第148話 ラブコメ回4
2-1エリアにて、僕とディアナちゃんはのんびりとすごした。
エリア内を流れている川で釣りをしたり。ウサギやシカを眺めたり。木になっている果物の採取をしたりしながらすごした。
やはり2-1は良い。とてものんびりできる。もうここに別荘でも建てたいくらいだ。
…………建てようかな?
本当に建ててみようか? 『木工』スキルがあれば建てられないかな? 無理かな?
上手く作れるかはわからないけど、チャレンジしてみようか? 作っている途中でダンジョンに吸収されちゃったりしないよね?
まぁさすがにダンジョンコアも、夫が作っている住居を吸収したりはしないと思うけど……。
――いや、大丈夫じゃない。
危ないな……。『ダンジョンコアは僕の妻説』が、だいぶ僕の脳に刷り込まれてしまっているじゃないか……。
「アレク、どしたの?」
「え?」
ディアナちゃんが僕の顔を覗き込みながら尋ねてきた。
「あ、ごめんディアナちゃん。ちょっと考え事をしていて」
いかんいかん。またしてもぼんやり考え込んでしまっていた。
ついさっきもぼんやりしているうちに、なんだかディアナちゃんと変態的な約束をかわしてしまったばかりだというのに。
「考え事?」
「うん。妻が――じゃなくて、えぇと、ここに家でも建ててみたいなって」
「妻? 家? ……あ、そういうこと?」
「うん?」
「ここに家を建てて――アタシと一緒に暮らしたいってこと?」
ディアナちゃんがニマニマしながら僕をからかってくる。
「『僕の妻として、一緒にここで暮らそう』って、アレクはアタシに告白してるんだ?」
「そうだね」
「お、おう……」
ディアナちゃんは照れている。
よしよし。今回はいつもの掛け合いをちゃんとこなせたぞ? さっきはよくわらないまま適当に受け答えしてしまったからな。
……ただ、なんだかとんでもない告白をさせられた気がする。
下手したら、さっきの変態的な約束よりも、もっと重い告白をしてしまった気がするんだけど……あれ? え、これ大丈夫か?
「えっと、ディアナちゃん……?」
「つ、妻として新居に……」
「う、うん。そうだね。……そのくらい、このエリアが好きなんだ。自分で家を建てて、いずれはそんなことをしてみたい。でもまぁ家を建てるとか簡単じゃないし、住めるような家を建てられるかわからない。そもそもダンジョン内に住めるのかもわからないしさ。それにね、僕たちはまだ幼い。僕は十三歳でディアナちゃんは十二歳。やっぱり親元から離れるのは現実的じゃないよね? そう、僕たちは未だ十三歳と十二歳。未来は誰にもわからない。だからディアナちゃんも、あんまり気にしないでほしい。僕もつい『そうだね』なんて言っちゃったけど、そこまで重く
「お、おう」
「というわけで――そろそろ帰ろうか?」
「え? うん。帰るのはいいけど……」
どうだろう、誤魔化せただろうか?
