第175話 着信拒否


 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:14(↑1) 性別:男

 職業:木工師

 レベル:19(↑3)


 筋力値 13(↑2)

 魔力値 8(↑1)

 生命力 8(↑2)

 器用さ 27(↑4)

 素早さ 5(↑1)


 スキル

 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2 ダンジョンLv1


 スキルアーツ

 パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)(New)


 称号

 剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター



「変わってないですねー」


「そのようです……」


 残念ながら、鑑定結果は三日前のものと変わっていなかった。


 年齢はもちろん、レベルも能力値も、所持スキルにも変化はない。

 スキルアーツも変わらず、『パラライズアロー』に『ニス塗布』に『ヒカリゴケ』――三つのままだ。


「実はちょっとだけ、『剣』スキルにも期待していたんですが……」


「まだみたいですねー」


 残念だ。剣聖さんのお墨付すみつきをもらったわけだし、もしやと思ったのだが……。


「なにせ剣聖さんがもうすぐと言っていたので――うん?」


「どうしました?」


「よく考えたら、他ならぬ剣聖さんが『もうすぐ剣スキルを手に入れられる』って言ってたんですよね。『もうすぐ』って」


「はぁ」


「ってことは、剣聖さんの見解では『まだ剣スキルは手に入れてない』ってことですよね」


「あー」


 てっきり僕は、剣聖さんが『剣』スキル取得について太鼓判たいこばんを押してくれたのだと勘違いしていた。

 むしろ現状では、『剣』スキルを取得していないことに太鼓判を押してくれたわけだ……。


「まぁセルジャンさんが『もうすぐ』って言ってくれたわけで、もうすぐなことに変わりはないですよー」


「そうですねぇ……」


「それに、なんといってもまだ七年ですからねー、気長に行きましょう」


 まぁねぇ、焦ったって仕方のないことではあるけど……。


「仮にあと十年かかったとしても、それでも早い方ですからー」


「十年……」


 仮に早い方だとしても、『もうすぐ』と伝えられてから十年かかるのは、なんだか釈然しゃくぜんとしない。


 ……あれ? もしかして父は、エルフ的思考で『もうすぐ』って言ったわけじゃないよね?

 エルフにとって十年は『もうすぐ』――みたいな感じで言ったわけじゃないよね? 違うよね?


