第13話 二十四時間ライブ配信


「すまない。気が付いたらもうこんな感じになっていた」


「ミコトさんが謝ることじゃないですけど……」


 ただ正直こんな状態になる前に、そっちでなんとかしてほしかった……。

 現在僕は、椅子に座ったディースさんの膝の上に座っている状態だ。そしてディースさんは、僕を後ろからぎゅうぎゅう抱きしめている。


 後頭部は幸せだし呼吸もできるし、とてもうれしい状況なのだが、背後のディースさんが得体のしれないものに感じて、なんとも喜びに浸れない。


「何度も『お前それはちょっと違うぞ』と忠告はしていたんだが、聞いてくれなくてだな……」


「その忠告というか説得は、引き続きお願いします……」


 僕にはもう、前世と今世で母は二人いるんだ。ディースさんみたいにエロスも恐怖も感じない、ちゃんとした母だ。


「ま、まぁとにかく、無事に再会できてなによりだ」


「えぇ、そうですね――って、その前にですね」


「ん?」


「レベル5になったらここへ来るって約束だったと思うんですけど、何故僕はここにいるんでしょう? ……ディースさんがこんな感じになっちゃったからですか?」


 まずそれが知りたい。ディースさんの奇行のせいでずいぶん延び延びになってしまったけど、ここへ来て、最初にそれを聞こうとしたんだ。


「うん? 君はもうレベル5だぞ?」


「……え? でも僕は、まだモンスター一匹すら倒していませんよ?」


「あぁ。別にモンスターを倒すだけがレベルアップの条件じゃないんだ。レベルアップには経験値が必要だけど……正直、何をしていても経験値は得ている、もちろん量の差はあるけどね。例えばご飯を食べるだけでも、歩いたり走ったりするだけでも微量の経験値を獲得しているんだ」


 そうなのか。ジワジワ経験値を得て、六年でレベル5になったのか……。

 あれ? じゃあ、僕はこれまでで四回レベルが上がったの?


 ……全然気が付かなかったな。もうちょっとわかりやすく知らせてほしい。そりゃあ別に、ファンファーレを鳴らせとまでは言わないけどさ。


「それにしても詳しいですね。確かミコトさんは、僕がいる世界のことはわからないと言ってましたが」


「ふふ、調べたんだ。元はといえば、私のせいで君は転生することになったんだ。ディースに全部まかせて、それでおしまい――なんて、そんな不義理はできないさ」


「そうなんですか……。それはお手数おかけしました、ありがとうございます」


 なんてことだ。ディースさんが僕を抱きしめ、僕の匂いを嗅ぐだけの生物と化した状況で、ミコトさんが頼りになりすぎる。


「構わないよ。正直、私もちょっと楽しんでいる部分もあるしね」


「楽しんでいる部分?」


「うん。君の生活を見ているのは楽しい。昨日の『積荷を全部なくしてしまった商人』の話も面白かった。あぁ、そうだった。あれでちょうどレベルが5に上がったんだっけ。それで夜に――」


「はぁ!?」


 僕が突然上げた大声に、ビクッとするミコトさん。申し訳ない。

 ……だけどそれって、昨日レリーナちゃんとやっていたおままごとの話だよね? ……え、見ていたの?


「……み、見ていたんですか?」


「あ……。う、うん……だ、だって神だし」


「私もあのおままごとは大好きよ! お友達と仲良くほのぼの遊んでいる姿を見ると、アレクちゃんがより愛おしくなるわ」


 こんなときだけ会話に参加してきたディースさんは置いといて……『だって神だし』か、なんだその言い訳。妙に説得力があるようなないような……。

 むしろ天界から地上の人々を見ることこそが神の仕事だったりするのか?


 いやけど、さすがに恥ずかしすぎる……。うわー、どれだけ見られていたの?


「だ、大丈夫だ。変なとこは見ていないから」


「大丈夫って……」


 見られているだけでイヤなんですけど……。

 あと、三十三歳が六歳の幼女と大喜びでおままごとしている姿は、十分変なとこだと思う。


「そ、それに見ているからこそ、的確なアドバイスもできると思うんだ」


「アドバイスですか……?」


「うん。君は今まで、ことあるごとに『ステータスオープン』って言ってきただろう? 最近でも月に一回は言っていたはずだ」


「…………」


 もうその発言だけで、僕はかなり頻繁に見られているってことがわかるね……。

 まぁ、確かにステータスの件は諦めきれず、ちょくちょく言ってるけどさ……。


「私は君が何をしたいのかわからなくて。ディースに聞いたんだ『彼はいったい何をやってるんだ?』って」


 すげえ恥ずかしいんですけど……。

 なにを二人で揃って僕を鑑賞しているのさ……。勝手にリアリティー番組の出演者にされた気分だ……。


「ディースに聞いてわかったんだけど、詰まるところ君は自分のステータスを確認したいんだろう?」


「ええ、まぁ参考というか、今後の指針にもなるでしょうし……え、確認できるんですか?」


「うん。『鑑定』というスキルがある。それで君のステータスも確認できるよ」


 おお、やっぱりあったか、異世界転生の基本にして奥義『鑑定』! ――って、あれ?


「じゃあ、結局僕はあれで――ルーレットで『鑑定』を引かなければ、見ることはできないんですか?」


 僕はちょっと存在を忘れかけていたチートルーレットを指さす――つもりが、ディースさんにがっちりロックされていたので、しかたなくルーレットに視線だけを送った。


「それも一つの手ではあるけど、もっと簡単な方法があるよ。確かに鑑定はちょっと珍しいスキルだけど、所持者がいないわけじゃない。それに、鑑定が必要な場面は多くある。だから――魔道具が作られているんだ。君の村にも一つあるよ? それで鑑定してもらえるはずだ。詳しい場所はお父さんに聞いてみるといい」


「はー、そうなんですか。『鑑定』みたいなスキルも、魔道具で発動できるんですねぇ」


 なんと、普通に役立つ情報をもらってしまった。


 ……ただその情報が、僕の二十四時間ライブチャット配信の対価として釣り合っているのか疑問が残るところだ。

 二十四時間だぞ二十四時間。どんなにやる気のあるチャットレディだって、もうちょっとプライベートあるぞ?


「ど、どうだい? なかなか役に立つ情報を提供できただろう? あとはそうだな、何故か君のおままごとは獲得経験値が多いから、これからも続けるといい。……個人的には明るい話が好きだ。ヘズラトとの友情話みたいなのもよかったけれど――」


「あ、リクエストいいの? 私はドロドロした愛憎劇みたいな話が好きだわ!」


 リクエストやめて。本当にライブチャットみたいになっちゃう。

 というか、名前なんて言われても覚えていないよ。誰だよヘズラトって。


「三人の義兄弟の誓いもよかったな」


 あぁ、さすがにそれは覚えてる。僕達幼馴染三人が、初めて一緒に遊んで仲良くなった日のことだ。


「あれもよかったわねー。盃を交わして兄弟になって……いわゆる任侠ものってやつでしょ? ジャパニーズマフィア?」


 だいぶ違う気がする。少なくとも僕達は、そんな意識ではやっていない。


 というか……なんか二人でキャッキャしてますけど、もういい加減に僕のおままごと話はやめてほしいんですが……?





 next chapter:チートルーレット Lv5

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