ここでも残念な結果になっている気がしてならない……。





 next chapter:木工シリーズ第六十四弾『トランプ』

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