第14話 チートルーレット Lv5
「……こほん。というわけでアレク君は、昨日のおままごとで無事にレベルが5に上がった。それで夜、君が眠ってからここに呼んだわけだ」
若干冷たい僕の視線にようやく気が付いたのか、ミコトさんは少し強引に話を本題に戻した。
「えぇとそれで、僕はまたルーレットを引けるわけですね?」
「そうだね。なんだかずいぶんと話が脱線してしまったけど――とにかくおめでとう」
まぁ六年分溜まったこの三人でしかできない話だ。長くなるのも仕方ないかもしれない。
とにかく僕は、『どうにかこうにか生き延びて、レベルを5まで上げてここに戻ってくる』という転生前の目標を、無事に達成できたわけだ。
……まぁ正直、何の努力もしていなかった気もするけど、とりあえず達成した。
「ありがとうございます。……じゃあもう投げても?」
僕はずっと抱きついているディースさんに対し、暗に『離れてくれます?』と伝えた。
――だがしかし、どうやら上手く伝わっていなかったようだ、ディースさんは微動だにしない。ミコトさんには伝わったようで、ディースさんを無理やり僕から引き剥がしてくれた。
「もう、ミコトは強引なんだから」
「ルーレットだルーレット。そろそろ始めよう」
「わかったわ。ちょっと待っててねアレクちゃん――はいこれ」
ディースさんは一度ルーレットの裏側に隠れたかと思うと、すぐにダーツを持って現れ、僕に渡してくれた。
ダーツには、デフォルメされた笑顔の僕が描かれていた。……芸が細かいね。
「頑張れ、アレク君!」
「頑張ってね。アレクちゃんなら今度こそ良いものを取れるはずよ!」
「ありがとうございます。ふふ、けど大丈夫ですよ。タワシより酷いものなんてないでしょう――あ」
応援してくれる二人に軽口を叩いて――その直後に僕は後悔した。
あまりにもフラグすぎる……。こんなにもわかりやすいフラグを自分で立ててしまったことに、僕は
「ふふ。そうだなタワシ以下はないな」
「うふふ。そうね、私のアレクちゃんはそんなもの引き当てないわよね」
ちょっとやめて。
「それじゃあ行くわよー――チートルーレット、スタート!!」
ディースさんがルーレットを勢いよく回す。まずい、もう始まってしまった。僕はこのフラグを折ることができるだろうか? 頑張れ僕、運命に打ち勝つんだ。
「パー◯ェーロ! パー◯ェーロ!」
……それ毎回コールするの? というかそれあるの?
いや、今はそれどころじゃない。とにかく落ち着いて、慎重にダーツを放つんだ。いざ――
「ていっ」
よし、しっかりボードに刺さった。
問題はここからだ。ディースさんがルーレットを止めるのを待ってから、僕は真っ黒いボードに近寄り、刺さった場所を凝視するが――やっぱり無理だ、エルフの目でも見えないか。
「ど、どうなんでしょうか?」
「よかったわね、今回はちゃんとしたスキルよ?」
スキル!?
「――おめでとうございます! 『木工』スキル、獲得です!!」
ディースさんはにっこりと僕に微笑み、祝福してくれた。やった、フラグを打ち破ったぞ! ちゃんとしたスキルだ。『木工』スキル! ……『木工』スキル?
「『木工』スキルですか?」
「そうよ。ちょっと待っていてね」
やはりルーレットの裏側に隠れるディースさん。……あの裏側はいったいどうなっているのだろう?
ほとんど待つこともなくディースさんは戻ってきたが、手には小さなコップを持っていた。
「じゃあこれ、おめでとう」
「……なんですかこれ?」
「それを飲んだら、アレクちゃんは『木工』スキルを取得できるわ」
僕はディースさんから、黄土色の液体が入ったコップを手渡された。
『木工』スキルだからこの色なのだろうか? ちょっと躊躇してしまう色だ……。とはいえ、ここでやめるという選択肢もないよな……。
「えぇと、ではいただきます……」
こくりこくりと黄土色の液体を飲む僕。
……微妙な味だな、あまりおいしくない。柑橘系のジュースっぽいのだけど、微妙な酸っぱさと、舌にまとわりつくような甘さがある。あと、ぬるいのもおいしくない原因かな?
