第253話 ダンジョンマラソン2
世界旅行の出発日が決まったあの日から、四ヶ月が経とうとしていた。
レベルアップのペース的に、僕はもうすぐレベル25に到達すると思われる。
そんなわけで僕はここ二週間ほど、最後の追い込みとしてダンジョンマラソンを行っていた。
マラソンのスタートは1-4エリア、ゴールは4-4エリアだ。
1-4から出発し、モンスターを倒しつつダンジョン内を駆け抜けて、4-4に到着したらワープで再び1-4へ戻ってくる。そんなダンジョンマラソンである。
飽きが来ないように、いろんな人とペアを組んでもらいながら走っていたのだけど、最近はもっぱらソロでのマラソンだ。
一人でマラソンをしているうちに、僕はちょっとした楽しみを見つけたのだ。
それが――タイムアタックである。
効率を求めるならば、なるべく早いペースで周回することが望ましい。
そんなことを考えて1-4から4-4までの到達タイムを計っていたのだが、そのタイムを縮めることが、なんとなく少し楽しい。
剣を使った場合、弓を使った場合、槌を使った場合で、それぞれ計測なんかして楽しんでいた。ダンジョンメニューには時計機能が付いているので、正確なタイムを計測することができるのだ。
ちなみにタイムとしては剣が一番速く、続いて弓、槌の順であった。
そのことを、同じくダンジョンメニューを使えるナナさんに話してみたところ……僕が頑張って作った弓部門の記録を、ナナさんにあっさりと塗り替えられてしまった。
……なんて無慈悲なんだナナさん。
さすがに悔しいので、どうにかナナさんの記録を抜けないかと、僕なりに頑張って挑戦しているわけだが――
「だらあぁぁぁ! ――『ダンジョンメニュー』!」
僕は勢いよく4-4エリアに転がり込み、すぐさまダンジョンメニューを開いた。
レギュレーションでは、ゴールは4-4エリアに入った瞬間となっているのだ。
さぁ、果たしてタイムは――!
「シャッ!」
勝った! ナナさんの記録より、十秒ほど早く4-4へ到達することができた! 新記録だ!
ということは、つまりあれだ――世界新記録だ! 僕は世界記録保持者の座を、再び取り戻したんだ!
「ひゅーひゅー……。けど……もう、これはやめよう……」
全力でダンジョンを駆け抜けたため、呼吸もままならず、床に倒れ伏したまま僕はつぶやいた。
もうやめよう……。とりあえず、このタイムアタックはもうやめよう……。
最終的に、なりふり構わずなダンジョンマラソンになってしまっていた。
タイムを縮めるため、モンスターを倒すことを完全に放棄していたからな……。
今のマラソンなんて、矢を一本だけ持って、接敵したら矢切り『パラライズアロー』で動きを止め、モンスターはそのままスルーしてきた。
もうあんまり弓部門って感じでもなくなっていたし、レベル上げという本来の目的からは、完全に逸脱している……。
いやはや、改めて考えると何をやっているんだ僕は……。
◇
メイユ村に帰ってきた。
タイムアタックに一区切り付いたので、今度は普通のダンジョンマラソン――普通にモンスターを倒すダンジョン周回を行ってから村へ戻ってきた。
「なんか楽しかったな」
剣を用いて五周ほど回ってきたのだが、なんとなく楽しかった気がする。
剣を使ってモンスターの攻撃を
我ながら、ちょっと意外な感覚だ。まさかこの僕が接近戦を楽しむようになるとは……。
僕の体に流れる剣聖の血が、そう感じさせるのだろうか?
「まぁ、最近は走ってばっかだったからって気もする」
ここ数日は矢を持って走ることしかしていなかった。あれに比べたらなんだって楽しいわな。
「おっと、着いた着いた」
ぼんやり考え事をしながら村の中を歩いていたら、教会へ着いた。
最近はダンジョンへ行った後、自宅へ戻る前に教会に寄るのが日々の流れとなっている。
「こんにちはー」
僕は挨拶をしながら教会へ入り、応接室に向かってずんずん歩く。
「どうもー、アレクでーす」
「どうぞー」
「失礼しまーす」
応接室をノックしながら尋ねたところ、ローデットさんの返事が聞こえたので、そのまま入室した。
もう毎日やっているやり取りのため、流れもだいぶスムーズになっている。
「よろしくお願いします」
「どうぞー」
「では失礼して」
すでに鑑定用の水晶も準備されていたので、ローデットさんに硬貨を渡してから、水晶に魔力を流した。
……もはや流れがスムーズというよりも、流れ作業だな。ローデットさんも、ここまで『どうぞー』しか言っていない。
名前:アレクシス
種族:エルフ 年齢:16(↑1) 性別:男
職業:木工師
レベル:25(↑1)
筋力値 18(↑1)
魔力値 14
生命力 8
器用さ 33(↑1)
素早さ 6(↑1)
スキル
剣Lv1 槌Lv1 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2 ダンジョンLv1
スキルアーツ
パワーアタック(槌Lv1) パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)
複合スキルアーツ
光るパワーアタック(槌) 光るパラライズアロー(弓)
称号
剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター
――うん。鑑定も無事に終了。
「ありがとうございましたー。じゃあ、明日また来まーす」
「え、あの、アレクさん。レベル上がってますよ?」
「……え?」
えっと……? おぉ、本当だ。上がってる。
なんかもうルーティンワークをこなすことだけに集中していた……。無事に日課をこなせたので、ついついそのまま帰ろうとしてしまった……。
あぶなかったな……。本当にあぶなかった。
ローデットさんが止めてくれなければ、家に帰ってそのまま普通に寝ていた気がする……。
ユグドラシルさんとの約束を、またもや間抜けな感じで破ってしまうところだった……。
next chapter:もしもしの人
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