第63話 初狩りとチートルーレット


 『他人のステータスを見たがるのは、スケベな行為』という驚愕の事実を知った僕。


 では、毎回僕のステータスを見ているローデットさんはどうなんだと思いきや――


「あぁ、一緒にいなければいけないんですか」


「そうですー、一応教会の決まりなんですー……」


 なんとなく後ろめたい気がして、ローデットさんはつい目をそらしてしまったらしい。

 だが別に悪いことをしているわけでも、僕にスケベなことをしていたわけでもないようだ。


 水晶で鑑定する場合、水晶の管理者はその場に留まるものらしい。水晶もそこそこお高い物なので、盗難防止のためだ。


 『ローデットさんにエッチなことをされていた!?』なんて錯覚を起こし、むしろ軽い興奮を覚えかけていた僕だったが、どうやら勘違いみたいだ。

 なんだか、ちょっと残念な気持ちすら湧いてきた……。


「というか、ステータスってそういうものなんですか? 知らなかったんですが……」


「他人のステータスは、見たり聞いたりしないのがマナーですー」


「そうなんですか……。あれ? ユグドラシルさん?」


 自分は鑑定を拒否したのに、僕の鑑定結果は平然と見ていたけど……?


「わ、わしは神じゃから……」


「…………」


 いつだったか、女神のミコトさんもそんなことを言っていたな……。


「……えぇと、とりあえず僕も、あんまり他人にステータスを見せない方がいいんですかね?」


「そうですねー、もしかしたら悪用されちゃうかもですー」


「なるほど」


「まぁこの村ではそんなこと起きそうにないですけどねー」


 そう言ってローデットさんはコロコロ笑う。

 まぁ平和な村だしねぇ……。


 とはいえ、少し軽率だったかもしれないな。ステータスは自身の生命線だ。そのステータスを他人に知られてしまうことの危険性を、もっと考えるべきだった……。


 もし自分のステータスが敵に筒抜けだった場合、僕は大変な苦戦を強いられることになるだろう。ならばステータスは、可能な限り秘匿すべき情報だ。


 前世で読んでいた異能バトル物の漫画でもそうだった。自分の能力を敵方にベラベラ喋る――そんな奴がいただろうか?


 …………。


 あれ……? 結構いた気がする……?



 ◇



 兎にも角にも、僕の鑑定も終わった。

 ユグドラシルさんがローデットさんに追加で細々こまごまとしたお小言を並べてから、僕らは教会をあとにした。


「…………」


「なにやら難しい顔をしておるな、どうした?」


「え? あ、すみません。レベルが上がったことで、ちょっと思うことがありまして……」


 いかんいかん。今はユグドラシルさんの案内中だというのに、物思いにふけってしまった。


「ふむ、思うこと?」


「……はい。今までのペースでは無理だと思っていたのですが、これなら十歳までにレベル10に到達することも、夢ではないかと」


「十歳までにレベル10……? 何かあるのか?」


「『初狩り』と、例の抽選です」


「初狩り……? あぁ、あったのう、そんな行事。確か初狩りは十歳の誕生日じゃったか?」


 エルフは十歳の誕生日に、初めて狩りを行う――それが『初狩り』の儀式だ。

 そして、狩った獲物をその日のうちに食べて、誕生日を祝う。ってのが慣例らしい。


「しかし、初狩りと例の抽選に、なんの関係あるのじゃ?」


「簡単に言えば――初狩りの前にレベルを10に上げて、抽選で有用なスキルかアイテムを手に入れておきたいんです」


「?」


 ユグドラシルさんが不思議そうにしている……。キョトンだ、キョトンとしている。


 え? 僕、そんなにおかしなことを言ったかな?


「初狩りじゃろ?」


「はい」


「別にそんな準備はいらんじゃろ……」


「そう……ですかね?」


「うむ、お主も弓は使えるのじゃろ?」


「はい」


「なら、別にスキルもアイテムもいらんじゃろ……」


「はぁ……」


 まぁ、ゆるい儀式だとは聞いている。ユグドラシルさんの認識で間違っていないのだろう――本来ならば。


 問題は――僕が異世界転生者だということだ。

 転生者の初バトル……何も起きないはずもなく……。おそらく結構なアクシデントに巻き込まれるに違いない。


 本来いるはずのない強大なモンスターなんかが現れて、みんなが慌てふためく中、異世界転生者の僕が、強力なチートであっさりと解決するんだ。

 ――そのためにも、僕は今のうちに強力なチートを取得しておきたい。


 もはや何を言っているかわからないと思うが、こちらとしては至って真剣だ。


 ……考えすぎかな? というより、むしろ妄想だろうか? いや、妄想なら妄想でいいんだけれどさ。

 でも、異世界転生ってそういうもんじゃないのかな? 初バトルのアクシデントを、チートであっさり解決して――『また僕なにかやっちゃいました?』と、言い放つ。……違うのかな?


 まったくもって妄想なのかもしれないけれど、もしもこの予想が当たってしまった場合は大変だ。

 なにせ僕が現在所持しているチートは、タワシと『木工』スキル。どうしようもない。どう考えても強大なモンスター相手に活躍できるようなチートではない。そもそもチートですらない。


 なので僕は、できることなら戦闘用の強力なチートなんぞを取得しておきたいのだ。


「やっぱり不安なので、抽選はしておきたいです」


「まぁ戦いに備えて、己を鍛えることは良いことじゃと思うが……」


「ユグドラシルさんに掴んでいただいたおかげで、初狩り前にレベル10を狙える状況になりましたし、せっかくなので頑張ってみようかと思います」


「……う、うむ」


 あ、世界樹式パワーレベリングなら、すぐにレベル10まで上がるかな?


 いやしかし、さすがに僕をなぶってくれとお願いするのもなぁ……。

 だからといって、またライ麦パンでユグドラシルさんを殴るってのも論外だし……。


「何か良いレベル上げの方法ってないですかね?」


「モンスターを倒すことじゃろ」


「それ以前の状況なんですが……」


 まぁあと一年以上あるんだ、地道に頑張ろう。


 それでも、もし間に合わなそうならば――


「…………」


「また難しい顔をしておるな?」


「はい、いざとなったら……おままごとをやろうかと考えていました」


「……意味がわからん」


「獲得経験値が多いらしいんですよ……」


 女神のミコトさんが、前にそんなことを言っていた。

 とはいえ、さすがにそれは最終手段だ。もうレリーナちゃんもおままごとをやる年齢ではないしなぁ……。

 まぁ、お願いしたらレリーナちゃんは喜びそうだけどね。





 next chapter:さようならユグドラシルさん、いつかまた逢う日まで

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