第40話 ツンデレ幼馴染
「やっ! はっ! てーい!」
木剣『不動正宗』を作ってから二週間。正宗を使って、僕は毎日素振りを繰り返していた。
「やっ! はっ! ふぅ! てーい!」
場所は自宅の庭だ、今日は父も見てくれている。剣聖が見ていると思うと、自然と訓練にも力が入る。
……まぁ力が入るってことは、もしかしたら剣において良いことじゃないのかもしれないけど。
「てーい! てーい! ……ふぅ」
「お疲れ様」
「ありがとう父」
父がタオルと、水が入った皮の水筒を僕に渡してくれた。
「ところでアレク、その掛け声はなんなのかな……?」
「駄目かな? 僕としては一番しっくりくるんだけど」
うん、しっくりくる。……しっくりはくるけど、確かに力が入らない気もする。剣道みたいに『キェェエエェエアァッ!!』とか言ったほうがいいのかな?
あ、違うか。力が入るのはダメって、さっき思ったんだっけ? じゃあ『てーい』の方でいいのかな?
「よお、頑張ってるな」
「あ、ジェレッド君。ごめんね、ちょっと待っていて?」
僕がタオルで汗を拭いていると、幼馴染のジェレッド君が現れた。
そうだった、今日はジェレッド君と遊ぶ予定だったんだ。稽古に熱が入り過ぎてうっかりしていた。
「どうだ? 剣の調子は?」
「ダメみたい」
「ダメなのかよ……」
「うん。父の顔を見たらわかる」
「えっ」
父が慌てて顔を押さえる。……だから、その仕草でバレちゃうって。
「どーも、親父さん」
「あぁ、うん。いらっしゃいジェレッド君」
父が自分の顔をムニムニしながら、ジェレッド君の挨拶に答えた。
「えぇと、アレクの剣は……その、あんまり良くないんすか?」
「う、うーん、どうだろうね? どうしても僕は剣のこととなると、厳しく見ちゃうから……」
僕が水分補給している間に、父とジェレッド君の意見交換が行われていた。
なんだか二人とも僕を気遣ってくれている様子が見えて、いたたまれない気持ちになる。
「うん。まぁ、地道に訓練していくつもりだよ」
「そっか。剣なぁ……。エルフは弓を使ってこそだと、俺は思うけどな」
「そうかもねぇ」
「けどまぁ……なんだ、毎日頑張ってるお前のことは、偉いと思ってるぜ? ……す、少しだけな」
「…………」
何故ジェレッド君は、こうもツンデレっぽいのだろうか? 男のツンデレに需要なんてないだろうに……。
――いや、待てよ? よく考えたらジェレッド君はイケメンだ。うっかり忘れそうになるけど、僕もイケメンだ。……そうなると、ジェレッド君のツンデレに需要はあるんじゃないか?
具体的にいえば――腐女子だ。もしかしたら、腐女子の方々の需要を満たしてしまうのではないだろうか?
なんてことだ……。彼がツンデレ台詞を僕に言えば言うほど、腐の人達にそういう目で見られてしまうかもしれない……。
「お、おい。なんとか言えよ」
「……え? あ、あぁ。ありがとうジェレッド君」
「か、勘違いすんなよ? 少しだけだからな!?」
やめるんだ、ジェレッド君。それ以上需要を満たすんじゃない。
◇
「じゃあ父、行ってくるね」
「気をつけてね」
僕は父に手を振り、ジェレッド君と共に自宅を出発する。向かう先は訓練場という名の空き地だ。
「それにしても……ジェレッド君、久しぶりじゃない?」
「そうか?」
「ずいぶんと久々な気がする。……いつぶりだろう? おままごとで義兄弟になったとき以来な気がする」
「なんだそれ? ……それって、確か俺達が初めて遊んだときの話じゃないか? 懐かしいな」
そういえばそうだ、初めて三人で遊んだときだ。確か五歳だったから、もう二年前のことか……あれ?
「それ以来、ジェレッド君と話していない気がするんだけど……?」
「はぁ? なんでそうなるんだよ? つい最近だって……三日前か? 会ったばっかだろ?」
「そう……だよね? なんだろう? ごめん、忘れて?」
「変な奴だな……まぁ、いつもか」
失礼だなジェレッド君。けど、確かに変なことを言った。
そうだ、三日前に僕はジェレッド君と遊んだ。一緒に竹馬をしたんだ。竹馬をしながら全力で鬼ごっこをした。竹馬は壊れた。
おかしいな、なんで二年ぶりだなんて思ったんだろう?
なんだろうね。なんとなく、『幼馴染なはずなのに、ジェレッド君全然出てこないな』って感情が……。
「けどさ、実際そんなに
「忙しいっていうかな……」
ジェレッド君は腕を組んで目をつむり、うーんと唸っている。歩いている最中にそのポーズは危ないよ?
「あんまり邪魔すんなって言われてんだ。……いや、口では言われてないか、邪魔すんなって伝わるんだよ」
「ちょっと何言っているかわかんないんだけど?」
何の意思を感じ取っているの? ジェレッド君も超常的な存在と交信しているの?
「いや、いいや。気にすんな」
「えぇ……? あ、もしかしてジェレッドパパさんかな? リバーシで僕が忙しいから邪魔するなって? それなら、もう大丈夫だよ?」
「いや、違うし……もう聞くな」
「う、うん……」
なんだろう? けどまぁ、とりあえずジェレッド君の忠告には従っておこうかな……。
なんとなくこの話題には、そこはかとない闇を感じる……。
next chapter:腐女子の目
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