第252話 ナナさんはどうする?


「高尾山、なかなか良かったです」


「そうなんだ」


 新規エリアとして、ダンジョンに5-1山エリアを製作した僕達だが、作ってすぐにナナさんは自らの目で確かめに行ったらしい。

 その結果、なかなか良かったという。ある意味結構な自画自賛ともいえる。


 そして僕達子供エルフは、またしても立ち入り禁止となっている。

 相変わらずダンジョンの新規エリアは、大人エルフが安全を確認するまでは立ち入り禁止。僕達子供エルフが入れるのは、例のごとく一ヶ月近く後のこととなるだろうか。


「蝶々が綺麗でしたし、ムササビなんかも見られて楽しかったです」


「それは何より」


 ちなみにナナさんは、村の女性陣と行ってきたらしい。

 ナナさんもこの村へ来て三年。村にも友人がたくさんできたようで、何やら喜ばしい。


「客入りはどうだったかな?」


「そうですね、やはり解禁すぐということで、結構な賑わいを見せていました」


「ほうほう」


「この人気を維持したいところですね。先代の高尾山のように、愛される高尾山になってほしいものです」


 地球の高尾山を、勝手に先代扱い……。


「子供エルフにも解放されたら、一緒に行きましょうか」


「うん、そうしよう。……というか僕的には、ナナさんも子供なのになって、思わなくもない」


「まぁこの世界で私の年齢を知っているのは、マスターとユグドラシル様だけですから」


 みんなが知らないのをいいことに、ちゃっかり大人ぶっているナナさんがズルい。


「あ、そういえばナナさんは村の外――エルフ界の外へも出ていいんだよね?」


 僕達子供エルフは、新規エリアに入れなかったり、エルフ界から出てはいけないなんて決まりがあるわけだが、それらのルールにナナさんは縛られていない。

 ナナさんが外に出ようとしても、それをとがめる人はいないだろう。


「まぁ出ても問題ないでしょう。そもそも私は、エルフ界の外から来たと思われている節があります」


 どう考えても見た目がエルフじゃないからなぁ。


「じゃあさ、ナナさんは僕の旅に付いてきてもいいわけだけど……どうする?」


「うーん……」


 前に聞いたときは、『マスターが出発するまでに考えたいと思います』なんてことを言っていたナナさんだが……もうあと半年で旅に出発することが決まってしまった。

 だとすると、そろそろ答えを聞いておきたい。


「いろいろと考えたのですが――やはり私は付いていくことができません」


「そうなんだ」


 そうか、それは少し寂しいな……。


「もちろん私としては付いていきたい気持ちはあるのです。『面倒だな……』とかも考えていません」


「……うん」


 あえてそう口に出したことで、『やっぱ面倒なんじゃね?』って、逆に疑ってしまった僕がいるのだけど……。


「ですが、正直私はそこまで高い戦闘技術をもっていません」


「ん? そうなのかな? 少なくとも僕よりは強いんじゃない?」


「そうだと思います」


「……うん」


 そうも素直に肯定されると、ちょっと微妙な気持ちになる。


「それでも、やはり足手纏いには変わりないでしょう。私が付いていくことは、ジスレア様の負担が増えるだけだと判断しました」


「そっか……」


「安心安全な村の中とは違うのです。かなりの危険が待ち受けていることでしょう。マスターが命を落とす可能性も高いと思われます」


「そんなこと思わないで」


 いや、最悪思ってもいい。ただ、口には出さないでほしかった。

 今日のナナさんは、余計なことをたくさん言ってくる。


「……本当は、付いていこうかと思っていたんです」


「そうなの?」


「はい。私も付いていけば、お祖父様とお祖母様、夫婦水入らずで過ごせるかなと」


「あー……いや、そこはあんまり気にすることもないと思うけど」


 父も母も、ナナさんを邪魔になんて思わないよ。それに二人とも、もう何百年単位で夫婦水入らずで過ごしてきただろうしさ。


「――ですが、昨日お祖母様が言ってくれたのです」


「うん?」


「マスターが居なくなって、少し寂しくなるかもしれないと、だから私が居てくれて良かったと」


「へー。あぁ、そうなんだ。それは良かったねナナさん」


 なんだかいい話だ。心温まるお話な気がする。


「そうまで言われたら、残らないわけにはいきません」


「うん、そうだね」


「マスターがいないことでできたお祖母様の心の隙間を、私が完璧に埋めてみせます」


「……よろしくね」


 完璧に埋めちゃうのか……。それはそれでちょっと複雑。


「じゃあ僕が居ない間、いろいろとよろしくね……」


「お任せください」


 僕が居ない村か……。どうなんだろうね。何か変わったりするのかな?

