第45話 スキルアーツ


「実はスキルアーツについて聞きたかったんです」


 僕はようやく本題に入るべく、スキルアーツについてローデットさんに尋ねた。


「あー、スキルアーツですかー」


「し、知っているのか、ローデットさん!?」


「え? は、はい。知ってますけど……?」


 うーむ、やっぱりスキルやステータス関連のことだとローデットさんは頼りになる。

 こんな感じで頼りになるところをもっと見せてくれたら、残念じゃないローデット人形を作ることが可能になるかもしれないね。


「実はそのスキルアーツってものを取得したみたいなんです」


「あー、なるほどー。じゃあ鑑定してみましょうかー?」


「鑑定ですか?」


「はい。スキルアーツは鑑定結果に載りますよー?」


「あ、そうなんですか。じゃあ、早速鑑定させてもらいます」


「はい、どうぞー」


 よく考えると、散々無駄話をしたあとなので、あんまり『早速』でもない気がしたけど……まぁいいや。とりあえず鑑定だ。


 約一ヶ月ぶりの鑑定か……。まぁ今回はスキルアーツとやらが確認できればそれでいい、他の部分は大して期待していない。期待していないさ――



 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:7 性別:男

 職業:木工師見習い

 レベル:6


 筋力値 3

 魔力値 3

 生命力 3

 器用さ 10

 素早さ 2


 スキル

 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv1


 スキルアーツ(New)

 ニス塗布(木工Lv1)(New)


 称号

 剣聖と賢者の息子



「スキルアーツ以外は上がってないですねー。そんなに落ち込まないで下さいよー」


 落胆が態度に出てしまったらしい……。やっぱりどうしても期待しちゃうし、鑑定のときはドキドキしちゃうんだよね……。

 なんだろう? 宝くじの当選番号を確認するときのような感覚なのかな?


 まぁいいや。しっかりとスキルアーツは獲得できていた。それで今日は十分だ。


「いえ、失礼しました。それで僕は……『ニス塗布』というスキルアーツを覚えたわけですか」


「響きが可愛いですねー」


「そうですねぇ……。それで、そもそもスキルアーツとは何なのでしょう?」


「んー、スキルの熟練度が上がるとー、そのスキルに関連した特殊な能力を覚えることがあるんです。それがスキルアーツですー」


 熟練度か。まぁ僕がもっているスキルの中では、間違いなく『木工』スキルの熟練度が一番高いだろうな。


「関連した特殊能力ですか」


「この『ニス塗布』ってー、ニスを塗るんですか?」


「え? ええ、まぁ……」


 なんとなく口ごもってしまった。なんだか、そこまで胸を張って言える能力でもない気がして……。

 別に恥ずかしい能力ってわけでもないんだけど……。例えば異能バトル物の漫画で『俺の能力はニスを塗ることだ!』って、自信満々で説明するヤツはいないだろう? そういうことだ。


「じゃあ珍しいタイプですねー。確かに『木工』スキルと関連しているとは思いますけど、ある意味全く違う行為ですし」


「珍しいんですか?」


「例えば弓のスキルアーツとかですとー、『パワーアロー』とか『ダブルアロー』とかが多いですかね? 本来もっているスキルを強化したり応用したり、そういうのが多いんですー」


「ほうほう。……あれ? 人によってスキルアーツって違うんですか?」


「そうですねー」


 なんと、人によってバラバラなのか。スキルアーツガチャか……。


「スキルアーツの変更ってできるんですか?」


「無理ですー」


 リセマラ不可、一発勝負のガチャか……。

 果たして僕が引いた『ニス塗布』は、当たりなのか外れなのか……。結構便利そうではあるけれど……。


「後ろに木工レベル1って書かれてますけど、これは?」


「『木工』スキルレベル1のスキルアーツですねー。もし『木工』スキルがレベル2になったら、別の新しいスキルアーツを覚えられるかもしれないですー」


 なるほどなるほど。よくわかった。

 なんだかローデットさんは、解説キャラが板についてきた気がするね。


「ありがとうございます。助かりました」


「いいえー」


 ふーむ。スキルアーツか、面白いな。『弓』スキルレベル1はどんなものになるんだろう?


 まぁ別に高望みはしないけどね、例えば『矢切り』みたいに奇をてらったものじゃなきゃ、ある程度許容するさ。……フラグじゃないよ?



 ◇



 僕が自分の新たなる力に胸を躍らせながら自宅へ帰ってくると――父に捕まった。


「ひどい! ひどいよアレク!」


「え、えぇ? どうしたの父?」


「なんであんな物を生み出してしまったんだいアレク! 僕が死んでしまうよ!」


 あぁ、母人形オルタの件か……。


「というか笑いすぎだよ父」


「あれは笑うよ!」


 失礼過ぎるよ父……。


「別にちょっと胸が大きいだけで、あとは母をしっかり再現できていたはずだけど」


「だからだよ……。胸が大きいミリアムがあんなに面白いなんて……。というか、そこが違うだけで、あんなにもミリアムとは別人に見えるんだね……」


 あぁ、やっぱり父もそう思ったのか……。ここまでくると、もう母の胸の小ささは一種のアイデンティティなのかもしれない。


「だけどだいぶ気に入ったみたいだから、これから作る母人形は、全部あの形式で統一されそうだけど……」


「死んでしまう……」


 父はガタガタ震えだした。


「……あ、そういえば『木工』スキルは再現することしかできないって、アレクは言ってなかったっけ?」


「あぁ、詰め物をした母を再現したんだ」


「詰め物?」


「うん。服の胸部に、綿を大量に詰め込んだ母を再現したんだ」


「綿? ――フぐふッ! ……ひ、ひどいよアレク! なんてことを教えてくれたんだ!」


 真実を伝えただけなのに、僕はより父を苦しめてしまったようだ……。

 しかしこうなると、他の人が見たときもちょっと気になるな。全員抱腹ほうふく絶倒ぜっとうの極致に叩き落とすかもしれん……。


 世界中のみんなを笑顔にする――ある意味、非常に平和的なアイテムだ。





 next chapter:ブーム

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