第6話 幼馴染


 転生して一年経った。僕は満一歳になった。

 ちなみに、この世界も地球と同じで、七日で一週間、五十二週で一年らしい。


 体もすくすくと成長した。もう歩けるし喋れるし食べられる。視力も発達して周りもよく見えるようになった。――その結果、気付いたことがある。


 両親が……なんだかとんでもないイケメンイケジョだった。

 スラブ系っぽい金髪碧眼の男女なんだけど、母はきらめくようなプラチナブロンドに、神秘的なエメラルドの瞳。父も蜂蜜色のブロンドに、美しいサファイアの瞳。二人ともすらりと伸びた手足に、透けるような白い肌をもつ、怖いくらいの美男美女。


 たぶんだけど、その二人の息子である僕も結構なイケメンに成長できるはずだ。……できるよね?


 そして歩けるようになった僕は、家の中を探索して回った。

 家自体は普通の木造家屋らしい。電気は通っていないけど、中はかなり発展している、魔道具のおかげだ。


 魔道具とは、その名の通り魔力で動く道具で、照明器具や調理器具、冷蔵庫らしき魔道具まであった。おかげで家の中はなかなか快適だ。

 器具にはめ込まれている宝石らしき物に魔力を流して起動させるのだが、試しにやってみたら僕でも稼働して、ちょっと感動した。


 しかし幼い僕に魔道具は危険だと両親は考えたようで、勝手に触ったことを注意されてしまった。僕は素直に「ごめんなさい」と謝罪した。


 ……とまぁ、こんなふうにちゃんと喋れるようになったけど、『ステータスオープン』でステータスはオープンしてくれなかった。なんでだ。



 ◇



 現在、僕は母と一緒にお出かけの最中だ。家から外に出るのは初めてで、ちょっと緊張している。母に抱かれて移動しながら、僕は周りをキョロキョロと見回す。


 うーむ……。のどかな風景だ。自然を感じられる――といえば聞こえはいいが、要は田舎だ。住宅より畑の方が多いかもしれない。

 家はどれも我が家と似た感じで、平屋建ての木造家屋が多い。丸太を組んだログハウスもいくつか建っている。畑には、農作業をしている人もちらほら見かける。


 ……なんか美形多くない? さすがに僕の両親ほどじゃないけど、それは二人が桁外れの美形だからであって――というか初めて見た村人達も、十分に桁外れの美形なんだけど?

 なんだかイケメンがインフレし過ぎてよくわからなくなってきた。イケメンしかいない村なのか、ここは?


 美男美女が農業に勤しむ姿にどことなく違和感を抱いていると、目的の家に着いたようだ。

 母はドアに取りつけられたノッカーをコンコンと鳴らし、訪問を知らせる。しばらくすると赤子を抱いた女性が現れた。


「あぁ、よく来たねミリアム――おや? 坊やがアレクちゃんかい? セルジャンとミリアムに似て、可愛い顔をしてるじゃないか。さ、入っとくれ」


 そう言って中に招く女性、僕らもその後に続く。すると女性に抱かれた可愛らしい赤ちゃんが、じーっと僕を見ていることに気が付いた。少し照れる。


 ちなみに、『セルジャン』は僕の父の名前だ。母は『パパ』としか呼ばないので、油断すると忘れそうになる。


 さて、つまるところこれは、ママ会というやつだろうか? ママ友どうしで近況を語り合ったり、育児の苦労話なんかをするんだろう。

 そんな会合で赤子の僕はどう振る舞ったらよいものか? 母の膝の上に座り、出されたお茶をぼーっと眺めながら僕は考える。


 最近一歳児がどういうものかわからなくて、ちょっと困っていたところなんだ。あんまり子どもらしくない行動をして、両親に変な心配をかけたくない。


「アレクちゃんは随分大人しくてしっかりした子じゃないかい? レリーナも見習ってほしいねぇ」


 ぼーっとしているだけで高評価をいただいてしまった。確かにレリーナちゃんとやらは、お母さんにべったり引っ付いて、何やらお母さんを登ろうとしている。確かに落ち着きはあまりなさそうだ。


「知らない家に来て少し緊張しているのかもね。家ではちょっと目を離すと一人で歩き回るから困っているわ。……それに、あんまり喋らないのよね」


 母が僕を撫でながらため息をつく。

 いつの間にか、変な心配を母にかけていたようだ。歩き回ったのは申し訳ない。喋らないのは、一歳児がどのくらい喋れるのか基準がわからないんだ……。


 ――そうだな。ちょっとレリーナちゃんを参考にしてみようか? だいたいレリーナちゃんも、僕と似た年齢じゃないかな?


「子供の言葉なんて個人差があるもんさ。レリーナなんて『まんま』しか言わないよ。あたしやメシのことはまだしも、旦那のことまで『まんま』って呼ぶんだよ」


 がっはっはっと豪快に笑うレリーナママ。ちなみにレリーナちゃんのお母さんも、口調だけなら肝っ玉かあさんだけど、しっかり美女である。ギャップがすごい。どうなっているんだこの村は。


「まんま、まんま」


 あぁ、本当だ。レリーナちゃんが『まんま』って言ってる。

 ……え、これを参考にするの? もう前世と合わせて二十八歳の僕にはレベル高いぞ……。


「とにかくこんなレリーナだけど、アレクちゃんも仲良くしてくれるかい?」


「あい」


 とりあえず返事をする僕。

 ……ん? もしかしてレリーナちゃんは、僕の幼馴染ってやつになるのか?


 そうか、幼馴染か……。なんだか胸がときめくワードである。


 幼馴染といえば……ずっと仲良く遊んでいたけど、ある時から疎遠になったり、また話すようになったり、ちょっぴり異性を感じちゃったり、気が付いたら彼氏ができていたり、いつの間にか結婚していてベビーカーを押す姿に遭遇したり――


 幼馴染とは、そんな青春を感じさせる、ときめきワードだ。

 ……なんか後半の方は、あんまりときめくって感じでもなかったけど。


 そんなことを考えていると、またレリーナちゃんが僕をじーっと見つめているのに気が付いた。

 そこまで純真な視線を送られても、正直僕はどうしたらいいかわからない。やっぱりレリーナちゃんを参考にして、僕も視線を送り返すべきなのだろうか?


 だけど実質二十八歳の僕としては、可愛らしい赤ちゃんにそんな熱視線を送ったりしたら、通報されるんじゃないかと、どうしてもビクビクしてしまう……。


 やっぱり一歳児の正しい言動は難しいな……。いろいろと悩みながらも、どうやら幼馴染ができたっぽい僕であった。





 next chapter:スライムと父と女神に感謝を

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