第125話 草ゴーレム
「行ってきたわ」
「おかえり母さん」
アレクナナカッコカリダンジョンに向かった母が帰ってきた。
無事に帰ってきて何よりだ。まぁ危険なことは起こらないと半ば確信すらしていたけれど、怪我ひとつなさそうでよかった。
「なんだか不思議なダンジョンだったわね」
「そうなんだ」
「ダンジョンであることは間違いなさそうだけど、不思議だったわ」
「えぇと、どの辺りが不思議だったのかな?」
「エリアが二つしかないダンジョンなんて、初めて見たわ」
「…………」
まぁねぇ……。いや、僕だってそこは気にしているんだ。できることならエリアを増やしたいし、階層も増やしたい。
だがしかし、いかんせんモンスターが高い。高すぎる。コスパ最悪の不殺モンスターは、そうポンポンと買えないんだ。
肝心のモンスターを配置できないんじゃ、エリアを増やしても意味がない。
かといって、いまさらノーマルモンスターを買うこともしたくないし……。
「それに、エリア自体もずいぶん狭かったわね」
「そっかー」
「狭いエリアに村人が、大勢ひしめき合っていたわ」
「……たくさん村人がいたの?」
「ええ。何十人もいたわ。メイユとルクミーヌの村人ね」
「……何していたの?」
ぼーっとメニューを眺めていたら、最終的に探索者は六十人近くまで増えていった。
いったい彼らはダンジョンで何をしていたのか……。
「ダンジョン内をぼんやり眺めていたり、ヒカリゴケを採取したり、あとは『草ゴーレム』を観察したり――」
「『草ゴーレム』?」
「ダンジョンにいたロックゴーレムなのだけど、体にヒカリゴケ、頭に薬草を生やしていたの。だからみんな『草ゴーレム』と呼んでいたわ」
なんか救助ゴーレムに変な名前が付けられていた。
いや、別になんて呼ぼうが構わないんだけどさ。……ただ草ゴーレムだと、体が草でできているゴーレムってことになるんじゃないか? グラスゴーレム? そんな意味合いになっちゃわない?
「その草ゴーレムのあとを、村人が大勢ついて歩いていたわ」
二村合同で、いったい何をしているんだ……。
「ちなみにパパも村人に混じって、草ゴーレムのあとを歩いていたわ」
父……。
「はいこれ、お土産」
「え、何これ?」
「草ゴーレムの頭に生えていた薬草よ」
「え」
「引っこ抜いてきたわ」
「えぇ……」
抜かないでよ……。
かわいそうに救助ゴーレム。もう救助できないじゃないか。……まぁ頭の薬草は、時間が経てば再生するらしいけど。
「私も草ゴーレムを見物していたのだけど、私に気付いた人が『倒していい』と言ってくれたの」
「そうなんだ」
何気に賢者である母は有名人だからな、譲ってくれたのだろう。
「とはいえ、何人も後ろにくっついている状態だったから、さすがに倒すのは悪いと思ったわ。パパもやめてほしそうな顔をしていたし……。だから、薬草だけ引っこ抜いてきたの」
「『だから』の意味がいまいちわからないけど……とりあえず、ありがとう母さん」
一応お土産を取ってきてくれた母に、僕はお礼を言った。
まぁ薬草のお土産自体はありがたい。薬草なんて、いくらあってもいいものだからね。
「それにしても不思議なゴーレムだったわ。うろつくだけで、こちらを攻撃してこなかったし」
「不思議だね」
「薬草を引っこ抜いても攻撃してこなかったわ。少し困ったような
「たぶん困ったんだろうね……」
救助ゴーレムの困った素振りか……。なんとなく僕も見てみたいような気がする。
それにしても、救助ゴーレムが攻撃してこないことには気付いてくれたわけだ。案外早く気付いてくれたんだな、それは良かった。
あのゴーレムは良いゴーレムで、お助けキャラだということも、そのうち知ってもらいたいね。
とはいえ、それも現状だと厳しいか。なにせ今はまだ、探索者の対戦相手が不殺大ネズミしかいないのだ。どうやったって救助されるような状況には――
「あ、ネズミは? 大ネズミの方は、どこか変わったところはなかったの?」
「普通の大ネズミだったわ」
「そう……」
そりゃそうか。瀕死にならない限り、あれはただの大ネズミだ。さすがにこっちは気付かれなかったか。
……というかこれ、もしかしたら誰にも気付かれないんじゃないか?
誰にも気付かれることがないまま、ただの大ネズミとして処理され続けるんじゃないだろうか……?
「ただ、大ネズミにはみんな苦労していたわね」
「え、大ネズミに?」
至って普通の大ネズミなはずだから、苦労する要素がないと思うんだけど?
「ダンジョンでは、地面から突然モンスターが現れるのだけど、近くに人がいると出現しないの」
「あー、うん」
さっきナナさんに聞いたやつだな。それでモンスターがポップしないんじゃないかって話をしていたんだけど……。
「だからエリアの端っこ、ある一角だけは誰も近づかないようにしていたわ。モンスターが出現できるだけのスペースを、頑張って作っていたのね」
「そんなことしていたんだ……」
ただでさえ狭いエリアなのに、そんなことを……。
そこまでして大ネズミを出現させることに、たぶん意味はないんだろうけど……。
なんというか……村の近くにできたダンジョンを、無理矢理にでも
なんだかダンジョンマスターの僕としては、微妙に申し訳ない気持ちになってきた……。
next chapter:最終防衛システム
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