第149話 別荘やら猫パンチやら鑑定やら
ディアナちゃんとのダンジョン探索が終わり、いつものように1-1でお遊戯会をこなした。
それからディアナちゃんをルクミーヌ村の自宅へ送り届けた後、僕はメイユ村に戻ってきた。
「別荘……別荘か……」
村の中を歩きながら、僕は2-1エリアの別荘について考える。
どうしたものか、本当にチャレンジしてみようか? あののんびりと落ち着いた2-1エリアに、自分の
「けどなぁ……本当に建てられるのかな?」
今までも『木工』スキルを活用し、僕はいろいろと作ってきた。だけど、家はちょっと勝手が違う。『試しにちょっと作ってみようか』で作れるものでもないだろう。
建築の基礎から学び、設計し、木材の加工をして――いったいどれだけ時間がかかるかわからない。
そこまで終わったとしても、肝心の建築が僕一人ではどうやっても無理そうだ。僕の『筋力値』では、木材ひとつ運ぶだけでも困難を極める。
「あぁ、だけど木材の加工だけ自宅でやって、マジックバッグで運べば……」
自宅でちょこちょこ家のパーツを作り、すべて完成したらマジックバッグで2-1エリアへ運べばいい。
組み立てだけは誰かに手伝ってもらって、そうすれば――
「一夜にして、家が完成する……」
どこかの戦国武将が、そんなことをやっていた気がする……。
「……まぁ正直、ダンジョンポイントで家を購入したら一瞬なんだけど」
それくらいのポイントはあるのだ。このポイントを使い、ダンジョンメニューをポチポチっと操作しただけで、それなりの住宅が2-1エリアに生えてくるだろう。ちまちまと年単位で作業を続けるよりも、圧倒的に早くて楽だ。
だけど、それだと僕の家ではなくなってしまう。ダンジョンマスターであることを隠している以上、『あれは僕の物』と主張することはできない。
僕は、2-1エリアに自分の別荘が欲しいんだ……。
「もしくは、リアルマネーで大工さんに頼んでしまうって手も……」
村の大工さんに頼んで、2-1エリアに別荘の建設を依頼するのはどうだろう?
これでもそこそこ稼いでいるんだ。金ならある。金で解決してしまえば――
とはいえ、リバーシやらタワシやらで稼いだお金はほとんど両親に預けてしまっているので、僕が自由にできるお金はそれほど多くない。さすがに別荘を一括で購入は厳しいか……。
「……まさかナナさんにエリア作成を頼んで、こんなふうに良い意味で頭を悩ますことになるとは思っていなかったな」
正直なところ、ナナさん一人にエリア作成を任せるのは不安だった。
自分で頼んでおいてなんだけど、ナナさんがどんなエリアを作成するか、まったく予想することができなくて少し不安だったんだ。
……正直、もっと悪い意味で頭を悩まされることも考えていた。
さすがに人死にがでるようなトラップやモンスターを配置するとは思わなかったけど――いきなり不殺バージョンのケルベロスを配置するくらいはやると思っていた。
「もしもそうなったら、子供エルフが2-1エリアへの進入を許可されることはなかっただろう……」
未だに1-1の大ネズミや、1-3のボアが不殺バージョンだとは知られていない。
もし2-1に不殺ケルベロスが配置されても、やはり不殺バージョンだと気付かれることはなかったはずだ。
そうなると、子供には危険だと判断されて、2-1エリアへの道はずっと封鎖されていたことだろう。
実際には、安全な不殺ケルベロスなのに――
「……あれ? ケルベロスが不殺だとどうなるんだ?」
不殺モンスターは、対戦相手が瀕死状態に
不殺ケルベロスも、相手が瀕死なら攻撃を中止するんだろうけど……たぶん僕とかケルベロスの一撃で、瀕死を通り越して即死するよね?
「あ、でもナナさんは、『不殺モンスターはダンジョンコアとリンクして、探索者の情報を入手している』とか言っていたっけ?」
ならば探索者が弱いと見たら、瀕死状態じゃなくても手加減してくれるかもしれない。
例えば不殺ケルベロスが僕と対峙した場合、僕が死なない程度の攻撃をしてくるのかもしれない。
僕が死なないように――手加減した猫パンチを繰り出してくるのかもしれない。
「ケルベロスの猫パンチか、ちょっと見てみたい気もするけど――おっと」
別荘やら猫パンチのことやら、いつものように独り言をつぶやきながら歩いていると、いつの間にか目的地――村の教会に到着していた。
別に教会の信者でもなんでもないのに、誰よりも熱心に教会通いを続け、なんだか妙に慣れ親しんでしまった教会の扉を開け、来訪を告げる。
「こんにちはー、ローデットさーん。いますかー? ローデットさーん?」
……返事がない。寝ているのか出かけているのか。
「ローデットさーん、アレクですー。ローデットさーん」
仕方がないので呼び続ける僕。
最近はローデットさんから、『返事がなかったら、奥の部屋まで勝手に入ってきてくださいー』なんて言われているのだけど、さすがにそれは……。
たぶん普通に寝ていたりするんだろうし、女性が寝ている部屋に無断で侵入するのも気が
相手がローデットさんだと考えると微妙に気が咎めないのだけど、やっぱり一応少しは気が咎める。
◇
「じゃあそろそろ帰りま――じゃなくて、鑑定しますね?」
「あー、そうでしたねー」
やはり応接室で寝ていたローデットさんと、なんだかんだ一時間ほど世間話をかわして、そろそろ帰ろうかという段になって――僕は鑑定のことを思い出した。
危ない危ない。またしてもそのまま帰ってしまうところだった。すでにお金は払っているんだ、鑑定してから帰ろう。
まぁ一時間のまったりとしたローデットさんとの会話で『すでに元は取れたんじゃないか?』なんていう気持ちもあったりするけど……一応鑑定はしておこう。
「では始めます」
「どうぞー」
とはいえ、正直今回の鑑定では、あまり変化を期待できそうにない。
少し前に十三歳の誕生日を迎え、レベルも16に上がったばかりの僕だ。残念ながら、しばらくステータスに変化はないと予想している。
なんて冷静に分析しつつも、やっぱり心のどこかで期待しながら、鑑定用の水晶に魔力を流すと――
名前:アレクシス
種族:エルフ 年齢:13(↑1) 性別:男
職業:木工師(New)
レベル:16(↑1)
筋力値 11(↑1)
魔力値 7
生命力 6
器用さ 23(↑2)
素早さ 4
スキル
弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2(↑1) ダンジョンLv1
スキルアーツ
パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1)
称号
剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター
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