第118話 ちょっとキャバクラ寄っていこうか


「あんまり紹介できなかったなぁ」


「ダンジョン設置に時間がかかりましたからね、仕方ないです」


 アレクナナカッコカリダンジョンからメイユ村に帰還した僕とナナさんは、二人で村をり歩いた。

 そして、村人を発見するたびに僕はナナさんを紹介し、ナナさんは村人に握手を求めた。


 この握手は、村人とどうやったら距離を縮めることができるか、ナナさんなりに考えた結果なのだろう。

 まぁ僕には選挙活動中の政治家にしか見えなかったけど……。


「それにしてもマスター」


「うん?」


「私としてはマスターの応援演説が気になりました。なんだったのですかあれは? 私は別に、選挙活動中の政治家ではないのですよ?」


「……え、僕? え?」


「頭を下げながら『ナナさんを、どうかナナさんをよろしくお願いします』と挨拶するマスターは、選挙カーのウグイス嬢か、応援演説を行う先輩議員のようでしたよ」


「そうなんだ……」


 ナナさんもナナさんで、僕にそんな印象を抱いていたのか……。結果として、二人揃って選挙っぽいことをしていたのか……。


「それと、マスターは全員に『ナナさんはユグドラシルさんの友人』と紹介していましたが、あれもどうなのかと……」


「けど、そうとでも説明しないと……」


 一般エルフからしたら、ナナさんの髪と目は奇異きいに映るだろう。なので、やはりユグドラシルさんの友人と説明する他なかった。


「明らかに経歴詐称さしょうです。公職選挙法違反ですよ」


「やっぱり選挙じゃないか」


 なんの選挙だ。村長選挙か何かか? いや、この村に村長がいるのかどうかすら僕は知らないけど。


「とりあえず、そろそろ帰りましょうか?」


「そうだね――あ」


「どうかしましたか?」


「最後に教会へ寄っていいかな?」


「いいですよ? ……しかし教会ですか、マスターは本当に教会が好きですね」


 なんだかナナさんが呆れたような表情で僕を見た。

 その目やめて。教会へ行くと伝えただけで、そんな視線を受けるいわれはない。


 ……ただまぁ、僕の知識と経験を受け継いだナナさんは、僕が教会をキャバクラ感覚で利用していることを知っている。


 例えるならば――キャバクラ好きな父が娘である自分に『ちょっとキャバクラ寄って行こうか?』と誘ってきたのだ。

 冷たい目でさげすまれても、仕方がないのかもしれない。


「えぇと、今回は真面目な感じでね? いや、いつもは不真面目ってわけでもないんだけど」


「真面目にキャバクラですか?」


「別に僕は神聖なキャバクラ――じゃなくて、神聖な教会をキャバクラ扱いなんてしていないよ」


 今さら信じてはもらえないだろうが、一応そう言っておこう。


「とにかく、今回は普通に紹介だよ。ナナさんはユグドラシルさんの友人ってことになっているから、一応教会にも顔を出しておいた方がいいような気がする」


「あぁ、それは確かに」


「あとはまぁ、普通に鑑定してもらいたい。よく考えたら、僕はもうレベル15に上がっているじゃないか。だけど、まだ上がったステータスを確認していなかったから」


 なにせチートルーレット以降、非常にあわただしくことが進んだ。うっかり鑑定してもらうのを忘れていたよ。


「私の鑑定はどうしましょう」


「ナナさんの?」


「はい。私も自分のステータスを知ることができたなら、よりマスターのお役に立てる気がします」


「そっか……。いや、ナナさんは今でも十分僕の助けになってくれているけどね?」


「というか、自分のステータスがちょっと気になります」


「そう……」


 ちょっと感動したのに……。


 しかしナナさんの鑑定か、どうしたものかな? とりあえず、年齢らんと種族欄が問題だ。年齢はゼロ歳だし、種族欄はいったい何が出ることやら……。


 とはいえ、ナナさんも見たいと言っているし、実際自分のステータスを知っておいた方が何かと便利だろう。

 あと、正直僕もナナさんのステータスが気になる。


「そうだね。ナナさんが自分の鑑定結果を知りたいのなら、僕は構わないよ?」


「ありがとうございます。ではお願いできますか?」


「うん。じゃあ行こうか」


「はい」



 ◇