 パッと思い付くのは、お遊戯会が開かれなくなることと、ローデットさんの食事が少し侘びしくなることくらい?


 ……あとはまぁ、レリーナちゃんがどうなるかだけど。


「そういえば、私からも質問なのですが」


「ん? なんだろう?」


「マスターは人界と魔界、どちらへ行くのですか?」


「あー、それか」


 世界を見てくるという今回のおきてだが、人界と魔界、行くのはどっちでもいいらしい。


 というわけで、少し迷っていた。

 前世からのイメージからすると、魔界とかちょっと怖いイメージなのだけど、実際にはそんなおどろおどろしい世界ではないらしい。魔界に住む魔族の皆さんも、普通に会話も通じるし友好的な人達だという。


 ただ、今回は――


「人界に行ってくるよ」


 今回は、人族が多く住む人界を見てくるつもりだ。

 家族やジスレアさん等、事情を知っている人に話を聞いて考えた結果、そう決めた。


「魔界ってのも、少し興味があったんだけどね」


「サキュバスについて、強い関心を抱いていましたね」


「…………」


 いや、別にそんなこともないけれど。


「どうもこの世界のサキュバスさんは、誰彼構わず誘惑する淫魔ではないらしいですが」


「そうらしいね」


「残念でしたねマスター」


「いや別に」


「……ふむ。むしろマスターは、そういった『貞操観念のしっかりしたサキュバス』ってフレーズに、妙な興奮を覚えたりしますか?」


 やめて、分析しないで。


「まぁとにかく、今回は魔界じゃなくて人界だよ。人界に行ってくるよ」


「そうですか。ちなみに、どうしてそちらを選んだのですか?」


「うん。なんといっても――冒険者ギルドだよね」


 冒険者ギルド――冒険者として組合に加入して、仕事を請け負うあれだ。

 エルフ界にはなくて残念に思っていたのだけど、なんと人界にはあるらしい。


 それを聞いてしまったら、もう行くしかないだろう。

 これでも異世界転生者の端くれだ。冒険者ギルドには、是非とも登録しておきたい。


「薬草の採取とかしたい。じわじわと冒険者ランクを上げてみたい」


「ずいぶんと地味な活動を望んでいますね……」


「いずれはSランクの冒険者とかになって、二つ名とかで呼ばれてみたい」


「なんとも極端な……」


 いや、さすがにちょっと過程を端折はしょりすぎたか。

 それだと僕の二つ名は、『薬草の採取家』になってしまう。


「けどさ、実際に次回のチートルーレットの結果次第では、いきなりSランクってこともありえるんじゃない?」


「はい? と言いますと?」


「そりゃあ今の僕にそんな実力はないけどさ、次回でとんでもない戦闘用チートスキルなんかを手に入れたりしたら、一瞬でランキングを駆け上っていって、あっという間に高ランク冒険者なんてことも……」


「あぁ、その可能性はありますね」


「でしょ?」


 むしろ転生者って、それが普通な気がする。

 圧倒的なチートを頼りに、どんな依頼も瞬く間に達成し、ガシガシとランクを上げていき、みんなにワーキャー言われるんだ。それこそ転生者の醍醐味だいごみな気がする。


「確かに可能性はあります。可能性は……」


「うん。可能性はね……」


 可能性だけはあるんだ。


 ……だけど、なんだろうな。今までの流れや、ここまでの人生を振り返ると、僕に限ってそんな未来は訪れないような、そんな悲しい予感もする……。





 next chapter:ダンジョンマラソン2

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