第140話 レリーナちゃんとダンジョン探索


 ダンジョンに到着した。


 フィールドが森からダンジョンに変わったことで、再び恋人つなぎをしようと目論もくろむレリーナちゃんだったけど、そこは一応禁止した。


 僕の方も『世界樹様の迷宮』がダンジョンだという認識がだいぶ薄れているため、うっかり手をつなぎそうになってしまったけれど、一応ここはダンジョンだ。モンスターが出るダンジョンなんだ。

 何が起こるかわからないし、手をつなぐのはやめておこう。……1-3エリアでは、ボアも出現することだしね。


 手をつなげないことに少し残念そうなレリーナちゃんだったけど、初めてのダンジョンはとても楽しんでくれているようだ。


 壁のヒカリゴケを見ては――


「へー、これがヒカリゴケかー」


「うんうん。綺麗だねレリーナちゃん。……え? えぇと、『綺麗だねレリーナちゃん』……え? もう一回言うの?」


 救助ゴーレムを見ては――

 

「へー、これが草ゴーレムかー」


「うんうん。……あぁ、ありがとうレリーナちゃん、薬草を取ってきてくれたんだね? けど別に、全てのゴーレムから薬草を回収しなくても大丈夫だよ?」


 メタリックなスライムを見ては――


「へー、これが小銭スライムかー」


「うんうん。はんぶんこしようか――『将来的に、お財布を統一したい』って? えぇと、ちょっとどういう意味か僕には……」


 宝箱を見ては――


「へー、これが宝箱かー」


「うんうん。中は――ナイフだね。……これは僕が貰っていいかな? 是非とも僕にゆずってほしいんだ。お願いだよレリーナちゃん」


 トラップを見ては――


「トラップ! 危ないお兄ちゃん!」


「え? うぉ――」


 ――そんな感じで、僕はレリーナちゃんと一緒にダンジョンを探索した。


 トラップを踏みかけた僕がレリーナちゃんが突き飛ばされ、トラップにかかる以上のダメージを受けるなんて事故もあったけど、基本的には楽しくダンジョン探索ができている。


 初めての探索となるレリーナちゃんは楽しそうだし、三日連続となる僕も、レリーナちゃんのおかげで退屈することなく探索を続けられた。


 そして、昨日と同様に周りの大人たちからは温かい視線を送られている。

 レリーナちゃんがトラップから僕を助けてくれたときなんか、『ヒューヒュー』って言われたよ『ヒューヒュー』って、『ヒューヒュー』流行っているのかな……。


 ちなみに『ヒューヒュー』と冷やかされて、レリーナちゃんは照れたようにはにかんだ笑顔を見せていた。

 しかし『あれ? けど昨日はたしかルクミーヌの子と……』なんて声が聞こえてきたときには、能面の顔になっていた。


 紆余曲折うよきょくせつありつつも、僕とレリーナちゃんはダンジョンを攻略していく。1-3ではボアなんかも出てくるが、恋人つなぎをしていない僕らの敵じゃない。

 さっくりとボアを討伐し、僕らは1-4へと進む――


「あれ?」


「どうしたのお兄ちゃん?」


「なんだか椅子とテーブルが並んでいるから」


 1-4エリアの、いたるところに椅子とテーブルのセットやベンチが並んでいる。


 そして探索中の村人が各々おのおの自由に座り、のんびりとくつろいでいる様子が確認できる。……まぁこの状態の人達を『探索中』と呼んでいいのか、軽く疑問ではあるけど。


「昨日までは何もなかったんだけどね」


「誰かが持ってきて置いたのかな?」


「……いや、たぶんダンジョンが拡張されたんじゃないかな?」


 昨日、僕はナナさんと『なんなら1-4には椅子とテーブルでも置こうか』なんて話をしていた。

 さっそくナナさんがダンジョンメニューを操作して、それらを配置してくれたのだろう。


「へー、すごいね。ダンジョンは毎日変わるっていうのは聞いてたけど」


「そうだねぇ」


 毎日僕とナナさんで頑張っているからね。


「けど、なんだか草ゴーレムが大変そう」


「……そうだねぇ」


 突然現れた椅子とテーブルに、救助ゴーレム達が苦戦している……。


 現在このエリアには、合計五体の救助ゴーレムが存在しているわけだが――僕らが買った救助ゴーレムのポップ機構は、『リポップまで三時間、エリア内の最大ポップ数は五体まで』という設計がされている。リポップまでの時間を犠牲にした代わりに、最大出現数を増やした設計だ。


 最大出現数が五体で、現在エリア内に出現している数も五体と、リミットまで出現している。――つまり、救助ゴーレムを倒そうとするエルフが誰もいなかったということになる。

 大変喜ばしいことだ。みんな救助ゴーレムが敵ではないと、わかってくれたのかもしれない。……まぁ文字通り『敵ではなく、倒すまでもない』だけかもしれないけど。


 とにかくそんな五体の救助ゴーレムが、いたるところに出現した椅子やテーブルにはばまれて、非常に窮屈きゅうくつな移動をいられている。


 椅子に阻まれては向きを変え、テーブルに阻まれて向きを変え、右往左往うおうさおうしている救助ゴーレム。

 椅子の間を通ろうと、横向きになりカニ歩きをしている救助ゴーレム。

 移動を諦めたのか、立ち尽くしている救助ゴーレム……。


「なんかもう、アレとか座ってるし……」


 座り込んでしまい、膝を抱えて小さくなっている救助ゴーレムもいた。

 体育座りだね……。救助ゴーレムって、体育座りとかするんだ……。


 とりあえずこのエリアは、あとでもう少し広く拡張しよう……。


「ねぇお兄ちゃん」


「うん?」


 あまりにも不憫ふびんな救助ゴーレムたちを見て、なんだか切ない気持ちになっていると、レリーナちゃんにクイクイとそでを引かれた。


「せっかくだから少し休んでいこうよ」


「そうしようか。じゃあ、あのテーブルのところに――」


「あっちで」


「あ、はい」


 レリーナちゃんはベンチの方がお好みらしい。別に僕はどちらでも構わないのだけど。


「それじゃあ、お兄ちゃん――」


「アレクー、レリーナー」


 ベンチへ向かおうと歩き出した瞬間、何やら僕らを呼ぶ声が聞こえた――





 next chapter:私のことが好きなんだと思う

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