「ナナ・アンブロティーヴィ・フォン・ラートリウス・D・マクミラン・テテステテス・ヴァネッサ・アコ・マーセリット・エル・ローズマリー・山田です」


「ろ、ローデットですー……」


 教会の応接室にて、ナナさんは自分の名前をローデットさんに伝えた。

 そしてニッコリ微笑みながら握手を求めるナナさん。ローデットさんは若干戸惑いながらも、握手に応じた。


「ええと、ナナ・デアゴステ◯ー二……?」


「デアゴステ◯ーニではありません。ナナ・アンブロティーヴィ・フォン・ラートリウス――」


「やめるんだナナさん」


 相変わらずナナさんは、すきあらば文字数かせぎをしようとする。


「とりあえず『ナナ』と、呼んであげてください」


「わかりましたー。それでナナさんは、ユグドラシルさんのお友達さんとのことですが?」


「はい。少しわけがありまして、僕の家に居候いそうろうしてもらっています。このまましばらくは、この村に滞在する予定――というか、滞在できればいいなぁと思っています」


「はぁ」


「彼女はこの村に必要な人材であり、この村をより良くするため、活躍してくれるはずだと僕は信じています。この村の将来のためにも――どうか、どうかナナさんをよろしくお願いします」


「はぁ……」


 ローデットさんがナナさんと仲良くしてくれるよう、僕は真摯しんしにお願いした。


「よろしくお願いします」


「よ、よろしくお願いしますー」


 僕がお願いした後、ナナさんは再びローデットさんに握手を求める。

 何故だかわからないが、ローデットさんの戸惑いが若干強くなった気がする。


「さて、無事に挨拶も済んだところで、鑑定をお願いしたいのですが?」


「あぁ、いいですよー?」


「ではこちらを――あ、ナナさんも鑑定してもらいたいので、二人分です」


「わかりましたー。ありがとうございますー」


 僕はいつも渡している倍の料金を、ローデットさんに支払った。


「レベルが上がっているといいですねー」


「え? ……あ、あぁ、そうですね」


 そうか、そういえばローデットさんは僕のレベルアップを知らないもんな。


 そうするとあれかな? 僕は知らないフリをして、レベルアップを喜ぶ演技でもしなければいけないのかな?


「そろそろ上がるはずだって言っていましたもんねー。上がっているといいですね」


「え、えぇはい。上がっているといいですね。上がっているんじゃないかなー? なんか上がっている気がするなー」


「……そうですか。なんだか今日のアレクさんは、いつにも増して様子がおかしい気がしますー」


 何気に失礼だなローデットさん。


「えぇと、それでは鑑定しますね?」


「どうぞー」


 さて、鑑定だ。鑑定だけど……なんだか少し不思議な感覚。

 鑑定する前から、もう僕は自分がレベル15に上がっていることを知っているからな。


 毎回鑑定前はレベルが上がっているかドキドキしているんだけど、今回はそれがない。すでに結果がわかっている。それが少し不思議な感覚。


 ただまぁ悪い気分じゃない。負けが確定しているのなら嫌だけど、勝ちが確定しているわけだからね。

 では始めよう。これは、約束された勝利の鑑定だ――



 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:12(↑1) 性別:男

 職業:木工師見習い

 レベル:15(↑2)


 筋力値 10(↑2)

 魔力値 7(↑1)

 生命力 6

 器用さ 21(↑2)

 素早さ 4(↑1)


 スキル

 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv1 ダンジョンLv1(New)


 スキルアーツ

 パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1)


 称号

 剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター(New)





 next chapter:へぇ、あんたもダンジョンマスターって言うんだ

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