第122話 父として


「と、とにかくナナさん、鑑定だよ鑑定。いろいろとびっくりな鑑定結果だったね」


「そうですねぇ」


 なんだかキャバクラ通いを問い詰められるお父さんみたいになりそうだったので、僕は強引に話を変えた。


「僕のステータスに、『ダンジョンマスター』の称号と、『ダンジョン』スキルが生えていたわけだけど……」


「マスターは間違いなくダンジョンマスターになったわけで、それで称号が増えたのも納得できる気がします。スキルもそれで自動的に取得したのだと思いますが……。申し訳有りません。正直この辺りは、私にも詳しいことはわかりません」


「そうなんだ? いや、ナナさんが謝ることはないけど」


 ナナさんでもわからないのか……。まぁ厳密げんみつにはダンジョン関連というより、世界のシステム関連の話っぽいしなぁ。


「あ、私の鑑定結果も見せていただけますか?」


「いいよ?」


 僕はナナさんの鑑定結果をメモした紙を引き寄せ、ナナさんが見やすいようテーブルに置いた。

 後で確認できるように、一応メモを取っておいたのだ。


「はいどうぞ。あぁ、この紙はナナさんが持っていっていいよ?」


「ありがとうございます」



 名前:ナナ・アンブロティーヴィ・フォン・ラートリウス・D・マクミラン・テテステテス・ヴァネッサ・アコ・マーセリット・エル・ローズマリー・山田

 種族:ダンジョン 年齢:0 性別:女

 職業:木工師見習い

 レベル:36


 筋力値 23

 魔力値 4

 生命力 17

 器用さ 46

 素早さ 21


 スキル

 弓Lv1 水魔法Lv1 騎乗Lv1 木工Lv1 料理Lv1 ダンジョンLv1


 称号

 ダンジョンマスター


「ふーむ」


「ふーむ」


 テーブルに置いた鑑定結果を眺め、唸り声を上げる僕とナナさん。

 ちなみに、名前もちゃんとフルネームでメモった。『ナナ』だけに省略しようとしたら、ナナさんがむくれたためだ。


「ナナさんもこの鑑定は、意外な感じなんだ?」


「そうですね……納得できるものもあれば、不思議なものもあります」


「僕としては、全部の項目が不思議なんだけど……」


 やっぱり目につくのは種族だ。種族『ダンジョン』って……。


「ナナさんの種族は、ダンジョンなんだね……」


「ダンジョンコアから生まれたわけですから、そう考えればおかしくはないのでしょうが……」


 そうなのだろうか? いやけど、ナナさんはダンジョンではないだろう。『ダンジョン娘』くらいが適当な気がする。


「あと、ナナさんも職業は木工師見習いなんだね」


 僕と同じ木工師見習いだ。

 というか、僕はいつになったら木工師になれるのだろう? いや、別に木工師でなくても、弓士とかでもいいんだけどさ。なんでもいいから見習いは卒業したい。


「そうなると、私は『木工』スキルの熟練度が一番高いのだと考えられるのですが……」


 職業らんは、一番熟練度が高いスキルが影響すると、以前教えてもらった。

 つまりナナさんは、複数所持しているスキルの中で、『木工』スキルの熟練度が一番高いということになる。


「これは……マスターの影響では?」


「……やっぱりそうなのかな?」


 ナナさんが所持していた『弓』スキルと『木工』スキル。確かにこれを見て、なんだか意味深だと僕も思った。


「私はマスターの知識と経験を受け継ぎました――前世も含めた、マスターの知識と経験です。その結果が、このステータスなのではないでしょうか?」


「前世も含めた経験……?」


「マスターの前世と今世を受け継ぐ過程でレベルアップし、能力値が上がり、スキルも取得したのだと考えます」


「なるほど……」


 ゼロ歳なのに、ずいぶんとレベルが高いと思ったんだ。レベル36で、僕の倍以上もある。

 僕の前世での経験も経験値として獲得し、ナナさんはレベルアップしたのか。


「それで『魔力値』の低さと、『器用さ』の高さも説明できる気がします」


「あぁ、前世ではどうやっても魔力値が上がるような経験はしなかったし、今世では器用さ極振り仕様だから」


「はい。そのマスターの経験を引き継いだせいで、こんなにも極端な能力値になってしまったのだと思われます」


 引き継いだ『せい』とか言わないでほしいんですけど……。僕だって自分の極端なステータスは気にしているんだ。


「『弓』と『木工』のスキルも、僕の経験を受け継ぐ過程で新たに取得したの?」


「おそらくそうだと思います」


「そうか……。けど新しいスキルの取得には、二十年かかるとも聞いたけど」


 弓も木工も、僕はまだ始めて六年ほどだ。六年の経験で、新しいスキルを取得できるんだろうか?


