第15話 エルフの可能性
レベル5のチートルーレットから三日間、僕は何もせず日常を過ごした。逆にいえば、日常を過ごす他なかった。
三日前、僕は眠っている間に例の会議室に転送されて、ルーレットが終わると自室に戻され、朝に目を覚ました。――はずなのだが、正直いつもの朝すぎて、あれは夢だったのではないか錯覚しそうになった。
……むしろ、夢であってほしいと願うような話も多々あった。あれが現実だとするなら、二人の女神はしょっちゅう僕を見ていて、ひょっとすると今も見ているかもしれない。そう思うとイヤすぎるし、なんだか無意味に格好つけてしまいそうだった。
とにかく、これから僕がやるべきことは『ステータス』と『木工』スキルの確認、この二つだ。
……しかし、そこで問題が発生した。――僕は、両親とうまく話すことができなくなってしまったのだ。
女神二人はいろんな情報を僕にくれたが、非常に余計な情報もくれた。さきほどの『僕の24時間ライブ配信』と……両親の情事だ。
僕が生まれる過程を細かく解説してくれたディースさんには、正直不満を覚える。なんだか恥ずかしくて、両親の顔が見れなくなってしまったのだ。……うっかり両親の夜の営みを見てしまった子どもの気分だ。
まぁ、『両親の夜の営みを見てしまったこと』と『両親の夜の営みを赤の他人に伝えられること』――いったいどちらがつらいのか、僕にはわからない。
とりあえず、その赤の他人は控えめにいって頭がおかしい。さらにそいつは『私も親だ』などと抜かすのだから、決定的に頭がおかしい。
とにかくそんなわけで、ちょっと頭を冷やす時間が欲しかった。今のままでは両親の顔も見れないし、しどろもどろになってしまう。
その間は、『木工』スキルに触れておこうかと思い、父からナイフと木材を借りることにした。それくらいの会話なら、まぁ問題ないはずだ。
というわけで、なんとも照れてしまう気持ちを隠しながら、僕は父にお願いをした――
『ち、父。お、お願いがあるます……あります』
『どうしたんだいアレク、ちょっと変だよ?』
『なんでもなか。ちょっとナイフと木材を貸してほす……ほしいです』
『本当に変だよ? ナイフと木材? 何をするつもりかわからないけど、ダメだよ?』
『な、何故!?』
『危ないから』
『…………』
――正論すぎて何も言えない。そりゃあそうだ、六歳の息子に刃物は危ない。普通の親なら渡さないだろう。というか、僕はどもりすぎだな……。
――そんなこともあり、この三日間僕は、なんともモヤモヤした日々を過ごした。
そしてどうにか僕の気持ちが落ち着いた今日、今度は『ステータス』を確認できる場所を、父に聞くことにした――
「父、父。今日アレクはお願いがあって参りました」
「うん?」
リビングでのんびりお茶を飲んでいる父を見つけたので、僕は突貫した。
「どうしたんだいアレク、あらたまって? というか今日は普通だね。なんだかここ数日様子がおかしかったから、心配していたんだ」
やはり心配をかけてしまっていたらしい。あれだけ挙動不審だったんだ。優しい父はさぞかし心配していたことだろう。
「もう大丈夫。それでお願いなんだけど」
「ん? なにかな? あ、ナイフはダメだよ? それはもうちょっと大きくなってからね?」
「それじゃなくてね。えっと、んー……ステータス? を、確認したいんだ」
いざお願いする段になって。僕はどうお願いしたらいいのか迷ってしまう。
そして迷った結果、そのままストレートに伝えてしまった。はたして『ステータス』って通じるのだろうか?
――あ、『鑑定』ってスキルがあるのなら、『僕を鑑定してもらいたい』って言えばよかったか。まぁもう遅いが。
「ステータス。ステータスかー……うーん」
「父?」
何やら悩む父。この様子は『ステータス』という言葉を知らないって感じでもなさそうだ。さて父は何を悩んでいるのだろうか?
しかし僕は父を悩ませてばっかりだな……。
「……うーん。僕はね、アレクの可能性を狭めたくなかったんだ」
「可能性?」
「うん。僕達エルフには長い時間が与えられている。その分、僕達には無限の可能性があると思うんだ。やる気さえあれば、どんなことでもなんでもできる。僕はそう思う」
なんだか父はいいことを言っている気がするが、『やる気があれば、なんでもできる』の発言で、どこかのレスラーだか政治家だかを連想してしまったため、僕の心には素直に響かなかった。
「僕が心配しているのはね、ステータスを見ることで――アレクが他の選択肢を切り捨ててしまわないかってことなんだ」
「うん? どういうこと?」
「スキルは強大な力をもっているよ? ある人とない人では、技量に天と地ほどの差がつく。だからスキルを使い、スキルに頼る。逆に言えば、他のスキルを習得する機会を奪うことになるかもしれない」
「…………」
「アレクもエルフだから、『弓』スキルをもっているはずだ。例えば『弓』と『水魔法』のスキルをもっていたとしよう。『弓』スキルがあるために『剣』や『槍』を使おうとはしなくなる。『水魔法』があるために『土魔法』や『風魔法』を学ぼうとしなくなる。……僕はそういうことを心配していたんだ」
はー。父はそんなことを考えていたのか。僕の両親は結構な放任主義なんじゃないかと思っていたけど、こういう教育理念をもっていたからかもしれない。
正直、エルフなのに弓も教えてもらっていないし、エルフの心構えみたいなものは教えないの? なんて考えていた。
なるほど。両親は、僕のことを思って自由にさせていたのだろう。何かを指示するのではなく、自分でいろんなものを見て、触れて、学んでほしいと考えていたんだ。
すごいな父、優しいしイケメンだし思慮深いし、完璧だな!
「そっかー……。あ、じゃあ父が弓じゃなくて剣を使っているのも、そういう気持ちでいろんなことを学ぼうとした結果、身につけたものなんだ!?」
「え? いや、それは……ステータスを見たら『剣』スキルがあったからなんだけど……」
「…………」
なんだか話の流れが残念な感じになってしまった……。
えぇと、まぁそういうちょっと抜けている部分も、父の魅力だと僕は思うよ……?
――その後、母とも相談して、結局僕は『鑑定』でステータスを確認することにした。
父も『鑑定』で剣を始めたっていうしね……。それならまぁ、僕も『鑑定』しようかって話になるよね……。
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