第62話 世界樹式パワーレベリング


 依然としてレベル8を表示し続けている鑑定用水晶。僕は驚きの声を上げたっきり、思わず考え込んでしまっていた。


「何をそんなに驚いておるのじゃ?」


 そんな僕に対し、ユグドラシルさんが疑問を投げかけてきた。


「いえ、もうすぐレベル7に上がるかと思っていたんですけど……」


「レベル8じゃな」


「そうなんですよ……」


 僕は六歳でレベル5になり、七歳でレベル6になった。一年で一つレベルが上るペースだったんだ。

 なので八歳になった今、そろそろレベル7に上がれるんじゃないかと予想していたんだけど……。


 それが、なんでレベル8? いきなりレベルが二つ上がって、年齢にレベルが追いついてしまった。いったいどうなっているんだ?


「とりあえず、おめでとうございますー」


「え? あぁ、ありがとうございます」


「けど不思議ですねー。前回はレベル6でしたよね? ここ一週間で、何かあったんですか?」


「うーん……」


 ローデットさんの言う通り、一週間前に鑑定したときは、確かにレベル6だった。

 つまり、僕はたった一週間で一年分の経験値を稼いだ計算になる……。


 けれど僕自身は特に変わったことをした記憶はない。いつも通り剣と弓の練習、それと木工をしていただけだ。


 変わったことといえば――


「ここ最近で変わったことといえば、ユグドラシルさんが訪ねてきたことですか……」


「うん? わしか?」


「はい。……というか、それしか考えられないのですが?」


 仮にも神様だからな。ご尊顔そんがん拝謁はいえつしただけでボーナスとか、そんなことがあったりするのでは?


「わしは特に何もしとらんが……」


「ユグドラシルさんが何もしていなくても、例えば……会っただけで、話しただけで、あるいは同じ空気を吸っただけでレベルが上がったりする――そういうことってないんですか?」


「ないわ。わしをなんじゃと思っとるんじゃ」 


 神様ならそれくらいあっても、別におかしくないと思うんだけど……。


「一緒に遊んだり、一緒に寝ることによってレベルアップ――なんてことも、やっぱりないんでしょうか?」


「ないわ」


「一緒に寝る?」


「え? いや、まぁ……まぁその……」


 ローデットさんの前だというのに、うかつなことを言ってしまった……。

 現在ユグドラシルさんは、見た目だけなら可愛らしい幼女だ。そんな幼女と一緒に寝るなんて……事案なのか? 通報なのか?


 あ、けど僕だって、見た目だけなら幼児だ。なら許されるんじゃないか? 見た目だけなら幼児と幼女の、ほのぼのした可愛らしい光景だと思うんだけど?


 ……まぁ、実際の中身は中年男性とババアだけれども。


「と、とにかくですね、ユグドラシルさんが関係しているのは間違いないと思うんです」


「そうですねー」


「ふーむ」


「あとユグドラシルさんと一緒にしたことといえば…………あ、ウッドクローか!」


 それだ! 神様のウッドクローを受けたことでレベルが上がったんだ!


「ウッドクローってなんじゃ?」


「間違いないですよ! 『生命力』が上がったことからも、ウッドクローがレベルアップの要因だと推測できます」


「のう、ウッドクローってなんじゃ?」


「はー、そうなんだ。ずいぶん痛い思いをしたけど、受けてよかったなウッドクロー」


「なんじゃと聞いておるのじゃ!」


「――いたたたたたた」


 それだよ!