「なんといってもスキルを所持しているマスターの経験を受け継いだわけですから。素人が経験した二十年とは、経験の質が違うのでは?」


「ふーむ」


 確かに素人が手慰てなぐさみでやった木工と、スキルをもっている僕が本気でやった木工。稼げる経験値はだいぶ違いそう。


 ……にしてもあれだな、それならもっと良いスキルをナナさんに残してあげたかった。


 僕の魔法スキルが『火魔法』じゃなければよかったのに。そうしたらきっと魔法の練習もしていただろうし、ナナさんに魔法スキルを残せたかもしれない。

 それに、前世でももっと何かに打ち込んでいれば、その経験を得たナナさんは、スキルを取得できたかもしれない。


 ――父として、もっと良いスキルを残してあげたかった。


 父として……? いや待て、違う。僕は父じゃない。なんか知らないけど、娘に遺産を残してあげたい父親みたいな気持ちになっていた……。


「『弓』と『木工』以外は初期スキルでしょうかね」


「『水魔法』と『騎乗』と『料理』か。なんだかたくさんあってよかったね」


「後でいろいろ確認してみましょう。『騎乗』スキルは、正直どう確認したらいいのかわかりませんが」


「この村には馬とかもいないしね」


「もしかしたら、マスターに協力していただくことになるかもしれません」


「『騎乗』スキルを……? え、いや、それは……」


 つまり、僕の上にまたがるということだよね……?

 そりゃあ父親が娘のために馬役を買って出るのは、たぶん微笑ましい光景だろう。

 けどナナさんは大人の女性にしか見えないからさ、なんだかいかがわしい光景になってしまう気がする……。


「最後に、ナナさんもダンジョンマスターらしいけど」


「そうですね……」


「ナナさん?」


「いえ、すみません。これに関してはなんとも言えないです」


「そう?」


「はい。そもそも称号がどういうものなのか、いまいち私にもわかりません。この称号がどういう意味で、どのような効果をもたらすのか、想像できません」


 まぁ僕もこれで二つ目の称号だけど、正直よくわからない。

 一つ目の『剣聖と賢者の息子』って称号は、なんか役に立っているのかね? 未だに『剣』スキルが手に入らないんだけど?


「とりあえずナナさんのステータス確認は終わったね。……というか、ナナさん強くない? 僕より強いよね?」


 レベルもステータスも僕より高い、それにスキルもある。

 『弓』と『水魔法』と『騎乗』は、戦闘で使えるスキルだろう。流鏑馬やぶさめできるよ流鏑馬やぶさめ。馬がいないのが残念だ。


「肝心の実戦がまだなので、なんともいえませんが」


「そっか、ふむ……。これは――初狩りだね、ナナさんの初狩りをしよう」


「初狩り?」


 初めての実戦――つまりは初狩りだ。ナナさんの初狩りだ。


「どうしようか? やっぱり旧来のやり方で、気絶したモンスターを用意しようか? それともアレクナナカッコカリダンジョンで初狩り?」


「そうですね……。せっかくなので、アレクナナカッコカリダンジョンで戦闘を行ないましょうか」


「うんうん。それじゃあ弓が必要だね。父か母にお願いしてみるよ」


「ありがとうございますマスター」


 おお、これで僕が夢見た『ダンジョンにて、なんちゃってヤラセハンティングではない、ちゃんとした初狩り』が行われるんだ。

 ……まぁそんな夢をもったのは、今日が始めてだった気もするけど、とりあえずちゃんとした初狩りだ。


 無駄に安全性だけは確保されたダンジョンだけど、僕もナナさんに危険が及ばないように注意しながら、しっかり見守ろう。


 僕の初狩り時に見守ってくれたユグドラシルさんや父のように、僕もナナさんの父として――――父として?


 なんか知らないけど、気が付くとナナさんの父親ムーブをこなそうとしてしまう僕がいるな……。

 ナナさんと出会ってまだ二日目だというのに、さすがに父親としての自覚をもつのが早すぎる気がする……。





 next chapter:記念すべき初探索者

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