第174話 たぶんもうすぐ


「今朝はこのくらいにしておこうか」


「はい。ありがとうございました」


 日課である朝の剣術稽古が終わり、僕は父に礼をした。

 礼に始まり礼に終わるということで、丁寧に礼をした。


 時々休むこともあるけれど、ほとんど毎日続けている剣術稽古。毎日ちょっとずつ進歩している実感があり、結構楽しかったりする。


「たぶんだけど――」


「うん?」


「たぶんもうすぐ、アレクは『剣』スキルを取得できると思う」


「マジで!?」


「う、うん……。たぶんだけど」


 驚いたせいで、かなりくだけた口調になってしまった。

 そんな僕のテンションに押されて、父も軽く引き気味だ。


 しかしそうか。ついに僕は『剣』スキルを……。


「これだけできるなら、そろそろスキルを覚えてもおかしくないんじゃないかな」


「そっかー、そうなんだー」


 いつの間にか、僕の剣術はそこまで進歩していたのか。


「あくまでも僕の見立てだけどね?」


「けどけど、それならもう間違いないんじゃない? なんたって剣聖さんの見解なわけで――あ、ごめん」


「…………」


 浮かれていたせいか、つい父を『剣聖さん』と呼んでしまった。『剣聖』と呼ばれることを嫌がる父が、無表情になってしまった……。


「と、とりあえず、僕は『剣』スキルを覚えられそうなんだよね?」


「うん……」


「早く『剣』スキルを覚えられるように、これからも頑張るよ」


「……うん。そうだね、僕も協力するよ」


「ありがとう父」


「うん」


 そういうわけなので、明日からも頑張って稽古に励もう。


 ……ふと気が付いたのだけど、僕が現在所持しているスキルは、すべて授かりもののスキルだ。

 『弓』と『火魔法』は生まれつきだし、『木工』と『ダンジョン』はチートルーレット由来。


 今回『剣』スキルを手に入れることが出来たなら、自分の力で取得した初めてのスキルということになる。

 長い時間をかけて、初めて自力で取得したスキル……。きっと、感動もひとしおなものになるだろう。


 うん、頑張ろう。



 ◇



「そうなんですかー、セルジャンさんが」


「はい。もうすぐ『剣』スキルを取得できそうだって」


 父から『剣』スキルを取得できそうだと聞かされた僕は、教会へやって来た。

 なにせ剣聖さんのお墨付すみつきだからね。もしかしたら、すでに『剣』スキルを取得しているかもしれない――


 ……とまでは、さすがに思っていないけど、やっぱりちょっと期待しつつ教会まで来てしまった。


「『剣』スキルですかー。アレクさんが剣の練習を始めて、どのくらい経ちますか?」


「え? そうですね……七年ほどになりますかね」


 確か僕が剣を始めたのが、七歳くらいからだったと思う。そして今僕は十四歳。

 七年の歳月を経て、ようやくその努力が実を結ぼうとしているわけだ。なんだか少し感慨深いものがある。


「そうですかー、七年ですかー」


「はい」


「なるほどー、すごいですねー」


「はぁ……」


 ……予感がする。


 ローデットさんが、敏腕キャバ嬢の本領を発揮しようとしている気がする。そんな気配を感じる……。

 そして僕は、またしてもいい感じで持ち上げられて、気分を良くさせられてしまう気がする。そんな予感がする……。


「新しくスキルを取得するには二十年かかるって、前に話したじゃないですかー」


「あぁ、それは確か……あれですよね? 二十年にわたって木を伐採し続けたら、『伐採』スキルを取得できるかも――って話ですよね?」


「そうですー。アレクさんが木こりになる話ですー」


 いや、僕は別に木こりにはなりませんけどね……?


