第173話 お疲れ様でしたー!
「では、受け取るがよい」
「ありがたく頂戴いたします」
ユグドラシルさんが袋から取り出した世界樹の枝を、なんとなく
「それが世界樹の枝じゃ――といっても、お主には昔渡したことがあったが」
「そうですね。以前プレゼントしてもらいましたね」
僕が初狩りを無事に達成したとき、記念にユグドラシルさんから世界樹の枝をプレゼントしてもらった。
今回貰った枝は、あのときの物より気持ち大きめだろうか。
「以前渡した枝は、剣にしたのじゃったか?」
「はい。五ヶ月かけて剣にしました」
……あ、そうか。よく考えたら、別にユグドラシルさんから新しく枝を貰う必要もなかったんだな。
僕が五ヶ月かけて作った世界樹の剣だって、元は世界樹の枝だ。もしものときは世界樹の剣に蘇生薬をかければ、世界樹は復活する。
とはいえ、五ヶ月だからな……。製作日数五ヶ月だからなぁ……。
完成まで結構な苦労があったし、その分愛着もある。世界樹の剣を失うのは、少々惜しい……。
いや、そりゃあね、そりゃあユグドラシルさんの命には代えられないさ。剣一本でユグドラシルさんが助かるのなら、僕は
けどなぁ、けどやっぱり五ヶ月だからなぁ……。
「今も使っておるのか?」
「ええ。大活躍です」
「そうかそうか」
僕が答えると、ユグドラシルさんはどことなく嬉しそうな表情を見せた。
これは別にユグドラシルさんを喜ばせようと思って言った方便というわけではなく、事実として世界樹の剣は大活躍している。
……まぁ、主にお遊戯会でだが。
やはり剣を高々と掲げ、『世界樹様から授かったこの剣で、お前を倒す!』と叫ぶシーンは盛り上がる。大変盛り上がるのだ。
「――思ったのじゃが」
「はい?」
「その枝で、また何か作っても構わんぞ?」
「え? いや、けど……」
この枝は蘇生用だし……。
長い時間をかけてこれで何かを作ったら、僕はきっとまた蘇生用に使うのが惜しくなってしまうような……。
「別に枝一本丸々必要なわけではないじゃろ? その枝で何か作って、そこで出た木くず――『木くず』などと呼ばれると、なんか腹が立つのう……」
「そう言われましても」
自分で呼んでおいて、そんなことを言われましても。
「とにかく、木の切れ端からでも蘇生できるわけじゃろ? ならば、その枝で何か作ったらよい」
「あー、なるほど」
なるほどなるほど、確かにその通りだ。
他の人達は髪の毛数本だったように、ユグドラシルさんの場合は木くず――木の切れ端を保管しておけばいいわけだ。
「そうですね、それじゃあ何か作ってみます」
「うむ」
「何がいいですかね……」
やっぱり武器かな? 剣はもうあるから、他の何か?
家具とかもちょっと作ってみたい。だけど家具を作るのには、さすがに小さいかな?
どうしようか、今までに作った木工シリーズのどれかを、これで作り直してみようか?
「うーん……人形とかもいいですね」
「ふむ」
「これでユグドラシル神像を作ったら、それはもうユグドラシルさんじゃないですか?」
「意味がわからん」
残念ながらユグドラシルさんには、いまいち僕の言っているニュアンスが伝わらなかったみたいだ。
「もしくは……菌を付着させて、キノコの栽培とか」
「それはちょっと……」
それはちょっと嫌みたいだ。なんだかユグドラシルさんが渋い顔をしている。
というか僕もキノコ嫌いだしな……。
とはいえ、とても美味しいキノコを作れる予感がするんだけど……。
「とりあえずいろいろ考えてみますね。ありがとうございます」
「うむ」
この枝で何を作るかは置いといて、世界樹の枝を無事にゲットできた。
これで世界樹に何が起きても大丈夫だ。
まぁユグドラシルさんの話を聞いた感じだと、世界樹は最強すぎてあんまり意味はないような気もするけど……。
とにかく、最後の収集が完了――すなわち、『髪の毛が欲しい人リスト』の五人をコンプリートだ。
「これで家族枠もリストの人も、全員回収完了ですね」
「うむ。お疲れじゃったな」
「はい。ユグドラシルさんもありがとうございました。――お疲れ様でしたー!」
「お疲れ様でしたー!」
毎度の挨拶をかわし、ついでにハイタッチなんぞもかわして、ミッションの完遂を喜び合う僕とユグドラシルさん。
なんだか妙に時間がかかってしまったけれど、ようやく髪の毛回収も終了だ。
思えばいろいろ大変で、いろいろ疲れた。つらかったり苦しかったりもした。
そんな苦難の日々とも、今日でおさらばだ!
お疲れ様でしたー!
「……しかしまぁ、集まったとはいえ、使われないことが一番なのじゃろうがな」
「そうですね。それは確かに」
集めた髪を使うということは、誰かが亡くなってしまったということだ。
そう考えると、この髪を使うような事態は起こってほしくない。
「そもそもの話なのじゃが……」
「はい?」
「そもそも、使われることがあるのじゃろうか?」
「えっと……」
それはまぁ……正直使わないんじゃないかって、実のところ僕も思っているんだけど……。
「ユグドラシルさんが言いたいことはわかります。この髪を使うとしたら、誰かが亡くなり、さらにその人の遺体がこれっぽっちも見つからなかった場合なのですが……」
「うむ」
「遺体が――髪の毛一本、爪の先ほども見つからないなんて、そうそうないと思うんですよね……」
「そうじゃろ?」
「世界樹の枝の切れ端とか、絶対使わないですよね。世界樹が欠片も見つからないくらいに消滅するなんて、どう考えてもありえないわけで……」
「当然じゃ」
どことなく得意げなユグドラシルさん。
まぁそれは置いといて……当初から使われない可能性が高いってことはわかっていた。保険の保険という意味合いが強かったわけだが……。
「果たして、こんなに苦労してまで集める意味があったのかと問われると、僕としても……」
「むぅ……」
「――ま、まぁ無事に集め終わって良かったです。お疲れ様でしたー!」
「う、うむ。お疲れ様でしたー!」
もう一度、元気よくハイタッチをかわす僕とユグドラシルさん。
その勢いとテンションで、『まったくもって無駄なことをしていたんじゃ?』なんて
もう余計なことを考えるのはやめよう! とにかく僕らは頑張ったんだ!
頑張った! 集まった! 良かった!
お疲れ様でしたー!
next chapter:たぶんもうすぐ
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