第263話 キノコのソテー
というわけで、ミコトさんの服は僕らが用意することに決まった。
「それじゃあ帰ったら母に頼んで…………ん? んん?」
「どうしましたマスター?」
「……えっと、母に頼んで服を用意してもらうとして、その服を着たミコトさんが現れたら――母は不審に思うよね?」
「あぁ、それは確かに」
ミコトさんは、ふらりと遊びに来たユグドラシルさんの友人だと説明するつもりなのだ。
となると、それはやっぱり不自然だろう。
「では私の服ならどうです? 見たところ、ミコト様と私はいい勝負な気がします」
「いい勝負……? 勝負ってのはよくわかんないけど、ナナさんもなぁ……」
ひょっとしたら、それがナナさんの服だとわかる人がいるかもしれない。となるとその人は、やっぱり不思議に思うだろう。
「うーん……。ナナさんの服もそうだし、例えば村で買った服とかでも、もしかしたらバレてしまうかもしれない」
「出どころがバレてしまうと?」
「うん。足が付くかもしれない」
「……なんだか犯罪者みたいだ」
ミコトさんを少ししょんぼりさせてしまった、申し訳ない。
「じゃあどうします? 新たに服を作りますか?」
「そうだね、それがいいかも」
さすがに生地から服を作れば大丈夫だろう。それならバレることもないはずだ。
「ですが、私は服なんて作れませんよ?」
「僕も作れない」
「神力があればなぁ……」
三人とも、服なんて作れないようだ。
まいったな。ではいったいどうしたものか……。
「それじゃあやっぱり――ユグドラシルさんかな?」
「ユグドラシル様ですか?」
「ユグドラシルさんにお願いして、ミコトさんの服を用意してもらって――何さ?」
何やらナナさんから、生暖かい視線を送られた気がする。なんなのさ。
「いえ、相変わらずマスターはユグドラシル様頼りだなと」
「…………」
「ま、まぁ気にするなアレク君。いつものことだ」
「…………」
そりゃあナナさんにそう言われても仕方ない気もするけどさ……。
というか、ミコトさんは一応フォローのつもりなんだよね……? 前から思っていたけど、ミコトさんはあんまりフォローが上手くないよね……。
「だってしょうがないじゃないか。もうこうなったらユグドラシルさんに頼る以外ないじゃないか」
「マスターは、大体二手目か三手目くらいにはユグドラシル様を頼りますよね」
「ぐぬぬ……」
「というかそのユグドラシル様は、つい今しがた帰ってしまいましたが?」
「ぬぅ……」
そうなんだよね、ちょうどついさっき帰ってしまった。帰る前に頼めばよかったな。
「電話しますか?」
「電話……。教会から電話で伝言を頼むの? それもなぁ……」
通話中は横にローデットさんがいるわけで、服を用意しているのをローデットさんに聞かれてしまう。
そこでバレてしまうのもちょっと問題だし、なんの話かとローデットさんに尋ねられたら、なんて答えたらいいかわからない。
「そもそも今は、教会へ行きたくなかったりする」
「おや珍しい。無類の教会好きなマスターが、どういう風の吹き回しですか?」
「無類の教会好きって……」
「違いますか?」
「……いや、いやいやいや。そんなふうに言われるのは心外だな。そんな根っからのキャバクラ好きみたいに言われるのは、少し心外だよ」
「……キャバクラとは言っていませんが」
「おぅ……」
なんてことだ、ナナさんのトラップに引っかかってしまった。誘導尋問だ。
「とにかくさ、今はちょっと事情があって教会へ行きたくないんだ。行くのはたぶん……一週間後とかかな?」
「そうなのですか?」
「うん。一週間後に教会で鑑定をして……『召喚』スキルを本格的に活用するのは、その鑑定が終わってからにしようかな」
「それまでヘズラトは待機ですか?」
「待機してもらおう」
「全裸待機ですね?」
「そりゃあ全裸だけども」
むしろ待機中どころか、活動中だってずっと全裸だ。
「まぁそういうわけでして、しばらくはフリードリッヒ君の召喚もミコトさんの召喚も、やめておこうかと思います。すみませんミコトさん」
「うん。わかった。大丈夫だ」
教会で鑑定するまでは、大ネズミのフリードリッヒ君は召喚禁止。
着替え用の服を手に入れるまでは、ミコトさんの召喚も禁止としよう。
せっかく手に入れた『召喚』スキルを使えないのは僕としても残念だけど、まぁ仕方ない。
どっちも数週間のうちに事が済むだろう。それまでの辛抱だ。
「それじゃあ私も天界に戻るとしよう。アレク君、送ってくれるかな?」
「はい。……あ、その前にキノコ食べていきますか?」
「キノコ?」
ミコトさんが頑張って倒した歩きキノコ。本当は自宅に戻ってから両親にミコトさんを紹介しつつ、そこで一緒に食べようと思っていたのだけど、ちょっとその予定をこなすのは難しそうだ。
ならば、ここで食べていってもらうのはどうだろう? なんかキャンプ感覚で。
「いわばミコトさんの初狩りでしたからね、やはり慣例通り、食べといた方が」
「なるほど。……え、生?」
「あぁ、焼きます」
当然エルフの森で火は使えないのだけど、ある意味焚き火よりも手軽で便利な『IHの魔道具』がある。こいつでささっとキノコをソテーしよう。
「あ、そもそもミコトさんはキノコ大丈夫ですか? お嫌いなら無理にとは――」
「ありがとう、大丈夫」
「そうですか……。あ、そもそものそもそも、召喚された今のミコトさんは、食事をできるんですかね?」
「んー、たぶん大丈夫だと思う」
お腹をさすりながら、そう答えたミコトさん。
元々食事をしないモンスターであるフリードリッヒ君は食べないとのことだったが、ミコトさんは大丈夫らしい。『たぶん』ってのが少し気になるが……。
「えぇと、無理そうなら我慢しないでくださいね?」
「うん。ありがとう」
「それじゃあ調理を始めます――ナナさんが」
「私ですか……。ええまぁ私は『料理』スキルを持っていますからね。お任せください」
ナナさんが
「少々お待ちくださいミコト様。すぐに美味しいキノコを召し上がっていただきます」
「ありがとうナナさん」
そしてナナさんは、手際よく調理を始める。
まぁ調理といっても、IHの魔道具を起動させ、切ったキノコを鍋に放り込むだけである。それでも僕が焼くより美味しいのだから、『料理』スキルは不思議。
「しかし、キノコだけってのもなんだね」
「そうですね。確かにちょっと寂しいかもしれません」
せめてお肉かなんかがあればよかったのだけど。
……そしたら僕はお肉だけつまんで、キノコは食べたフリができるのに。
「ナナさんは、他に食材とかもってない?」
「あいにくと」
「そっか。僕ももってないんだよね……。なんなら今からモンスターでも出てくれたらいいのに」
そうしたらサクッと狩って、食材に加えるのに。
「モンスター? ツノウサギとか、ボアとかですか?」
「ん? うん、まぁそうだね」
「あるいは――――大ネズミとかですか?」
「え?」
いや、そりゃあ別に大ネズミでもいいんだけど……。
「大ネズミが出てきてくれたら……」
「うん……」
「大ネズミが、地面からにゅっと出てきてくれたら……」
「…………」
なんだかナナさんが、不穏なことを言っているような気がする……。
やめるんだナナさん。フリードリッヒ君を食材扱いするのはやめるんだ。
next chapter:『召喚』スキル、徹底解説!
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