 ◇



「変な名前をつけるな」


「すみません……」


「あ、私もウッドクローを受けたから、もしかしたらレベルアップしていますかねー?」


「変な名前で呼ぶなというに……」


 とにかく、僕がレベルアップした理由はわかった。おそらくウッドクローを受けたこと。それと――ライ麦パンだ。


 ユグドラシルさんからウッドクローを受けたり、ユグドラシルさんをライ麦パンで殴ったことにより、僕は大量の経験値を得たのだろう。

 要するに、強敵と戦闘を行ったことでレベルが上がったんだ。強敵から攻撃を受けたり、逆にこちらから攻撃を仕掛けたことで――まぁ攻撃と言ってもライ麦パンだが。


 そしてレベルが二つ上がったことにより、ステータスは六つ上がった。『筋力値』『生命力』『器用さ』が、それぞれ二つずつの上昇だ。

 僕が予想するに――


「たぶんレベル7のレベルアップボーナスで、『器用さ』が二つ、『筋力値』が一つ上がったんだと思います。これは僕が普段からやっていた剣、弓、木工の練習が影響しているのかと」


「ふむ」


「そしてレベル8のボーナスでは、ウッドクローをいただいたことにより、『生命力』が二つ上昇。そして、ユグドラシルさんをライ麦パンで殴ったことにより、『筋力値』が一つ上がったんだと思います」


「…………」


「え、なんでライ麦パンで……?」


 ユグドラシルさんはむっつりと黙り込んだ。

 まぁ『お前の顔面ぶっ叩いて、レベル上がったぜ』と言われたら、いい気はしないかもしれない。


 ローデットさんは不思議そうに聞き返した。

 まぁ『お前が仕える神様を、ライ麦パンでぶっ叩いたぜ』と言われたら、そりゃあ不思議そうに聞き返すだろう。というか、怒ってもいいと思う。


「とにかく、ありがとうございましたユグドラシルさん。ユグドラシルさんに顔面を掴んでいただいたおかげで、レベルが上がりました」


「う、うむ……」


 なんだか若干引かれている気がする……。

 まぁ痛めつけられてるのに『ありがとうございます』なんて、まるで業界の人みたいだ。引かれるのも無理はない。

 しかも相手は幼女だ。幼女に暴行を受けての『ありがとうございます』は、なかなかに業が深い……。


「それにしても、凄いですねユグドラシルさんは。あのちょっとした攻防で、相手のレベルを上げてしまうとは……」


「攻防などと呼べるほど、大層なものでもなかったと思うが……」


 まぁよく考えたらウッドクロー以外にも、お腹を前蹴りされたり、コマやけん玉をぶつけられたりもしたわけだが、たったそれだけで僕が一年間で獲得できる量以上の経験値を取得できたんだ。

 これは凄い。凄いな、世界樹式パワーレベリングだ。


 なんというか、さすが世界樹様だね。

 やっぱり世界樹様なんて、ゲームとかなら作品によってはラスボスでもおかしくないもんな。

 そんな世界樹様と、当時レベル6の僕。たぶんレベル差はとんでもない開きだっただろうし――


 レベル差……。ふむ、レベル差か……。

 実際のところ、ユグドラシルさんのレベルとかステータスって、どんなもんなのだろうか?


「この水晶って、ユグドラシルさんでも鑑定できるんですかね?」


「……なんでじゃ?」


「いやその、ユグドラシルさんのステータスを見てみたいなーって……」


「……嫌じゃ」


 可愛らしくおねだりしたのに、にべもなく断られてしまった。


 愛くるしい八歳児のおねだりだというのに、つれないな。……中身が中年男性だとバレているせいだろうか?


「ダメですか……? あ、もしかしてお金ですか? わかりました。鑑定代は僕が払いましょう」


「違うわ、たわけが」


「ではいったい……?」


「そもそもステータスなぞ、他人に見せるものではないじゃろ。それを見たがるとは――スケベじゃな、お主」


「…………え?」


 え、何その価値観……? そういう感覚なの……?


 ――って、僕は毎回ローデットさんに見られているんだけど?


「あの……」


「…………」


 思わず僕がローデットさんに視線を送ると、ローデットさんは、スッと目をそらした。

 えぇ……。





 next chapter:初狩りとチートルーレット

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る