第124話 救助ゴーレム、倒してしまったんですか!?


「それで母さん、結局その動く壁はなんだったのかな?」


 母の怪談話が一段落したようなので、僕は改めて話を聞いてみた。


「よくわからないわ」


「よくわからないの?」


「ゴーレムって話だけど、見たことも聞いたこともない種類だったらしいわ」


 それはまぁそうだろう。まず間違いなく自然界には存在しないゴーレムだ。


「なんでも壁に擬態ぎたいしようとするそうよ?」


 救助ゴーレムは、別に擬態しようとしているわけではない。


「倒した感覚では、普通のロックゴーレムと変わらない印象だったそうだけど」


「え、倒しちゃったんだ……?」


 そうか、救助ゴーレム倒されちゃったのか……。アレクナナカッコカリダンジョンの救護きゅうご班なのに……。


 けどまぁ仕方ないのかな。モンスターであることに変わりはないし、どう見ても怪しいし……。そりゃあ見つけたら、とりあえず矢を射つよね……。


「なんだか私も見たくなってきたわね」


「え?」


「そんな不思議なゴーレムを、私も見てみたくなったわ」


「そうなんだ」


「私も行ってくるわ」


 どうやら母も、アレクナナカッコカリダンジョンに向かうらしい。

 あそこは賢者さんが乗り込むようなダンジョンでもないんだけどな……。


「あ、私は行くけどアレクはダメよ?」


「え? ダメなの?」


「ええ。これを伝えたかったの。何せそんな不思議なゴーレムがいるダンジョンだもの、まだ何があるかわからないわ。だから、アレクは行かないように」


「そっか」


「大ネズミなら問題ないし、普通のロックゴーレムならアレクも倒せると思うのだけど、やっぱりね」


 実際には、救助ゴーレムの戦闘能力は、普通のロックゴーレム以下なんだけどね。


 というか、僕はロックゴーレムを倒せるのか。

 石なのに弓で勝てるんだね……。前世基準で考えると、なんだか僕もだいぶ人間離れしてきたなぁ……。


「そういうわけで、しばらくは大人だけで探索することになるわ」


「うん。わかったよ」


「じゃあ、大人の私は行ってくるわね」


「いってらっしゃい、母さん。気を付けてね?」


 これからさっそくダンジョンに向かうらしい。椅子から立ち上がった母に、僕は激励げきれいの言葉を掛けた。

 まず間違いなく危険はないし、気を付ける必要すらないと思うけれど、一応無事を祈っておこう。


「もし取れるようなら、お土産に不思議なゴーレムの石でも拾ってくるわ」


「う、うん……」


 別にいらない……。


 というか僕としては、救助ゴーレムは倒さないでほしいんだけど……。



 ◇



 母を送り出してから、再びダンジョンメニューを確認してみたところ、なんだかとんでもないことになっていた。


 そんなわけでダンジョンについて話そうとナナさんと探していると、庭の草花に水をあげているナナさんを発見した。

 発見したのだが――


「え、ナナさんすごいね……」


「ありがとうございますマスター」


 なんとナナさんは、『水魔法』スキルで草花に水をあげていたのだ。


「もうそんなふうに魔法を使えるんだね」


「はい。といっても、手から水をちょろちょろ出すことくらいしかできませんが」


「いやいや大したものだよ」


「マスターのおかげです。私も魔力操作は優れているようです」


 あぁそうか、僕が乳児の頃から続けていた魔力操作、ナナさんはその経験も受け継いでいるのか。


「お祖母様に軽くレクチャーを受けたところ、使えるようになりました。家事でも使っていいと、許可もいただいております」


「へー。いいなぁ」


 そんなふうに僕も生活の中で、気軽に魔法を使ってみたい。


「料理にも使っていこうかと」


「うん。えぇと……飲んでも大丈夫なんだよね?」


「大丈夫なのでは? お祖母様も手から出した水を、料理に使っていますよ?」


「うん。それは知っていたけど……」


 ちょっとだけ、気にはなっていたんだ……。あれは、あくまでも魔法で出した水なんだよね? 母の体液とかではないんだよね?


「マスターも今飲んでみますか?」


「え、いいよ、別に……」


「なんですか? 私の水が飲めないと――む」


「ん?」


 何やら手から水を垂れ流しつつジリジリと近づいてきたナナさんだったけど、突然その動きを止めた。水も止まった。


「どうしたの?」


「ちょっと気持ち悪くなってきました」


「あぁ、魔力切れかな?」


「少しはしゃいで使いすぎましたかね。自分が『魔力値』たった4のゴミだと、忘れていました」


「ゴミ……」


「いえ、たった4ですから、ゴミ以下ですね。クソザコナメクジです」


「クソザコナメクジ……」


 僕も『素早さ』はたった4しかないんだけど……。むしろ『素早さ』4の方が、クソザコナメクジっぽい。


「それで、どうしましたマスター? 何か私に用があったのでは?」


「あ、うん。さっきメニューを見たら、なんだかすごいことになっていたから」


「ほうほう。『ダンジョンメニュー』」


「『ダンジョンメニュー』」


 ナナさんがメニューを開いたので、僕も改めてメニューを開いて確認する。


「えーと……え? これは、すごい数ですね……」


「うん」


「四十六人って……」


「すごいよね……」


 ダンジョンメニューに表示された探索者数――現在四十六人。


「最初のエリアに四十六人で、ダンジョンコアのエリアには二人ですか」


「大して広くないあのエリアに四十六人って、どうなっているんだろうね……」


 最初のエリアのサイズは、大体学校の教室より少し大きめくらい、その程度の広さしかない。

 そのスペースに四十六人だ。たぶんその人たちには、かなり窮屈きゅうくつな思いをさせていることだろう。


「下手したら、ネズミやゴーレムがポップできませんよ?」


「え? そうなの?」


「はい。ある程度探索者と距離が離れた場所でないと、モンスターはポップできない設定になっています」


 あぁそうか。そうじゃないと、突然真後ろにポップしたモンスターから不意打ちをくらっちゃうわけだ。


「え、じゃあモンスターも出ないダンジョンで、この四十六人はいったい何をしているんだろう……?」


「なんでしょうね……。とりあえず物珍しさに集まったのだと思いますが……」


「まぁ近所にダンジョンができたと聞いたら、なんとなく見てみたいって気持ちにはなるかな……」


「田舎のス◯バみたいですね」


「田舎のスタ◯……」


 どうなんだその表現……。かなり適切に表している気もするけど、どうなんだその表現は……。


 というかナナさんだって僕の知識と経験しかないんだから、そこまでス◯バ慣れしているわけじゃないだろうに。僕だってあんまり行くことはなかったんだ。

 僕はス◯バでノートパソコンを開いて、ドヤるようなタイプの人間ではなかったから……





 next chapter:草ゴーレム

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