第126話 最終防衛システム


 よくわからないダンジョンの楽しみ方をしている村の人たちに対して、微妙に申し訳ない気持ちになりながらも、僕は母の話に耳を傾ける。


 まぁあれだ、お客様からの貴重なご意見だ。ありがたく拝聴はいちょうし、今後のダンジョン作成の参考にさせていただこう。


「草ゴーレムの後をついて歩いたり、大ネズミを出現させたり。狭いエリアの中でみんな少し苦労していたのだけれど――途中からは楽になったわね」


「何かあったの?」


「突然エリア自体が広くなったの」


「え? あー……そうなんだ」


 そうだった。少し前に、僕とナナさんでダンジョンを改築したんだった。


 なんだかあんまりにも村人が集まっている様子だったし、そもそもエリアが狭いんじゃないかとは僕も思っていた。

 なのでダンジョンメニューを操作して、少し広げてみたのだ。


 たくさん村人が来てくれたおかげでダンジョンポイントも貯まったし、エリアの拡張にはそれほどポイントを使わない。

 エリアに探索者がいる状況でも改築はできるというので、試しにやってみた。


「エリアが広がってからは、大ネズミを出現させるのが楽になったと、みんな喜んでいたわ」


「それはよかったね」


 そうか、まぁ喜んでくれたのならそれでいい。


「それで、大ネズミも倒していいと言ってくれる人がいたから、こっちは倒したわ」


「へー」


 何気にその戦闘シーンとか、少し見たかったな。実は母が戦っている姿って、ほとんど見たことがなかったりする。


「倒すと大ネズミは牙だけ残して、地面に消えていったの」


 ドロップは大ネズミの牙か。


「みんなが見ている前だったから拾ったけど……帰る途中で捨ててきたわ」


「そう……。まぁ、あの牙もろいしね……」


「一応持ち帰った方がよかったかしら? アレクは欲しかった?」


「いや……別に僕もいらないから大丈夫だよ」


 大ネズミの素材とか、正直使い道がないしね……。


 ただまぁ、実はダンジョンで初めてドロップした大ネズミの皮を、僕は保存していたりする。

 たぶん使うことはないと思うけど、なんか一応記念に。


「こんなふうに倒したモンスターが素材の一部だけ残して消えたり、突然エリアが広がったり。明らかにダンジョンの特徴とくちょうね」


「んー。じゃあやっぱりダンジョンなんだね? エリアが少なかったり、変なモンスターはいるけど」


「そう思うわ」


 よかった。母もダンジョンだと認めてくれた。賢者様のお墨付きをいただけたことになる。


「そういえばダンジョンが見つかった場合って、普通はどうするのかな?」


「基本はそのままね」


「そのまま?」


「ダンジョンはいろいろと恩恵おんけいをもたらすことも多いから、基本はそのままよ? 破壊するようなことはほとんどないわ」


「そうなんだ?」


 それはいいことを聞いた。今のところ大して恩恵をもたらせていない気もするけど、まぁそれはおいおい。


「じゃあ今回できたダンジョンも、そのままなんだ?」


「そうね。……それに、二つあるエリアのうち、もう一つのエリアのこともあるしね」


「もう一つのエリア……」


「ダンジョンコア――ダンジョンのコアね、そのダンジョンコアがあるエリアなのだけど――」


 ……もしかして母は、今のでダンジョンコアの説明をしたつもりなのだろうか?


「そのエリアには扉が付いていて、ユグちゃんのメッセージが書かれていたの――『ダンジョンコアを壊さないように』と」


 その扉、その文言が――アレクナナカッコカリダンジョンの最終防衛システムだ。

 うん、まぁ最終も何も、現状コアの防衛はそのメッセージ頼みなんだけどさ……。


「じゃあ、なおさら壊せないね?」


「そうね。そのメッセージもあるから、ほとんどの人はそのエリアに入ることすらしなかったわ」


「へー」


 すごいぞ最終防衛システム。

 本来守備を担うはずのモンスター――つまりは大ネズミがまったく役に立たない現状で、最終防衛システムだけが気を吐いている。


「あー、けど……けどさ、ユグドラシルさんのメッセージって話だけど……えぇと、本物なのかな?」


「どういうこと?」


「なんかイタズラだったり、あるいは――ダンジョン側がコアを壊されないように画策かくさくしたとかいう可能性は、ないのかな?」


 僕はちょっと踏み込んだ質問をしてみた。母があのメッセージに対してどんな考えをもったのか、知りたかったのだ。


「そうね、もしダンジョンがそんな策をったのだとしたら……破壊することになると思うわ。さすがにそんなダンジョンを、そのまま放置することはできないもの」


「そっか……」


「それと、もしイタズラでユグちゃんの名前をかたるような人がいたら――」


「い、いたら?」


「たぶんはりつけにされるんじゃないかしら?」


「…………」


 やっぱり磔なのか……。


 やっぱり十字軍が来て、磔にされるのだろうか……。


 いや、以前ユグドラシルさんの名前を騙ってアレクブラシを販売したときは『磔なんてしない』と、本人が言っていた。今回も大丈夫だと信じたい。

 今回はずいぶんたくさん騙っちゃったけど、大丈夫だと信じたい。


「アレク? どうかした?」


「……いや、なんでもないよ?」


「そう? とりあえずユグちゃんに話を聞こうってことになったから、今日中に連絡が行くはずよ?」


「そうなんだ……」


 そうか、ついにユグドラシルさんが……。


 なんとなく、以前アレクブラシの件でおびえていたときのことを、思い出してしまった……。なんだかよく似たシチュエーションな気がする。


 あのときは最終的に、『子どもの戯言ざれごと躍起やっきになるほど、世界樹様だって暇じゃないだろう』なんてことを考えていた気がする。


 ……けど、僕はあれからユグドラシルさんと出会って、ユグドラシルさんのこともよく知っている。

 だからわかる。ユグドラシルさんは、すぐにでもここへ来るはずだ。

 何故なら――


 ユグドラシルさんは――案外暇だ。





 next chapter:ユグドラシルさん来訪

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