 ……帰ったら問い詰めよう。


「とりあえずスキルの方は置いといて、やはり当面はレベル20が目標ですかね」


「レベル20ですかー」


「こっちももうすぐだと思うんですよ」


「ペース的にそんな気がしますねー」


 レベル20は本当に『もうすぐ』だと思う。こっちは本当に『もうすぐ』なはずなんだ。


「そのせいか、アレクさんが教会に通うペースも上がっているみたいですけど?」


「そうですね。今は三日に一度ですか」


「お金は大丈夫ですか?」


「ええまぁ、その点は大丈夫です」


 これでも稼いでいるからね。金はある。金ならあるんだ。うなるほどある。


「そうですかー。よかったですー」


「はぁ……」


 それはいったい……。『よかったですー』ってのは、いったいどういう……。


「……あ、そうだ。レベルが20に到達したら連絡するようにと、ユグドラシルさんにも言われているんですよね」


「ユグドラシルさんですか?」


「はい」


 僕が天に召される瞬間に対し、何故か異様な執着しゅうちゃくを見せるユグドラシルさん。

 前回前々回と見れなかったことを大層悔やんでいて、次こそは絶対見るんだと息巻いている。


「なんでユグドラシルさんまで、アレクさんのレベル20を気にしているんですか……?」


「まぁ、その、節目なので」


「節目……」


 あんまりうまい言い訳も思いつかなかったので、適当に誤魔化した。

 あんまり誤魔化せた気もしないけど、誤魔化した。


 というかユグドラシルさんが気にしているのは、僕が転送される瞬間だ。

 何故そこを気にしているのかは、正直僕にもわからない。


「それでですね、レベル20に到達したことがわかったら、すぐに『通話』の魔道具で連絡しろと言われているんですよ」


「わざわざ通話で……」


「その通話の魔道具ってのが、この教会にあるんですよね?」


「ありますよー?」


「そうですか。その、ちょっと見せてもらうことってできますか?」


「いいですよー? 少し待っていてくださいー」


 ローデットさんはそう言うと、僕らが話していた応接室の、さらに奥の部屋へ姿を消した。

 一人取り残された僕は、応接室でしばし待つ。


 しばし待つが――


「遅いな……」


 え、こんなに時間がかかるものなの? もしかして厳重に管理されている物なの?

 軽い気持ちで『ちょっと見せて』とか言っちゃったけど、悪いことをしちゃったかな。


 ……それとも、まさか途中で寝ているなんてことはないよね?


「お待たせしましたー」


「あぁ、ありがとうございます」


 応接室から『起きてくださいー』とでも声を掛けようか悩み始めたところで、ローデットさんが帰ってきた。


「どこにあるかわからなくて、ずいぶん探しちゃいましたー」


「すみません、お手数おかけして」


「いいえー」


 ふと思ったのだけど、それって大丈夫なのかな? こちらからかけるときはまだしも、相手からかかってくることもあるんじゃないの?

 だというのに、そんなに雑な管理で大丈夫なのだろうか……。


「というわけで、これが通話の魔道具ですー」


「なるほど、これが」


 ローデットさんは、抱えていた小さな箱をテーブルに置いた。


「箱ですね」


「箱ですねー」


 ちょっと洒落たデザインの宝石箱っぽい小箱だ。天板には魔石が付いている。

 とりあえず開けてみようと、僕はその箱に手をのばす。


「その箱を開くと、会話ができますー」


「――うぉっ。……開くだけで、もう会話できるんですか?」


「そうですー。箱を開くと、森と世界樹教会の本部につながりますー」


 そうなのか……。あぶないところだった、うっかり開けてしまうところだった。

 用もないのに教会本部にイタ電をかけてしまうところだった。


「この箱を開けると、教会本部の箱から音――呼び鈴が鳴りますー。そうしたら本部の人も箱を開けて、それで会話ができるんですー」


「へー」


「会話が終わったら箱を閉じますー」


「なるほど」


 そういう感じなのか。

 箱を開けて会話を始め、箱を閉じて会話を終える。……なんとなく折りたたみ携帯を思い出すな。


「会話するとき、魔力は流さなくてもいいんですか?」


「大丈夫ですー。予め魔力を充填じゅうてんしておいて、ずっと起動させておくタイプの魔道具ですー。こっちの箱とあっちの箱、両方起動していないと通話できませんからねー」


「あぁなるほど。どっちの箱にも魔力を充填しておかないといけないんですね」


 箱を開けても、相手の箱が魔力切れなら呼び鈴すら鳴らないだろう。

 だとすると、常時魔力を充填しておかなければいけないわけだ。


「この箱も、毎朝魔力を補充する決まりなんですー」


「そうなんですか。……あれ?」


 毎朝補充しているのなら、何故ローデットさんはこの箱を探すのに手間取ったんだろう……。


「どうしたんですかー?」


「いえ、なんでもないです。……えぇと、とりあえずこれを開ければそれだけで、教会本部の人と話ができる、ってことでいいんですよね?」


「そうですー。けどたぶん、今はできないですー」


「あれ? そうなんですか?」


「たぶん魔力が切れてますー」


「…………」


 いいのかそれは……。たぶん毎朝は補充していないんだろうとは思ったけど、そこまで放置していたのか……。


 教会本部から連絡がくることもあるんじゃないのか? だからこそ、毎朝魔力を補充する決まりだろうに……。


 本部でしょ? 本部からの連絡を、ガン無視していいのだろうか……。

 本部から連絡を、着信拒否していいのだろうか……。





 next chapter:『毒矢』と『パラライズアロー』

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