第203話 後ろから矢を射たれると怖い


 大槌を使った初めての実戦が終了した。

 結局いつものヤラセハンティングになってしまったけれど、とりあえずは終了した。


「お疲れアレク」


「ありがとうディアナちゃん」


 ……まぁ、あんまり疲れてもいないけど。


「どうする? 次は一人でやってみる」


「あー、そうだね……」


 ディアナちゃんが僕に、ソロでの戦闘を提案してきた。

 きっとディアナちゃんもさっきの戦闘を見て、『あんま戦闘になってねぇな』と感じたのだろう……。


「……いや、次もこんな感じでいってみよう」


「そうなの?」


「うん」


 確かに先の戦闘は、とても残念なものだった。

 むしろ僕なんて、戦闘に参加したといっていいのかすら疑問だ。


 そんな残念なヤラセハンティングではあったものの、ひとつだけ、とても重要な事実に気付くことができた。


 それは――


『後ろから矢を射たれると怖い』


 ――これである。怖かった。すごく怖かった。正直こんなに怖いとは思っていなかった。

 今まで大ネズミとは何度も戦ってきたけれど、これほど恐ろしい大ネズミ戦は初めてだった。


 これはちょっと対策を講じなければいけないだろう……。


「普通に一人で戦ってもいいんだけどね。せっかくディアナちゃんがいるんだから、連携を学びたいんだ」


「連携?」


「うん。ディアナちゃんが遠距離から攻撃して、僕が接近戦を挑む。そのときの連携」


「ふーん」


 そんな連携を学習していこう。

 そして、背後から矢を射たれる恐怖をどうにか克服しよう。


 パーティを組んだ場合、どうせ味方は遠距離職ばかりなんだ。この恐怖を克服しない限り、僕はパーティ戦で剣や槌を使えなくなってしまう。


「じゃあ行こうディアナちゃん」


「うん。次はあれ?」


「そうだね」


「うし」


 次の大ネズミに狙いを定め、僕等は戦闘を開始――


「よいせ」


「…………」


 そして、戦闘が終了した。

 僕が大ネズミに向かって数歩進んだところで、大ネズミはディアナちゃんの矢によって駆逐くちくされた。


「……もうちょっと待った方がよかったかもしれない?」


「そうだねぇ……」


 これは、先行き不安だな……。



 ◇



 なかなか難しい。弓士との連携ってのは、なかなかに難しい。


 1-1エリアの大ネズミは、弱すぎて連携も何もなかった。

 1-2エリアに進み、今度は逃げる小銭スライムを追いかけてみたのだけれど……残念ながら僕は小銭スライムに追い付くことができなかった。ここでもディアナちゃんが矢を放つだけで終わってしまった。


 本格的な戦闘訓練は、1-3エリア以降だ。

 ボアやワームやウルフなどを相手取り、僕は大槌で戦闘を挑んだ。そしてその最中に、ディアナちゃんに弓で援護してもらった。


 大槌の使用自体は、問題なかったと思う。

 相手の攻撃を槌で受け止めることもできたし、を使った突きや払い、隙を見ての叩き付けも決めることができた。


 その点は良かった。良い経験ができたと思う。

 モンスターを相手では、対人とは違った難しさを感じたりもしたけれど、なんとかそれなりにこなせたと思う。

 大槌を使っていく上での自信にもなったし、ようやく大槌を使った初戦闘をやり遂げた実感が湧いてきた。


 ただまぁ――そんなことより矢が怖い。


 とても怖い。戦闘中に後ろから矢を射たれるのはとても怖い。それはもう尋常じゃないほどの恐怖を味わった。

 

 突然後ろから風切り音が聞こえてきて、次の瞬間、目の前のモンスターのどこかしらに矢が突き刺さっているのだ。

 僕がちょっとでもうかつに体を動かしていたら、この矢が僕に突き刺さっていたんじゃないか? ――そう考えると恐怖で震える。風切り音がトラウマになりそうだ。


 そんな中、ひとつだけ光明が見えたような……そうでもないようなことがあった。

 戦闘を重ねるうちに、だんだんとディアナちゃんが矢を放つタイミングがわかるようになってきたのだ。


 これで上手く連携が取れるようになるかな。……そう思ったものの、そのタイミングでどう動くのが正解なのか、いまいちわからない。


 例えば、ディアナちゃんが矢を放ちそうなタイミングで、射線をあけるために右に動いたとしよう。

 僕があけた射線に矢を通してくれるなら問題はない。――だがしかし、ディアナちゃんも矢を僕に当てないよう、少し右に矢を射っていたらどうなるのか?


 ……そしたらまぁ、僕が射たれるわけだ。

 そう考えると、うかつに動くことも難しい。


 難しいな。弓士との連携は難しい……。

 あとで父に相談してみようか? 剣士の父なら、何かいいアドバイスをくれるかもしれない。


 もしかしたら、『僕もミリアムに後ろから何度も射たれたよ』とか言われそうで、ちょっと怖いけど……。


 ――そんなわけで、悩みながらビビりながら試行しこう錯誤さくごしながらダンジョンを進み、僕とディアナちゃんは3-4エリアに到着した。


「とりあえずお疲れー」


「お疲れ様、ディアナちゃん」


 結構本気で疲れた。いろいろと神経を使う戦闘が続いたせいか、かなり疲れた。


 3-4エリアは救助ゴーレムとワープ装置しかないエリアだ。モンスターもいないことだし、ここらでちょっと休憩していこう。

 そんなことを考えていたところ、ディアナちゃんがスタスタとエリアの最奥まで歩いていってしまった。


「ディアナちゃん?」


「まだできてないみたい」


「え? あ、うん」


 3-4エリアの次は、残念ながら未実装だ。

 当然僕は知っていた。僕が作っていないのだから、当然未実装である。


「早く作ってくれたらいいのに」


「…………」


 その台詞、レリーナちゃんにも言われたような気がする……。


 明日辺り、4-1についてナナさんとダンジョン会議でも開こうかな……。

 たぶんダンジョンポイント的にも問題ないはずだし、ナナさんと相談して、そろそろ4-1作製に着手しよう。


 レリーナちゃんやディアナちゃんの他にも、『早く作ってくれたらいいのに』と感じている人達がいるかもしれない。『世界樹様の迷宮』運営が批判されてしまう前に、新エリアを作ろう。


 なにせ、みんなこのダンジョンを運営しているのはユグドラシルさんだと思っているからな……。

 本人にまったく非がないのに、ユグドラシルさんの支持率が下がってしまうのは、さすがに申し訳なさすぎる……。





 next chapter:『インファーナル・ヘヴィレイン』

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