第83話 最強パーティ
「パンを貰ってきたのかい?」
「うん」
「ふーん、おやつかな? 途中で食べるのかい?」
「明日食べるんだ」
「……日帰りだよ?」
「大丈夫。父とユグドラシルさんの分もあるから」
「えぇと……」
「気にするなセルジャン、緊張しておるのじゃろう」
「はぁ……」
――ついに初狩りが始まった。
僕と父とユグドラシルさんの三人は、家を出発して、村から森へ向かっている最中だ。
そんな中、父が僕に話しかけてきたようだが、あまりうまく応えられた気がしない。それだけ僕は舞い上がってしまっている。なんだかふわふわしていて、地に足がついていない状態だ。
そもそも初狩り初狩りといっているが、そもそも僕が初めてなのは狩りだけではない。
森に入るのも初めてだし、実はモンスターを見ることすら初めてなんだ。
我が家のトイレにはスライムが住んでいて、長年一緒に暮らしているのだが、実際の姿を見たことはなかったりする。彼は僕が用を足しているときに、奥に隠れてしまうからだ。
まぁ、穴の直下で準備万端待ち構えられても困るから、それはいいんだけど……。
というわけで今回僕は、初めて森へ入り、初めてモンスターを確認し、初めてモンスターを狩る。初森で初モンで初狩りだ。
「ねぇ、父」
「なんだい?」
「僕はモンスターを見るのが初めてなんだけど、そもそもモンスターってなんなの?」
「モンスターっていうのは、動物や植物が魔物化した存在だね」
「魔物化……」
「体に
「瘴気!?」
出た、瘴気。ファンタジー世界の不思議物質。
「動物と植物だけなの? 人間は瘴気を吸って魔物化しないの?」
「しないらしいよ? 人間には影響を与えないって聞くけど?」
「そうなんだ。というか、瘴気ってなんなの?」
「さぁ……? ユグドラシル様は知っていますか?」
「えっ? ……わ、悪い気じゃろ?」
ユグドラシルさんも知らないみたいだ。なんなんだろう瘴気って……。
ディースさんならたぶん知っていると思うけど……いや、知っているもなにも瘴気を作ったのはディースさんか。そこら辺の詳しい設定は考えているのだろうか?
「――あ」
「うん?」
「その瘴気を溜めた魔物を……僕たちは食べているんだよね?」
「そうだよ?」
「……だ、大丈夫なの?」
「たぶん大丈夫じゃないかな?」
「本当に? 一見大丈夫でも、その悪い気がちょっとずつ体の中に
「僕はもう三百年食べ続けているけど……」
「……大丈夫そうだね」
安心した。とりあえず体に害はないみたいだ。さすがに三百年食べ続けて問題ないなら大丈夫だろう。
ふーむ。だとすると、やっぱり瘴気が人の体に蓄積することはないのかな?
……それとも悪影響がないだけで、すでに父の体内は瘴気でパンパンになっているのだろうか?
それはなんだかちょっと気味が悪い話だけれど、害がないならまぁいいのかな……。
◇
「森だ……」
「うん」
「これがエルフの森……」
「エルフの森?」
エルフの森に到着した僕たち三人のパーティ。
僕らの目の前には、緑の木々が
まだ昼間だと言うのに、森の中はずいぶんと暗そうだ。背の高い木が何本も立ち並んでいて、陽の光を
エルフは夜目がきく理由がわかった気がするな。確かに普通の人なら、歩くだけでもちょっと難儀しそうだ。
「それで、僕はどうしたらいいの? 森で魔物を見つけて仕留めればいいのかな?」
「え? あぁ、えーと……とりあえず僕が先導するから、アレクはついてきてくれればいいよ?」
「そうなんだ」
ここまできても言葉を
いつもそうなのだ。父だけでなく他の村人達も、僕に初狩りの具体的な内容を教えてくれない。これは同年代のレリーナちゃんやジェレッド君も同じらしい。
「じゃあ行くよアレク、ついてきて?」
僕に声をかけながら、父はマジックバッグから剣を取り出して、腰に下げた。
おぉ、なんだかかっこいいな父。
僕も父のように、愛剣バルムンクを腰に装備したい。……しかし、残念ながら僕はそのためのホルダーをもっていない。
とりあえず手にバルムンクを持って歩こうかと一瞬考えたけど、たぶん道を歩きながら棒切れを振り回す少年にしか見えなくなりそうなので、やめることにする。
「アレク? どうしたの?」
「あ、うん、行くよ」
というわけで、父の後に続いて森へ入る僕。そんな僕の後ろにはユグドラシルさんがついている。
……よく考えたら、結構なパーティーなんじゃないかな、この面子は?
『剣聖』と『世界樹』と『木工師見習い』の三人パーティだ。少なくとも、そんじょそこらのモンスターには負ける気がしない。
いよいよ始まった初狩りだけど、なんだか少しだけ勇気が出た。このパーティならなんとかなりそうだ。この三人ならきっと――
……うん、わかってる。三人パーティーとかなんとか言っているけど、一人どう考えても見劣りする職業の奴がいることは、僕だってわかっているさ……。
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