まぁ味はどうでもいいか。とにかくこれで僕は、スキルを取得できた……のか?
「これで僕は『木工』スキルを取得できたんですよね? というか『木工』スキルってどんなスキルなんですか?」
飲み干したコップを会議室のテーブルに置き、二人に尋ねる。
「うん。ちゃんと取得できたみたいだ。『木工』スキルっていうのは――」
「ダメよミコト。……ごめんなさいアレクちゃん。いくら息子のお願いでも、それは答えられないわ」
答えようとしたミコトさんを止め、申し訳なさそうな顔で僕に謝罪するディースさん。いや、別に息子ではないけれど。
「えっと、答えられない質問なんですか?」
「だって一から十まで説明したらつまらないでしょう? 自分で効果的な使い方を創意工夫することも、ありとあらゆるチートを取得できるチートルーレットの醍醐味だと思ったの。だから多くは説明しないと最初に決めたわ。いくらアレクちゃんが息子になったとしても、簡単に神がルールを覆すことはよくないわ、神だもの」
「あぁ、そうだったな。すまないアレク君。私も答えることはできない」
神のルールって聞くと、なんだか恐れ多いな……。
というか、さっきからディースさんが僕のことを息子息子って言っているけど、じゃあ僕は神の子なのか。メシアじゃん、なんだか恐れ多いな……。
「そういうことならわかりました。帰ってから、いろいろ自分で試してみたいと思います」
「まぁ、ちょっとした概要だけなら答えられるわ。名前でわかると思うけど、木材を加工するときに補正が付くスキルよ」
「はー、なるほど」
「むしろ、それが木工スキルの全てな気がするわね……あら? いきなり神が自らのルールを破ってしまったかしら? ……まぁいいわ。とにかく、ちゃんと有用なスキルだから安心して? というか、基本的にチートルーレットの中には有用なスキルかアイテムしかないのだけどね……」
タワシよ……いつか役に立つのだろうか……。
しかしタワシの次は木工か。言っちゃなんだが、地味だな……。『チートルーレット』の『チート』部分がまったく仕事をしていない……。
「よし、これで無事にレベル5のチートルーレットが終わったな。次はレベル10か、応援しているよアレク君」
「え、もうお別れなの? 六年待ったのよ!?」
またディースさんが僕に抱きついてぎゅうぎゅうしてくる、内臓出ちゃうよ。
「やめろというのに……」
今度はすぐにミコトさんが救出してくれたので、僕は間髪入れずに――
「名残惜しいですけど、そろそろ戻りたいと思います。では、またレベル10で会いましょう」
僕は別れの挨拶を二人に送った。正直ちょっとディースさんが怖いので、さっさと戻りたい気持ちがある。
「うん、じゃあまた。体に気をつけて、無理はしないように」
「ありがとうございますミコトさん。僕はもう戻りますけど、ディースさんのことをよろしくお願いします」
「私を心配してくれるのね!? 優しい息子をもって私は幸せだわ!!」
……ある意味すごく心配している。レベル10になるまでにミコトさんがどうにかしてくれることを祈ろう。
さて、では元の世界に……あれ? 元の世界に戻るにはどうしたらいいんだろう。
そんなことを考えていると、ミコトさんが「ほら、ほら」と言いながらディースさんを捕まえて、無理やり右手を僕に向けさせる。転生したときと同じパターンかな?
ディースさんはしぶしぶ転送の準備に入ったらしい。ディースさんの右手に光が集まってきた。やはり目が開けていられないほどの眩しさを覚え、僕は目をつぶる。
――そして僕は転送された。
next chapter:エルフの可能性
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