第117話 カッコカリ


「なんとかダンジョンが完成したね」


「そうですね……」


 僕の言葉に同意してくれたナナさんだけど、なんだか少し不本意そう。

 まぁ完成したといっても、たった二つのエリアで構成された、ずいぶんこじんまりとしたダンジョンになってしまったからな。


 しかもエリアの一つは大ネズミとロックゴーレムのみ、もう一つはダンジョンコアがあるだけのエリア。

 改めて見ると、なかなか残念なダンジョンだ。


「まぁこれからですね。これからダンジョンポイントを貯めて、どんどん発展させていきましょう」


「そうだね、頑張っていこう」


 無理矢理テンションを上げて、決意を固める僕ら。


 ナナさんの言う通り、これで終わりじゃない、これからが始まりなんだ。

 僕たちのダンジョン生活は、これからだ――


「というか、ダンジョンポイントってどうやったら貯まるの? たしか探索者を撃退げきたいしたら貯まるとか言っていたっけ?」


「探索者とモンスターが戦闘を行えば、自然と貯まっていきますよ?」


「ふーむ……。いまいち謎なんだけど、なんでそれでポイントが貯まるんだろう? そもそも、ポイントって何?」


「ダンジョンものでその辺を突っ込むのは、少々野暮やぼですよ?」


 野暮なのか……。けどなぁ、僕はそういう微妙で些細ささいなところが、どうしても気になっちゃうたちなんだ。


「そうですね……。言わばダンジョンポイントは、ダンジョンが貯めた経験値なんですよ」


「経験値?」


「ダンジョンも生きていますから。ダンジョンとして経験を重ね、経験値を貯めます。そして、その貯めた経験値を使ってパワーアップを重ねる――そう考えたらわかりやすいのでは?」


「なるほど」


 ダンジョンポイントは、ダンジョンが貯めた経験値か。

 つまり、ダンジョンが一生懸命貯めた経験値を、僕は湯水のように使い切ってしまったことになる……。


 あれ? けど、このダンジョンコアは、三日前に生まれたんじゃなかったっけ?

 …………まぁいいや。そこを突っ込むのは、本当に野暮な気がする。


「さてマスター。完成度はともかく、ダンジョンが完成しました」


「完成度はともかく……」


「なので、一つやっておくべきことがあります」


「なんだろう? もちでもまく?」


「まきませんよ。というか餅がないでしょうに」


「そりゃあないけど」


 ないんだよね、餅も米もさ……。


 たぶん東にはあると思うんだ。海を超えた東の国には、米とか醤油とかもあると思う。大体異世界ってそうだから。


 いつか行ってみたい。それで東の国で久々に日本食を食べた僕は、思わず涙をこぼしたりするんだ。


 そんなことを、僕は今まで考えていたんだけど……。


「米も醤油も、案外欲しいとは思わないんだよね」


「はい?」


「たぶんそれは、僕がもう日本人じゃないからだと思う。僕はもうエルフの体で、エルフの味覚だからさ……。だから僕は、米も醤油もない今の食事に、満足できているんだ」


「はぁ」


「僕は日本にいるとき、日本の食事が好きだったし、美味しいと感じていた。――けどそれは、僕が日本人で、普段食べているものがそんな日本人向けの料理だったからでしょう?」


「えぇと……」


「日本人じゃなくなってしまった僕は、もしかしたら久々に食べたお米や日本食を、美味しいとは感じないのかもしれない」


 それは、なんだか寂しい……。


 むしろそのことで、僕は涙をこぼしてしまうかもしれない。


「マスター、さっきから何を言っているんですか?」


「あ、ごめん。なんか変なスイッチ入っちゃった」


「相当変なスイッチ入りましたね……」


 思わず、のべつ幕なしに語りだしてしまった。


 しかし、実際のところどうなんだろう? やっぱり懐かしくて美味しいと感じるのか、それとも美味しいとは感じないのか、はたまた『まぁこんなもんか』くらいで落ち着くのだろうか?