あんまり誤魔化せていない気もするが……。ま、まぁ子供のときにした結婚の約束とか、すぐに忘れさられてしまうようなものだし……。
「なんか必死に
「そ、そんなことはないよ?」
まぁその通りなのだけれども……。
「けどさー、アレクは本当にここが好きだよねー、家が欲しいほどかー」
「あー、うん。やっぱりのんびりできるから」
とてものんびりできるから。――田舎でのんびりスローライフを送っている感じがするから。
「僕は好きなんだけど……そうはいっても森は森だしさ、僕みたいに『落ち着く』って人もいれば、『外の森と同じでは?』って感じる人もいるみたいだね」
「ふーん」
賛否がわかれているナナさんの2-1エリア。とりあえず僕は賛成するよナナさん。称賛するし絶賛するし、賛辞も贈るよ。
「あ、そういえば……あの女もここが好きらしいじゃん。あの女――あの診療所やってるヒーラー」
「ジスレアさん?」
「そうそう。そのジスレアとかいう――勘違い女」
「勘違い女……」
心優しい美人女医さんに対して、なんてひどい呼び方を……。
というか、ディアナちゃんも勘違いっぷりでは結構負けていない気がするんだけど……。
「なんか『アレクは自分のことが好き』だとか、勘違いしてるらしいじゃん?」
「あー、そんなことを言ってたねぇ」
「レリーナがすごいキレてた」
「キレてたねぇ……」
あそこまでキレたレリーナちゃんを見たのは久々――いや、そんなに久々でもないかな……。
「すごいキレながら『お兄ちゃんが好きなのは私なのに』とかほざいてたから、『いや、アタシでしょ』って訂正しといた」
「…………」
すごいなぁディアナちゃん……。レリーナちゃんと互角に渡り合えるもんなぁ。素直に尊敬する。
それにしても、どうやら僕は三人くらいの女性から、『こいつ私のことが好きなんだな』って思われているらしい……。
「とにかくさ、ジスレアもここが好きでよく散歩してるらしいじゃん」
「そうだね、ジスレアさん散歩が趣味みたいなところがあるから」
ジスレアさんも2-1エリア賛成派で、よくここを散歩している。
「それで、時々アレクと一緒に散歩してるって聞いたんだけど?」
「……誰から聞いたの?」
「レリーナ」
「…………」
……なんで知っているんだろう。
確かにジスレアさんとは、2-1エリアを時々一緒に散歩している。2-1エリアを愛する者同士、のんびり一緒に散歩している。
まぁ村からここに来るまで一時間弱かかるので、それだけでも結構な散歩な気もするけど……。
ただ最近思ったこととして、僕だから一時間弱かかるだけで、他の人はもっと早く着けるんじゃないかっていう――
「あ、あと『アレクがダンジョンでイチャイチャ』で思い出したんだけどさ」
「そんな話題だったっけ……?」
別に散歩していただけで、ジスレアさんとイチャイチャしていたわけでもないのだけど……。
「アレク、あいつともダンジョンでイチャイチャしてたらしいじゃん?」
「あいつ?」
「ほら、あの……なんてったっけ? あいつ、なんか影が薄いあいつ」
「ジェレッド君?」
「そうそう。そいつ」
ジスレアさんに続き、ジェレッド君に対しても言葉がキツいなぁディアナちゃん……。
「……え? 待って、僕はジェレッド君とダンジョンでイチャイチャしていたの?」
「そう聞いたけど?」
「……誰から聞いたの?」
「レリーナ」
「…………」
またレリーナちゃんか……。いったいどうやってそんな情報を入手しているんだ……。
しかし僕がジェレッド君とイチャイチャって……。あれかな? 初めてジェレッド君と一緒にダンジョン探索をした日のことかな?
確かにあの日は久々の生ジェレッド君にはしゃいでしまった僕だけど、イチャイチャって……。
「で、実際のところどうなの? ジスレアとかジェイドとかと、イチャイチャしてたの?」
「そんなことを言われても……というかジェイドじゃなくて、ジェレッド君なんだけど」
ジェレッド君は親友だけど、そんな気持ちで接していたわけではない。僕にはそういう趣味はない。ジェレッド君とはイチャイチャしていない。
ジスレアさんだってそうだ。一緒にダンジョン内を散歩していただけで、別にイチャイチャしていたわけではない。
……とはいえ、まったくイチャイチャしていなかったというのも、なんだか寂しい。少しはイチャイチャしていたと思いたい……。
「で、どうなんよ?」
「えぇと――あ、見てディアナちゃん」
「え?」
「蝶々が飛んでいるよ?」
綺麗な蝶々が、僕たちのそばをひらひらと飛んでいた。
……これで誤魔化せんかな? カブトムシをただの虫だと切り捨てたディアナちゃんだったけど、綺麗な蝶々ならあるいは――
「いや、どうでもいいし、蝶々とか食べないし」
やっぱり蝶々でもダメか……。というか、別に食えとは言っていない……。
next chapter:別荘やら猫パンチやら鑑定やら
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