第80話 蘇生薬
チートルーレットの結果、僕は『回復薬セット』を獲得した。
まさかの消耗品とか……。正直微妙じゃないそれ……?
そりゃあ神様から贈られる回復薬だし、それはそれはよく効く回復薬なんだろうけど……。
といっても回復薬だろう? しょせんは回復薬……。
チートルーレット――チートを貰えるルーレットの景品としては、あまりにも微妙な結果ではないだろうか?
なにせ僕らの村にはジスレアさんがいるんだ。心の病以外は、どんな病気や怪我も治してしまうジスレアさん。歩くエリクサーこと、美人女医ジスレアさんがいるんだよ?
だというのに、今さら回復薬を貰ったところで……。
いや、確かに携帯して持ち運べるのは嬉しい。初狩りの準備としては良い物かもしれない。とはいえなぁ……。
「大丈夫かい?」
「え? ええ、大丈夫です」
思わず腕を組んで考え込んでしまった僕に、ミコトさんが声を掛けてくれた。
「ずいぶん難しい顔をしていたけど?」
「回復薬……どうなんでしょう。とりあえず実物を見たいところですが――」
「お待たせー」
特に待っていなかったけど、無数のビンを載せたキャスター付きのワゴンをディースさんが運んできた。
うっかり見逃したけど、ワゴンもチートルーレットの裏から排出されたのかな……?
ワゴンの高さは一メートルに届かない程度だろうか、台の上には、多面的なカットを
「綺麗ですね」
「そうだね」
いや、ビンの造形はこの際どうでもいいんだ。問題はこの回復薬の効果だ。
……というか、多いな。一本一本は小さいけれど、ずいぶん数がある。
「いっぱいありますね」
「そうだね」
数えてみると、縦に十列、横に十列――合計百本の回復薬が並んでいた。色が違うのはなんだろう?
試しに一番右側に並んでいる緑色のビンを、一本手に取ってみる。
近くで見てみると、緑色はビンではなく、中の液体が緑色をしているのだとわかった。この緑のビンが一番数が多い。四列あるから四十本だ。
「えーと……『回復薬』?」
よく見ると、ビンには『回復薬』と彫られていた。文字が彫られているだけなので、ちょっと読みづらい。
「回復薬ですね?」
「そうだね」
「これって効果のほどは、どうなんでしょうか?」
とりあえずミコトさんに聞いてみるが――
「えぇと……」
チラリとディースさんをうかがうミコトさん。
「ごめんなさいアレクちゃん。詳しいことは説明できないの。前に言ったと思うけど、
「だ、そうだ。すまないアレク君……」
「そうですか……」
やっぱり教えてくれないか。さっきからミコトさんが『そうだね』としか言わなかったのは、余計なことを喋らないように注意していたんだろう。
いや、けどさ、回復薬でしょ? 薬なんでしょ?
どうなのそれ? 病院で薬を出されて、『
前世で僕は、薬の用法用量はきちんと守る人だった。病院で出された薬も、ちゃんと最後まで飲む人だったのに……。
ビンは一本が百ミリリットルくらいだろうか? いったいどれだけ飲めば、どれだけ効くのだろう……。
「なんか……副作用とかないですよね?」
「…………」
黙んないでよ、怖いよ。
「……わかったわ。アレクちゃんにひとつだけ情報というか、ヒントをあげるわ」
「ヒント?」
「そっちの青色の薬があるでしょう?」
「これですか? えぇと……『治療薬』?」
ディースさんが指示した青色のビンを手に取ってみると、そのビンには『治療薬』と彫られていた。……回復薬と治療薬の違いがわからないんだけど?
「これがいったい?」
「その治療薬、EDにも効くわ」
「…………そうですか」
どんなヒントの出し方だ。
「EDって何かな?」
「…………」
ミコトさんが、僕に純粋な疑問を投げかけてきた。そんなあどけない顔で聞かれても……。というか、何故僕に聞くんだ。というか、何故知らないんだ。
「えぇと、男性特有の病気ですね」
「へぇ」
とにかく、この治療薬はED治療薬らしい。
……いや、さすがに限定じゃないだろう。『EDにも効く』と言ったのだから、ED以外にも効くのだろう。もしかしたら病気を治す薬なのかな?
病気か……。病気ならジスレアさんも治せるけど――果たしてジスレアさんは、EDを治すことができるのだろうか?
EDは心理的な原因でなることもあると聞く。ジスレアさんはよく『心の病は治せない』と、決め台詞のように言っているが……。
まぁ以前僕がストレスで体調を崩したときも、体調不良の部分はサクッと治してくれた。そう考えると、心理的な原因を取り除くことは無理でも、EDの部分は治してくれそうな気がする。
この治療薬はどうなんだろう? ディースさんは自信満々で『EDにも効く』と言った。そこまで言うのなら、もしかして心理的な悩みやストレスすらも癒やすことが――心の病さえも治すことができるのだろうか?
もしそうだとすれば、その部分ではジスレアさんを超えている。
……この治療薬をディースさんやレリーナちゃんに飲ませたら、僕の周りはちょっと平和になるんじゃないか?
◇
『回復薬』の隣は、EDにも効く『治療薬』二十本だった。
そして、さらにその隣は『若返りの薬』二十本だった。これは凄い――のだけど、なんせ僕はエルフだ。今日十歳になったばかりのエルフ。千年生きる十歳のエルフ。正直イマイチありがたみが……。
そんなわけで『回復薬』が四十本、『治療薬』が二十本、『若返りの薬』が二十本。――これで合計八十本だ。
「あと二種類が十本づつですか」
「そうねー」
「そうだね」
僕が薬を見ては、いちいち喜んだり難しい顔をして考え込んでいるのが楽しいのだろうか、ディースさんはニコニコしている。
ミコトさんは余計なことを喋らないように必死だ。
僕はそんな二人に見守られながら、黄色の薬を手に取る――
「えぇとこれは、『エリクサー』…………エリクサー!」
おおぉぉ……これがエリクサー。すごいな、エリクサーだ。
なんとなく上下左右からしげしげと眺めてしまった。こころなしか、黄色じゃなくて金色に見えてきた。すごいなぁ、大事に使おう。
……いや、『大事に使おう』っていうこの考え方は、なんだか危険な気がする。大事にし過ぎて使えない気がする。
前世でも僕は使うことができなかったけど、今世でもやっぱり使えないのだろうか? 思い返せば、正直ゲットしても嬉しくないよねエリクサーって、どうせアイテム欄の肥やしになるだけだし……。
とはいえ、これはゲームではなく現実だ。必要なときには
……っていうかさぁ、たぶん流れ的に、僕は初狩りでこれを使うわけでしょ?
初狩り前に回復薬セット獲得ってことは――僕は初狩りで怪我をして、回復薬を飲むわけでしょ? 流れ的にはそういうことでしょ?
しかもエリクサーとか……。つまり大怪我するってことじゃないの? エリクサーが必要になるくらいの重傷を僕が負う。そういう流れじゃないの……?
なんだかちょっと憂鬱な気持ちになりながら、僕は最後の十本を確認する――
「『
死ぬじゃん!
流れ的に死ぬじゃん僕! これを使うってことは――僕、死ぬじゃん!!
next chapter:死亡フラグ
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