 なんだか楽しみだけど、やっぱり少し怖い。


 そもそも本当に東の国があるのかも謎だ。さすがにあると思うんだけどねぇ。さすがにそれはあってほしい。

 今までいろいろとテンプレを外し続けている僕の異世界転生だけど、さすがにそれだけは外してほしくない。


「それでマスター、話の続きですが」


「あぁ、うん。なんだっけ? やっておくべきこと?」


「はい。ダンジョンが完成したので――ダンジョンに名前をつけましょう」


「名前?」


 名前、名前か……。


「そういえば『ルクミーヌダンジョン』らしいけど?」


「そうですね、メニューではそうなっています」


 ダンジョンメニューには『ルクミーヌダンジョン』と記載きさいされている。僕が初めてメニューを開いたときからそうなっていた。


「ここはメイユ村とルクミーヌ村の間らしいですが、どうやら若干ルクミーヌ村の方が近いようですね」


「それでルクミーヌダンジョンなんだ」


 どうやって調べたんだろう、村の名前も、村までの距離も……。


「この名前は変更できるので、正式な名称をサクッと決めてしまいましょう」


「正式名称か、僕はそういうのサクッと決められないんだよね……」


 どうにも迷ってしまうんだ。ゲームの主人公とかも名前を決めるまで、たいそう時間がかかってしまう僕だ。


「ナナさんはどう? 何か候補こうほはない?」


「候補ですか? そうですねぇ――『ディズニ◯ランド』とか?」


「ダメだよ」


 びっくりした……。そこまでストレートにその名前をパクるなんて……。


 何? ネズミが出るから? いや、こっちのネズミは世界的に愛されてもいないし、ゲストに本気で襲いかかるネズミだぞ?


「では、『世界樹の迷宮』で」


「悪くはないけど……」


 とはいえ現状はユグドラシルさんの名前を無断使用しているだけであって、実際にはユグドラシルさんとなんの関係もないダンジョンだからなぁ……。


 ……というかその名前も、やっぱりパクりでは?



 ◇



 ダンジョンの名前は『アレクナナカッコカリダンジョン』に決まった。


 やはり僕はサクッと名称を決めることができずに、とりあえず『アレクダンジョン(仮)』にしようとした。

 しかしダンジョン名は、『ダンジョン』より前の部分しか変更できず、しかも記号は使えないらしい。


 仕方ないので、僕は『アレクカッコカリダンジョン』と名付けようとした。

 しかしそこで、ナナさんが自分の名前も使うようにアピールしてくる。


 その結果、ダンジョン名は『アレクナナカッコカリダンジョン』に決定した。

 ちなみにナナさんは自分のフルネームを入れようとしたが、さすがにそれは拒否した。


「じゃあ帰ろうか、結構時間かかっちゃったね」


「そうですね」


 ダンジョンが一応完成し、ダンジョン名も一応決定。

 なので僕とナナさんは、アレクナナカッコカリダンジョンを後にした。


「とりあえず村まで戻ってから、ナナさんに村を案内――というか、村人を紹介するよ」


「はい、よろしくお願いします」


 なんだかんだダンジョン設置に時間がかかったしまったが、予定通り村人にナナさんを紹介して回ろう。


「さてさて、どう紹介しようか? もう片っ端から家を訪ねて回ろうか?」


「飛び込みの営業じゃないんですから」


「それじゃあナナさんの名前を連呼しながら、村をり歩こうか?」


「選挙カーのウグイス嬢じゃないんですから」


 突っ込みが冴えているなナナさん……。


「どちらも嫌われるやり方なので、やめましょう」


「そっか。じゃあ名前連呼はなしで、普通に村をり歩こう。それで会った人に紹介していく感じで」


「それがよいかと」


 それじゃあ頑張ってナナさんを紹介しよう。

 架け橋だ。村人とナナさんをつなぐ架け橋に、僕はなる。





 next chapter:ちょっとキャバクラ寄っていこうか

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