「あのとき言ったように、普通は最低でも二十年かかるんですー。それをアレクさんは七年ですー」


「ええ、まぁそのようで……」


「たった七年ですよ? すごいですー」


「ええまぁ、ええまぁ」


「すごいですー。とてもすごいですー」


「えー? いやいや、そんなことはないですけどー」


 案の定、僕はローデットさんに気持ちよくさせられてしまった……。

 警戒していたのに、結局いいようにされてしまった……。


 いやしかし、最低でも二十年と言われているところを七年で達成できたのなら、それは確かにすごいことだ。

 ……というか、異常と言ってもいいスピードだろう。


 なんでだろうね? やっぱり剣聖である父の指導を受けているからかな?


「――あ」


「はい?」


「もしかしたら僕がどうというより――称号の効果かもしれませんね」


「称号? 称号というと――『剣聖と賢者の息子』ですか?」


「はい。その称号のおかげでスキル取得までの時間が短縮されたとか、そんなこともあるかなって」


「あー、なるほどー……」


 僕が所持している『剣聖と賢者の息子』という称号。

 未だになんの意味があるかわからない称号だけど、もしかしたらこれの効果で、何かしらの補正が効いているのかもしれない。


「んー……。もしかしたら称号の効果があるのかもしれないですけどー、アレクさんが今まで頑張ってきたことに変わりはないですよね?」


「え? ええまぁ、そうですかね」


「小さいころから毎日練習していたんですよね? 七年間、地道にコツコツ練習していたんですよね? その努力があったからこそですよー。だからこそアレクさんは、スキルを取得できそうなところまできたんですよー」


「えぇと……」


「もしスキルを取得できたら、それはアレクさんの努力の成果ですー。それ以外の何物でもないって、私はそう思いますー」


 ローデットさんが、すごく良いことを言っている……。

 なんだかとても良いことを言って、僕の頑張りをたたえてくれた。


「そうですか……。ありがとうございますローデットさん」


「あれ? 泣かないんですか?」


「はい?」


 僕の様子をじっと見つめてきたローデットさんが、おもむろにそんな言葉をつぶやいた。

 何? 泣かない? なんだ、泣かないって?


「あの……?」


「いえ、なんでもないですー」


「そうですか……? えっと、とにかくありがとうございます。そんなわけで、これからは『剣』スキル取得も楽しみになってきました」


「そうですねー。楽しみですねー」


 楽しみだ。ローデットさんも『努力の成果』だと力説してくれたので、僕の努力が成果として表れることを期待しよう。


「とはいえ、やっぱりさしあたっての目標はレベルですよね」


「レベル20ですかー」


「はい。たぶんもうすぐだと思うんですよ」


 今現在、僕のレベルは19。

 次のレベルアップでレベル20に到達。そうしたら、いよいよ五回目のチートルーレットだ。


「間隔的にもそろそろなはずなんですよね。たぶんもうすぐレベルアップするんじゃないかって思っているんですけど……」


「そうですねぇ」


 前回のレベルアップから、半年ほどが経とうとしている。

 昨今のレベルアップのペースから考えても、そろそろ上がってもおかしくない。


「なんだかアレクさんは、レベルが五の倍数になるとき、妙にそわそわしますよねー」


「あ……。えっと、まぁそうですね。なんというか……節目ふしめ? 節目な感じがしてですね……」


「節目……?」


「節目なんですよ」


 とりあえずローデットさんには、それっぽいことを言って誤魔化す。


 まぁあながち間違ってはいない。僕にとって、五の倍数は節目。

 チートルーレットが行われる五の倍数は、人生の節目だったり転機だったりする。


「そういうわけで、そろそろ鑑定しますね?」


「あぁはい。ではどうぞー」


 さて、それじゃあ始めようか。

 とりあえずレベル20だな。レベル20お願いします。それで能力値もいい感じに上がってください。あと、できたら『剣』スキルもお願いします。


 なんとなくそんなことを願いながら、僕が鑑定用魔道具の水晶に手を置き、魔力を流すと――



 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:14(↑1) 性別:男

 職業:木工師

 レベル:19(↑3)


 筋力値 13(↑2)

 魔力値 8(↑1)

 生命力 8(↑2)

 器用さ 27(↑4)

 素早さ 5(↑1)


 スキル

 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2 ダンジョンLv1


 スキルアーツ

 パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)(New)


 称号

 剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター





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