第222話 『光るパラライズアロー』


 危うく死んじゃいそうな事故はあったけれども、ナナさんの『丸のこ』はとても有用なスキルだということがわかった。


 さすがに世界樹を切ることはできなかったが、ある程度の厚さや硬さがある木でも、すいすいと切断していく様を見せてもらった。

 そしてナナさんも、『いつかは世界樹も切ってみせる』なんて息巻いている。


 羨ましいものだ。こうして新スキルなんかを見せられると、ついつい羨ましいと思ってしまう。

 僕も何か、新しいスキルがほしいと願ってしまう。


 ――というわけで、今日は教会へやってきた。


 まぁそんな理由がなくても教会へは隔週で訪れているわけだけど、とりあえず今日の目標は新しいスキルアーツだ。

 そろそろ生えていないだろうか。『火魔法』でも『槌』でも『木工』レベル2でもいいので、何か生えていないだろうか。……それか、いい加減『剣』スキルが生えてくれないだろうか。


 そんなことを考えながら、教会で鑑定してもらった結果――



 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:14 性別:男

 職業:木工師

 レベル:21(↑1)


 筋力値 15(↑1)

 魔力値 10(↑1)

 生命力 8

 器用さ 29(↑1)

 素早さ 5


 スキル

 槌Lv1 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2 ダンジョンLv1


 スキルアーツ

 パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)


 複合ふくごうスキルアーツ(New)

 光るパラライズアロー(弓)(New)


 称号

 剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター



「あ!」


「おお!」


「やりましたねアレクさん!」


「はい! ありがとうございます!」


 なんか生えてた! 狙っていたものとは全然違ったけど、なんか生えてた!


「『複合スキルアーツ』ですか……。噂には聞いていましたけど、ついに僕も……」


「おめでとうございますー」


「ありがとうございますローデットさん」


「説明を聞きますか?」


「え? あ、はい」


 解説キャラのローデットさんが、妙にやる気を見せ始めた。

 解説キャラというよりも、もはやゲームのチュートリアルっぽい口調にすらなっているけど、ありがたく聞かせてもらおう。


「複合スキルアーツ――簡単に言えば、所持しているスキルアーツ同士が融合ゆうごうして生まれるスキルアーツですねー」


「ふんふん」


「『光るパラライズアロー』とのことですから、おそらくアレクさんの『ヒカリゴケ』と、『パラライズアロー』が融合したんだと思いますー」


「名前からして、それっぽいですね」


 なるほどなるほど。『ヒカリゴケ』と『パラライズアロー』が融合か。


 ……いや、どうなんだろう。

 取得したばかりでこんなことを言ってしまうのはあれだけど――微妙なスキルアーツである可能性をびしびし感じる。


「複合スキルアーツは、相性が重要なんですよー」


「相性ですか?」


「スキルアーツ同士の相性ですー。相性が良くないと、あんまり融合してくれませんー」


「ほー」


「そのせいか、戦闘系スキル同士とか生産系スキル同士の融合が多いんですー。今回の融合は珍しいパターンですねー」


 確かに今回は系統が違うスキルアーツ同士の融合だ。

 『パラライズアロー』は間違いなく戦闘系スキルアーツだし、『ヒカリゴケ』は……何系だろう? とりあえず、間違いなく戦闘系ではないが……。


 というか、なんなんだろうね『ヒカリゴケ』って……。

 未だに『ヒカリゴケ』というスキルアーツがなんなのか、僕自身よくわかっていない……。


「戦闘系の複合スキルアーツだと、よくあるのが攻撃魔法と『弓』スキルの融合ですー」


「ほうほう」


「例えば、爆発する『火魔法』の『エクスプロージョン』と、強力な矢を放つ『弓』スキルの『パワーアロー』との複合スキルアーツ――『パワーエクスプロージョン』」


「おぉ。なんか格好良いですね」


 良いね。名前からして格好が良い。

 あれかな? 矢が着弾したときに、大爆発を起こしたりするのかな?


「そんな複合スキルアーツを、矢切りで発動させたって話も聞いたことがありますー」


「え? それは……矢を手で持って、切りつけて発動ってことですか?」


「そうですー」


 え、でも、そんなことをしたら――


「大爆発に巻き込まれたそうですー」


「…………」


 巻き込まれたとかじゃないだろうそれは……。単純に自爆じゃないか……。


「というわけで、アレクさんも気を付けてくださいねー」


「はぁ、ありがとうございます」


 まぁ『光るパラライズアロー』を矢切りで発動させたところで、大して危険もなさそうだけど……。


「ところで、ちょっと聞いていいですか?」


「なんですかー?」


「鑑定の『光るパラライズアロー』って文字の後ろに、『弓』って書いてありますけど、これは?」


「弓を使用して発動するスキルアーツってことですねー」


「あぁ。それじゃあ弓で矢を放ちつつ『光るパラライズアロー』と叫んだら、発動するわけですね?」


「そうですー」


 なるほどなるほど。この辺りは普通のスキルアーツと同じだね。

 ……だけど、呪文がちょっと長いな。噛みそうで少し心配。


「とりあえず一回使ってみたいですね」


「そうですねー。どんなアーツなのか、私も気になりますー」


「あ、じゃあ一緒に行きます?」


「一緒にですか?」


「はい。近場の森か訓練場あたりで試し射ちしてこようかと思いまして、もしよかったら……」


「んー。やめときますー。修道女として、ちゃんと教会で待機しておく義務がありますからー」


「あー、そうですか」


 残念だ。店外デートは断られてしまった……。

 『光るパラライズアロー』に多少は興味があったようだが、わざわざ外出して見に行くほどではなかったらしい。


 あぁ、うん。もちろんローデットさんのいう『修道女としての義務』なんて言葉を、本気にしてはいないさ。


「使ってみた感想を、後で聞かせてくださいー」


「はーい」



 ◇



 試し打ち。『光るパラライズアロー』の試し射ちがしてみたい。


 ろくにローデットさんの興味も引けない程度のスキルアーツだし、名前からして残念な雰囲気が漂ってはいるが、なんといっても初めての複合スキルアーツだ。なんだかんだ僕的にはわくわくしている。


 というわけで、さっそく試し射ちに行くことを決めた僕は、ローデットさんに挨拶をしてから教会を後にした。


 ちなみに、僕が教会の応接間を出て扉を閉めようとしたとき、ふと目に入ったローデットさんは――すでに横になり、タオルケットを体にかけようとしていた。

 修道女の義務とはいったい……。


「まぁいいさ。まぁ仕方ない。一人で訓練場に――うん?」


 訓練場に向けて村の中をてくてく歩いていると――とある人物を発見した。


 あぁ、ちょうどいいな。ちょうどいいタイミングで、ちょうどいい人物を見つけた。

 少し付き合ってもらおう。僕が初めて取得した複合スキルアーツ『光るパラライズアロー』の試射会に、ちょいとご招待しようじゃないか。





 next chapter:綺麗だね

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