第274話 武器屋
「どうでしょう」
「おう」
僕が作ったナイフを手に持ち、じっくりと検分するジェレッドパパ。
「形が
「むぅ……」
「つっても、初めて作ったにしちゃあ上出来なんじゃねぇか? まぁこんなもんだろ」
「はぁ、そうですか……」
というわけで僕が作った刃渡り十五センチほどのナイフは、ジェレッドパパからツンデレっぽい評価をいただいた。
「続けてりゃあ、そのうちものになんだろ」
「はい。ありがとうございます」
そうだな。ジェレッドパパの言う通り努力を続けたら、いずれは僕も立派な鍛治職人に――
「いえ、別にそんなつもりもなかったのですが……?」
「あん?」
僕は別にそこまで鍛冶職人になりたいと願っていたわけでもないし、鍛冶職人への第一歩としてナイフを作ったわけでもないのだけど……。
始まりは、ちょっとした世間話だった。
ジェレッドパパのお店に訪れた僕は、世間話の中で――
『そういえば剣作りって、やっぱりハンマーでカンカンやるんですかね?』
なんてことを聞いてみた。『槌』スキル所持者として、少し気になったのだ。
……そうしたところ、あれよあれよという間に、僕がナイフを作る流れになってしまった。
何やら鉄を熱するための加熱炉っぽい魔道具に、鉄を突っ込んではハンマーで叩き、また突っ込んでは叩きを繰り返し、ナイフの形に成形した。
それからもう一度熱して、冷まして、砥石でシャコシャコと刃を研ぎ続け、どうにかナイフを一本完成させた。
少し気になって聞いてみただけなのに、何やらがっつり体験学習させてもらうことになってしまったのだ。
出来上がったナイフは、初めてにしてはなかなかだという。
もしかしたら『槌』スキルに加え、『剣』スキルを所持していたこともプラスに働いたのかもしれない。
おそらくだけど『剣』スキルを所持していれば、剣作りも上手くなるんじゃないかな? この世界のスキルは、それくらいなんでもありだと思う。
「貴重な体験をさせていただきましたが、もう腕とかパンパンなので、しばらくはやりたくないなって思っていたりもします」
「そうか……」
今日実際に体験してみて、鍛冶屋が
ジェレッドパパは普通に細身のイケメンだけど、たぶんこの人もエルフじゃなかったら、もっとガチムチになっていたことだろう。
「そういえば、ジェレッド君はこういうのやらないんですか? ジェレッド君もゆくゆくは、ジェレッドパパさんの跡を継ぐのでは?」
「あぁ、どうだろうな。別にあいつがやりてぇってんなら、俺も教えるつもりだけどよ」
「本人的には、そんな雰囲気もないんですかね?」
「そうだなぁ。それよりは狩人とかになりてぇんじゃねぇか? まぁそれならそれで構わねぇんだけどよ」
「構わないんですか?」
「まぁな。とりあえず今んとこ、そっちの方が向いてる気もするしな」
確かにジェレッド君が何かを作っていたりってのも見たことがない。それよりは弓とか射っている子だ。
……いやしかし、それは大丈夫なのだろうか? メイユ村的に大丈夫なのだろうか?
ここのホームセンターが廃業となったら、村人の生活に大きな影響を与えるに違いないと思うのだけど……。
「大丈夫なんですかね……?」
「何がだ?」
「村が」
「村が……? いや、まぁ大丈夫だろ。俺だって、あと百年二百年で引退ってわけでもねぇんだし」
どうやらジェレッドパパは、何百年単位でまだまだ現役を続けるらしい。なんともエルフ的な時間感覚だ。
「そのうちにジェレッドが跡を継ぎてぇって言うかもしれねぇし、他にも職人が出てくるかもしれねぇしな」
「なるほど。確かにまだ慌てる必要もなさそうですかね」
「なんだったら、坊主がやればいいんじゃねぇか?」
「はい? 僕ですか? え、僕がこの村のホムセンを継ぐんですか?」
「ホムセン?」
「あ、違いました。雑貨屋です」
「武器屋だよ」
あ、武器屋か。なんかもう普段からホムセンホムセンと呼んでいるもので……。
さておき、僕が武器屋ねぇ……。
なんだかピンとこないな。せめて鍛冶屋ならよかったのに。ブラックスミスなら、なんだか格好良い感じがするのに。
「あれだな、いずれは村長で武器屋だな」
「村長で武器屋……」
なんとも不思議な組み合わせだ……。
というか、やっぱり僕は次期村長候補なのか……。
「それよりよ、このナイフはどうする?」
「あぁ、そうですね。一応は僕が初めて作った武器ですし、買い取らせてもらえますか?」
矢とかは普段から普通に作っているけど、それとはちょっと別物だしね。記念に貰っておこう。
まぁあんまり出来も良くないし、記念品以外の使い道がなさそうではある。
「結局はタンスの肥やしになっちゃいそうですね」
「なんだったら、誰かにプレゼントしたらいいんじゃねぇか?」
「プレゼントですか?」
「レリーナ辺りにあげたら、たぶん喜ぶだろ」
「レリーナちゃんにナイフを……?」
いや、それはちょっと……。確かに喜んでくれそうな気はするけど、さすがにそれはちょっと……。
もしかしたら思い出の品にしてくれそうな気もするけど、下手したらこのナイフを使って、僕を『思い出』にしそうな気もする……。
「それで、鞘はどうする?」
「鞘? あぁはい、さすがに刃がむき出しは怖いですからね。木で適当に作ってもいいんですが、なんとなく革の方が良さげな雰囲気でしょうか?」
「んじゃ革で作るか。待ってろ、今準備すっから」
「ありがとうございます」
「おう。しっかり教えてやるよ」
「……はい?」
えっと、鞘も自分で作るのかな? いや、別にいいんだけどさ……。
◇
ナイフの形に革を切って、穴を空けて、糸を通した。
かなりシンプルな作りだけど普段使うわけでもないし、こんなもんでいいだろう。というか、これだけでも結構大変だった。
そして僕はナイフと革のナイフケースを受け取り、その分の代金を支払った。
「それじゃあ今日はこの辺で…………じゃなかった。用事があるんですよ」
「あん? 用事?」
そうとも、ちょっと用事があってここまで来たのだ。
だというのに、何故かいきなりナイフとナイフケースを作り始めて、将来武器屋になることを
そうじゃないんだ。もっと別の用事があったんだ
「実はジェレッドパパさんにお願いがありまして、ひとつ作ってもらいたい物があるんですよ」
「作ってもらいたい物? なんだ?」
「実は――
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