第10話 さっさと俺に落ちな!
「やぁやぁジェレッド君。ちょっといいかなー?」
「な、なんだよお前!」
ササッとジェレッド君の肩に腕を回し、彼を引き連れて歩く僕。……近くで見ると、やっぱりイケメンだなこいつ。
軽くイラッとしながらジェレッド君と一緒に歩く。ジェレッド君も、案外従順に付いてくる。
――今度会ったらジェレッド君も誘おうと、レリーナちゃんと約束してから数日後。
『今日もおままごとかー、今回はどんな役柄が僕に憑依するんだろう』そんなことを思いながらレリーナちゃんと歩いていると……ジェレッド君が遠くからこちらをうかがっているのを発見した。
どうやら本当に僕達と遊びたかったんだな。もうちょっとやり方なかったのかジェレッド君……。とりあえず気付けてよかった。
僕はさっそくレリーナちゃんに待つように言ってから、ジェレッド君の元へ向かう。ここから先はタフな交渉が待っている、レリーナちゃんにはまだ早い。
そうして、サクッと彼を確保して連行したわけだ。
「離せよ! なんだよいきなり!」
元気だなぁジェレッド君……。
さて、どう誘おうか? あんまり考えていなかった。まぁ友だちに飢えている彼なら、何を言ってもホイホイついてきそうな気もする。
とはいえ、素直になれないジェレッド君だ、ここは僕が下手に出ようじゃないか――
「一緒に遊んでやるから来いよ」
……考えていたことと真逆の言葉が出てしまった。転生してから今までで、一番乱暴な物言いじゃないかな? どこのオラオラ系だよ。
どうにも彼がイケメンなのが悪い、イケメンは敵だ。他の大人に対してはそんなこともないのだけど、同年代だと敵意がにじみ出てしまうらしい。
「な、なんで俺がお前と遊ばなくちゃいけないんだよ!」
ジェレッド君は僕の乱暴な口調は気にしないでくれたようだ。まぁ普段の僕を知らないだろうしね。
……いや、むしろ僕が普段からこんな言動だと思われるのは心外なんだけど。
「僕が君と一緒に遊びたいからだよ」
「……う」
『いつも一人で僕達を見ている君が可哀想で』って枕詞がつくけど、それは言わない約束だ。
さぁどうだ? 適当に殺し文句っぽいことを言ってやったぞ? さっさと俺に落ちな!
……なんだかジェレッド君相手だと、オラオラ系の僕が出てくる。
「べ、別にお前と遊びたくなんかないし!」
うそつきなよ。いつも僕達を見ていたんでしょ? あとその微妙にツンデレっぽい口調をやめなさい。
「なるほどね、もしかして怖いんだ?」
ちょっと
「はぁ!? 何がだよ、怖いことなんかあるか!」
「いやいや、無理しなくていいよ? レリーナちゃんと遊ぶのが怖いんでしょ? そういえば、この前も女がどうこう言っていたね。女の子と仲良くしたり、うまくおしゃべりする自信がないんだ?」
「そんなことあるわけないだろ!」
ないのか、僕はちょっとあるぞ。
とりあえず煽ってみるのはいい作戦っぽいかな? よし、このまま釣り上げてやる。
「うーん、けどちょっとジェレッド君には厳しいんじゃないかなー? 僕も無理を言ったよ。ごめんね? そもそも女性に対してだね――」
その後、さんざん煽り倒しつつ、レリーナちゃんにもちゃんと優しく接するようにフェミニズムを軽く押し付け、最終的にジェレッド君に――「お前達と、おままごとを!? ……できらぁっ!」と言わしめる。
なかなかにタフな交渉だったが、なんだかやり遂げた充実感が僕を満たした。
◇
「言ったからにはやるけどよ、おままごとか……」
「まぁ実際やってみると案外楽しいもんだよ。やるたびに新たな自分を発見できる……」
「なんか怖ぇな」
なんだかんだ長いこと話しているうちに、僕とジェレッド君はちょっと仲良くなった。この通り、普通に会話もできている。僕の交渉術もたいしたもんだね。
「どうせ遊ぶんなら、俺は弓の練習とかの方がいいな」
「え、それはちょっと興味あるな」
「そ、そうか?」
ちょっと嬉しげなジェレッド君。
にしても、遊びの一つに弓が出てくるあたり、さすがエルフだな。僕はまだ弓とか触ったことがないのだけど、そのうち僕にも父が教えてくれるのだろうか?
「だけど今日はダメ、今日はおままごとの日だから。弓はまた今度だね」
「あ、あぁ。わかった」
これまた嬉しそうなジェレッド君。きっと友だちと約束するのが嬉しいのだろう、ぼっちの気持ちは僕もわかる。
「じゃあ早く戻ろう。だいぶレリーナちゃんを待たせちゃった」
「おう」
うんうん。もうジェレッド君は僕の友だちといってもいいんじゃないかな? ジェレッド君が案外チョロか――素直な子でよかった。異世界で二人目の友だちだね。
next chapter:桃園の誓い
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