第276話 神樹様の贈り物


 ジェレッドパパに依頼したくらだけど――ナナさんの採寸は別に必要ないらしい。

 僕ときたら、うっかり勘違いしておかしなことを口走ってしまった。


 もう少し騒いでいたら――ナナさんの尻を守るためにもう少し騒いでいたら、おそらく僕もつまみ出されていたことだろう。危ないところだった。


 ジェレッドパパ曰く、とりあえずナナさんの尻はどうでもよくて、そんなことより大ネズミのジェイド君の体格やら姿勢やらに合った鞍を作ることの方が大変なんだそうだ。

 それでも三日もあれば完成すると言ってくれた。さすがはジェレッドパパ。


 せっかくなので、完成までナナさんに鞍のことは内緒にしておこうと思う。内緒にしておいて、サプライズでプレゼントしよう。

『サプライズで鞍をプレゼント』とだけ聞くと、何やら僕の感性を疑われてしまいそうな気もするけど……まぁたぶんナナさんは喜んでくれるんじゃないかな。


 とりあえずそんな感じで、ジェレッドパパのお店での用事は無事に終わった。

 そしてお店を出た後――今度は教会へとやってきた。


「『召喚:大ネズミ』」


「キー」


「というわけで――大ネズミのリンゴちゃんの鑑定をお願いしたいんです」


「なるほどー」


 教会にやってきた僕は、ローデットさんに二人分の鑑定代を払ってから、リンゴちゃんを召喚した。

 ローデットさんはジェイド君をリンゴちゃんと呼ぶので、今回はそれに合わせよう。


 ……フリードリッヒ君だったりジェイド君だったりリンゴちゃんだったりと、なんだか毎回せわしなく名前が変わっていくね。


「そうですかー、リンゴちゃんの鑑定ですかー」


「はい、お願いします」


 今回はそのために教会へやってきた。

 一週間前、ナナさんが案内中だったミコトさんの鑑定は保留してもらったわけだが、その後みんなで話し合ったところ――リンゴちゃんの鑑定を先にしてみたらどうかという結論になったのだ。


 ……いや、別にモルモットというわけではないのだけど、そういうわけではないのだけど。


「というか、そもそもリンゴちゃんは鑑定できるんですかね?」


「んー、水晶に手を置いて魔力を流せば、普通に鑑定できると思いますけどー」


「なるほど……。どうかなリンゴちゃん、できそう?」


「キー」


 なんか普通にできるっぽい。

 そういえば家でも魔道具の起動とかは普通にできていたっけ? だったらそれくらいは余裕なのかな?


「リンゴちゃんはなんて言ったんですか?」


「『任せて! そのくらい余裕よ!』と言っています」


 今回はリンゴちゃんなので、なんとなくその名前に合わせた言葉遣いに翻訳してみたり。


「それじゃあさっそく――あ、その前に僕も鑑定していいですか?」


「いいですよー?」


 すでに二人分払っているからね、僕もしっかり鑑定しておこう。


「ありがとうございます。ではさっそく」


「どうぞー」


 よしよし、それじゃあ僕の鑑定だ。そりゃあ今回のメインはリンゴちゃんだけれども、僕も僕で何か変化がある嬉しい。

 案外手に入れたばかりの『召喚』スキルのアーツかなんかを、取得していたりしないだろうか?


 そんなことを考えながら水晶に手を置き、魔力を流して鑑定――したのだけど、残念ながら前回の鑑定から変化はなく、続いてリンゴちゃんが鑑定する番になった。


「それじゃあ次はリンゴちゃんですねー」


「…………」


「どうしたんですか?」


「なんでしょうね、なんというか……」


 僕の鑑定が、とても雑に処理されたような気がする……。


「いえ、なんでもありません。それじゃあリンゴちゃん、準備はいいかな?」


「キー」


「うん。じゃあ頑張って」


「キー」


 若干緊張した面持ちで、水晶に手を置くリンゴちゃん。

 なんだか僕も少しドキドキする。いったいどんな結果が出るのだろう? 全然予想できない項目も多いからね。


 さぁさぁ、いったいどうなる――



 名前:リンゴ

 種族:大ネズミ 年齢:0

 職業:大ネズミ見習い

 レベル:1


 筋力値 1

 魔力値 1

 生命力 1

 器用さ 1

 素早さ 2


 スキル

 大ネズミLv1 剣Lv1



「ほー」


「へー」


「キー」


 こんな感じなのか。なるほどなぁ。

 何やらずいぶんすっきりした鑑定結果にも見えるね。なんとなく昔の自分を思い出す。


 ……まぁすっきりしているとはいえ、ツッコミどころは結構ありそうだけど。


「それにしても……リンゴちゃんはリンゴちゃんなんだね」


「キー」


 ある意味一番気になっていたと言っても過言ではない名前らんだが、リンゴちゃんの名前は『リンゴ』らしい。

 下手したら、今まで付けられた名前が全て羅列されるんじゃないかと震えていたのだけど……実際に記載されたのは『リンゴ』のみだった。


 いやしかし『リンゴ』か……。もしかして、今現在そう呼んでいるからじゃないか? これもリンゴちゃんが、いろいろと空気を読んだ結果なんじゃあないだろうか……?


「名前はさておき……とりあえず種族と年齢は納得な感じでしょうか」


「そうですねー」


 種族は大ネズミで、年齢はゼロ歳。まぁ納得だ。


「それで、やっぱりレベルは1ですか。ローデットさんが教えてくれた通りですね」


 ユグドラシルさんやローデットさんが教えてくれたことだが、召喚獣はレベル1の状態から始まるらしい。

 初召喚から約三週間、そこそこいろんな体験をしてきたリンゴちゃんだけど、さすがに三週間ではレベルアップに至っていないか。


「少し気になったんですが、『素早さ』だけ2ですね」


 能力値の項目、『素早さ』だけが2で、他の四項目は全部1だ。なんだろうこれ、少し気になる。


「そうですねー。贈り物らしいですよー?」


「贈り物?」


「どんな人でもレベル1の時点だと、五項目のうち四項目は能力値1で、一項目だけ能力値2なんですー。その一つ多い分を、『神樹様の贈り物』って呼ぶらしいですー」


「神樹様の贈り物……。神樹様って、ユグドラシルさんのことですよね?」


「そうですー。新しく生まれた子にお祝いとして、ユグドラシルさんが能力値を一つプレゼントしてくれているとか」


「へぇ、そうなんですか」


 それで神樹様の贈り物か。へー、なんか面白いね。面白い逸話だ。


「この贈り物って、みんな『素早さ』なんですか?」


「ランダムらしいですー」


「ほうほう」


「神樹様が、個人個人に合った能力値を考えてプレゼントしているって話もありますけどー」


「え……?」


 いや、さすがにそれは神樹様が大変すぎるんじゃないか? ちょっと忙しすぎるでしょ……。


 正直、ユグドラシルさんは結構暇そうな人だと思っていたんだけど、そんな作業を毎日していたの……?

 いやけど……いや、どうなんだろう……。





 next chapter:僕からの贈り物

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