第44話 レリーナちゃんとローデットさん


 『残念なローデット人形』は、結局ローデットさんが引き取ることになった。

 口を半開きで寝ている自分の人形がどこかに流れるのはイヤだったようだ。自分で処分するらしい。


 ぶっちゃけ助かった。僕はこれ以上自室に人形を増やしたくない。

 ついでに母人形シリーズも処分してくれるようお願いしたのだけど、それは拒否された、『恐れ多い』と。


「そういえば」


「はい?」


「ローデットさんに、ちょっと聞きたいんですけど……」


「なんですかー?」


 僕がここへ来たのは、スキルアーツのことを聞くためだ。

 ただ、その前に一つローデットさんに聞きたいことを思い出した。――レリーナちゃんのことだ。


 レリーナちゃんが『一度ローデットさんと話をしなくちゃかな?』と、言っていたことを思い出したんだ。果たして、あれはどうなったんだろう……?


 心優しいレリーナちゃんのことだ、ローデットさんに危害を加えるようなことはしないはず。……とは思うけど、絶対にないとは断言できない危うさが、能面バージョンのレリーナちゃんにはあった。


 僕は差し出されたお茶を、一口飲んでから切り出す――


「最近、何か変わったことはありませんでしたか?」


 聞くのが少し怖くて、遠回しな聞き方になってしまった。なんだか警察の聞き込みのようだ。


「変わったことですかー?」


「はい、例えば……夜更けに妙な物音を聞いたとか、不審な人影を見かけたとか……」


 なんとなく警察の聞き込み風の会話を続けた結果、こんな質問になってしまった。いったいレリーナちゃんをなんだと思っているのか……。


「えー? 特にそういうことはありませんけど?」


 そりゃそうか。というか、もしあったとしても、さすがにそれはレリーナちゃんじゃないだろう。


「そうですか。じゃあ最近……教会に訪れた人っていますか?」


「えー? こんなところに来る人なんて、アレクさんくらいですよー?」


 ……まぁ、今さらローデットさんの『こんなところ』発言にツッコんだりしない。


「そうですかそうですか。いえ、それならいいんですけど」


「アレクさん以外だと、レリーナちゃんが最近来たくらいですかねー」


 来てるじゃん……。


「え、えーとえーと、ちなみにどんな話を……?」


「えー? 女の子同士の会話を聞きたがるなんて、あんまり良くないですよー?」


「…………」


 女の子同士……。まぁそんな感じのゆるい女子トークだったら、僕も心配しないんだけどね?


 というか、ローデットさんっていくつなんだろう?

 少なくとも女の子って歳じゃないと思うけど……エルフの年齢って見た目で全然わかんないからなぁ。


 なんかエルフは二十代で外見の変化は止まるらしい。それから年齢を重ね、九百歳あたりからようやく老い始めるそうだ。狩りをするエルフだから、若い時間が長いとかなんとか……。いったいどこの戦闘民族だ。


「んー? そんなに聞きたいんですかー?」


「え? えぇ、まぁ」


 僕がローデットさんの年齢を推し量ろうと彼女の顔を見ていたら、ローデットさんは何か勘違いしたようだ。

 これが母なら、すぐに察知して『侮辱ぶじょくされた』と怒り出したことだろう。むしろ『いくつなんだろう?』と考えた瞬間に『侮辱』判定されかねない。


「別に普通の会話でしたよー? ああ、アレクさんのことも話しましたねー」


「僕のことですか……?」


「アレクさんがここで何をしているのか聞かれましたー」


 単刀直入だなレリーナちゃん……。

 大丈夫かな? ローデットさんの回答によっては血の雨が降るぞ?


「そ、それでローデットさんは、なんて答えたんですか?」


「ステータスの鑑定をしているって答えましたよー?」


 お、セーフかな?


「あと、二人で仲良くおしゃべりしているって、それから私に毎回お金やプレゼントを渡してくれるって」


 アウトー。


「そ、そんなこと言ったんですか?」


「はい、事実だけをお話ししましたー」


 うぐぅ……。確かに事実といえば事実かもしれない。ならローデットさんを責めるのはお門違いか……。

 ……僕の渡したお金を、教会への寄付ではなく、完全に自分へのプレゼントだと認識している点は若干気になったが。


「ちなみに……そのときレリーナちゃんはどんな様子でしたか?」


「えー? 別に変わった様子はありませんでしたよー?」


 変わった様子はないか、それは――


「ずーっと変わりませんでしたよー?」


 やっぱり能面だったようだ……。


 しかし、そんなことがあったというのに、レリーナちゃんは僕に何も言ってこないな……どういうことなんだろう?


「そんな感じですけどー。これが話したかったことですか?」


「あ、いえ。本題は別です」


 本題はスキルアーツの件だ。レリーナちゃんのことは……とりあえず棚上げにしておこう。

 ローデットさんがここまで挑発的な発言をしたにもかかわらず、レリーナちゃんはローデットさんに何もしなかったようだ。ローデットさんの身に危険が及ばないならそれでいい。


 ――あとは、僕が腹にジ○ンプを仕込んでおけばいいだけだ。

 ……月刊誌の方がいいかな?





 next chapter:スキルアーツ

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